【生産技術のツボ】プレス加工現場における安全対策のポイント

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プレス作業現場の安全対策
プレス加工は、日本のモノづくりを支える根幹となる生産技術のかたまりです。プレス機は、金属の金型などを強い力で押し付けて加工する装置です。

しかし、一方でプレス現場の作業は、手や体の一部をはさまれると大事故につながりかねません。生産現場の中でもプレス現場は危険区域属します。従って、厳密に安全管理されているのがプレス現場です。
今回は、プレス作業現場の安全対策について取り上げます。

1. プレス装置と金型

まずは、本題に入る前に、プレス装置と金型について説明します。
下の図はプレス装置の主要部を模式的に示しています。
下側の金型(下型)をボルスターと呼ばれる厚板に固定し、上側の金型(上型)をスライドに固定し、スライドを上下に往復運動させることで上型と下型の間に挟んだ被加工物をプレス加工します。

プレス装置の説明
 

プレス作業現場では安全確保の為に、ハード面としてプレス装置の安全対策が備えられています。
またソフト面としてプレス作業の安全を徹底するために、様々な活動の実施が必要です。
以下、これらの対策の種類・方法とそのポイントをご紹介します。

 

2. プレス装置の安全対策(ハード面の対策)

(1)固定式の安全ガード

プレス装置の側方、前方下、背面開口部、回転部など作業者が通常はアクセスが不要な部分については、ガードすることにより人体の侵入を防止します。危険区域まで到達できないようにするための物理的なバリアとして設けられた固定式の安全ガードのことです。

ガードにはいくつか種類がありますが、これらはボルトで固定されたガードのため、通常の運転時はガードされた状態です。装置故障などに、保全作業者が装置内を修理するときのみ、必要に応じ安全ガードが外されます。
従って、通常の運転時に、万一この安全ガードが外れていないか点検が必要になります。
 

(2)光線式安全装置(セーフティ・ライトカーテン)

プレス装置の正面側はワークの投入、セッティング、取り出しなど為に、装置のなかへ作業者のアクセスが必要となります。

この部分の安全機構は、プレス装置が動いている時に、身体の一部が侵入した場合に、プレス装置が作動しなくなるという機構です。つまり、センサーで侵入を検知し、制御的に動作を制限する安全機構です。

具体的には、装置正面の開口部の片側に設置した投降装置と、反対側の端に設置した受光装置からなる光電センサーで、一定の間隔で光軸を設けてあり、人が手をいれるなどして遮光されたことを検知する機構です。
プレス装置の作動中において遮光が検知された場合に、危険なプレス動作を瞬時に停止させるといった制御が働きます。

一方で、装置が作動している状態で、工場見学者などが、装置の内部を見ようとして、うっかり光軸を遮断してしまうと、装置は瞬時に停止し、復帰に相当な時間を要してしまうという欠点もあります。
しかし、安全が第一ですので、光線式安全装置は不可欠な安全機構です。

光線式安全装置の説明
 

(3)両手操作式押しボタン

両手操作式押しボタンは、プレス装置の作動を開始させるため、両手を使いボタンを同時に押さなければ作動しない機構です。片方の手や身体が、危険領域に入ることを防ぐものです。

この押しボタンは、両手同時に操作が必要で、時間差にして0.5秒以上だと動きません。
そのため、片手ではどれほどすばやく操作しても、動かないということです。

この両手操作式押しボタンの真ん中に、赤色の非常停止ボタンが設置され、万一危険が発生したときに装置を停止させる機構も備えています。
 

(4)安全ブロック

金型の交換・取付などのため、プレス装置の危険域へ身体の一部を入れて作業が必要になる場合があります。
この作業時に不意にスライドが降下することを防止するために、ボルスターとスライドの間につっかい棒として、安全ブロック入れて使用します。
この安全ブロックがあるとないとでは、金型取替え作業時の安全性が格段に違ってきます。
 

3. 安全対策活動(ソフト面の対策)

プレス作業現場の安全の確保は、装置の安全対策のみでは達成することはできません。
主に以下のような活動が重要となります。

(1)5S活動

プレス作業現場の床は、加工油で非常に滑りやすく危険な状態です。頻繁に拭き掃除を心がけましょう。

プレス現場では予想外の障害物などによる事故は大きな災害につながる可能性があり、整理・整頓・清掃の徹底が必要です。
さらに、怪我を防止するために安全靴はもちろん現場によってはヘルメットの着用も義務づけられます。

5S活動の取り組みはプレス現場の安全を確保するため不可欠な活動となります。
 

(2)安全教育

装置自体の安全対策が十分備わっていても、その対策の意味を理解していないと、思わぬ事故の発生原因となります。
例えば、両手押しボタンを2人で押してしまえば、安全対策は無意味となってしまいます。
そこで、プレス現場の新人作業者には、安全教育が不可欠になります。
プレス機械の安全装置の構造及び機能の概要などについて、熟練作業者、生産技術者から新人作業者へ定期的な教育が必要になります。
 

(3)プレス作業現場のリスクアセスメント

「リスクアセスメント」という言葉になじみのない方もいらっしゃると思いますが、プレス作業現場のリスクを予防するための重要な活動です。
現場を視察し、作業に起因するケガや病気の可能性を評価・査定し、対策処置を実施することにより、先取りの安全対策を推進する活動です。

活動のメンバーは、工場長、プレス作業現場の班長、生産技術者、保全管理者などが中心になり、定期的に実施していきます。具体的な実施手順は以下です。

  1. 危険性または、有害性の特定
  2. 例:活動メンバーで、金型作業の現場を視察したところ、プレス装置と型のすきまに手が挟まれる危険性があることを特定。

  3. リスクの評価・査定
  4. 例:新人の作業者では、重度の災害発生の可能性ありと危険性を査定。

  5. 対策の優先順位の設定、安全対策の検討
  6. 例:金型交換作業時の安全対策は、大至急実施する必要があり、対策方法は生産技術が中心となり検討していく。

  7. 安全対策の実施
  8. 例:プレス装置の両側に安全ガードの設置。

  9. 効果の確認
  10. 例:活動メンバーで、再度金型作業の現場を視察し、作業安全の確保を確認。

 

以上、プレス作業現場の安全対策についてまとめてみました。
重大事故を防止するには、ハード面の対策だけではなく、ソフト面での地道な対策を継続的に推進していくことが不可欠と言えるでしょう。
工場、生産現場のマネージャーの皆さんは、そのことを肝に銘じで日々の活動に取り組みましょう。

 
(アイアール技術者教育研究所 T・I)
 


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