金属疲労・疲労破壊が発生するメカニズムとその対策
金属疲労とは?
疲労という言葉は一般的に使用されており、人が様々なストレスにさらされて疲れた状態のことを疲労といいます。そして、金属にも疲れた状態があります。
金属疲労は、比較的小さい応力でも繰返し受けることで、材料に小さな割れが発生し、それが少しずつ進行して、最終的には破壊にいたる現象です。
金属疲労がなぜ問題になるのか?
金属が破壊するのにはいくつかのパターンがあります。
最も単純なケースとして引張試験のように応力をかけ続け破壊するものです。この場合、破壊の前に変形が起こるため、確認は容易です。
しかし、金属疲労の場合、大きな変形は起きずに小さな割れが起こるだけです。そのため、疲労の発生確認と破壊までの予想時間が困難です。
金属材料は自動車や航空機、建築物などに使用されています。これらはほとんど常に応力がかかる状態であるため、金属疲労が起こります。実際の金属材料の不具合や事故の多くはこの金属疲労が原因です。
金属疲労破壊に対する取組み
金属疲労破壊に対しては“機械的な取組み”と“金属材料的な取組み”があります。
前者の設計コンセプトは材料に負荷される応力を出来る限り少なくすることで、材料力学、破壊力学、応力計算などを扱います。
後者の設計コンセプトは材料が出来る限り破壊させないことで、起点調査、破面解析、金属組織などを扱います。
ここでは金属材料的な取組みを見ていきます。
疲労破壊のメカニズム
疲労破壊を適切に防止するためには、疲労破壊発生のメカニズムについての知識が不可欠です。
疲労破壊とは材料に繰返し応力がかかることで、表面または内部の欠陥や割れなどを起点として小さい割れが徐々に進行し、最終的に構造物が破壊する現象です。
ここで、疲労破壊の対策が立てられるのは、はじめの「表面または内部の欠陥や割れ」と次の「小さい割れの進行」段階の2つです。最終的な破壊が発生してしまったら、もはや手遅れです。
表面または内部の欠陥や割れ
金属材料は見た目では完全に均一な構造物に思われがちですが、厳密には数μmからnmレベルのサイズの不純物介在を含んでいます。また、鋳物であれば、同じサイズの引け巣などの欠陥も出る場合があります。
もちろんこれらすべてが疲労破壊の起点になるわけではありませんが、そのサイズが大きくなるほど、量が多くなるほど疲労破壊の起点になる可能性が高くなります。
不純物介在物はもちろん溶解、精錬の工程にて出来る限り少なくすることが望ましいです。しかし、少なくするのにも限界があるため、その場合は別の元素を少量添加して有害な効果を無害化する対策が行われます。
一方、材料の性能を高めるために特定の元素を少量添加することがありますが、これもサイズが大きくなると性能を高めるのではなく、疲労破壊の起点になる可能性があるので注意が必要です。一般的に粒子などが微細分散するためには溶解や固溶温度からの冷却速度を高めることが有効です。粒子が粗大成長する時間を与えないことです。
材料の欠陥を考える時に他に重要なこととして偏析があります。
金属材料の元材(特に丸棒の場合)の特性として表面と中心に不純物が集まりやすいのです。
金属の凝固過程(溶湯が固体に固まること)を考えると、最初に金型などに接触している箇所から凝固が始まります。ここが凝固後は表面になる所です。そして表面から内部に向けて凝固が進行します。この時、不純物元素を排出しながら凝固が進行するので、その領域は清浄度が高いです。そして最終凝固部分には不純物元素が集中するので最も偏析している場所になります。
通常の金属製品ではこのような最終凝固部は使用しませんが、このような現象があることを知ることはとても重要なことです。
小さい割れの進行
小さい割れは徐々にゆっくり進行します。
そのため、材料の組織、強度、硬さなどによってその速度が変わります。一般的に組織が均一に微細であり、硬い材料は割れの進行が遅くりになります。そして金属材料はその化学組成だけでなく材料組織によって強度や伸びなどの特性が変わります。
例えば鉄鋼材料は、通常はフェライト、パーライトと呼ばれる組織をしていますが、これに焼入れという熱処理を行うことでマルテンサイトという非常に硬い組織になることが知られています。
強度や硬さに関係することとして、金属の強化機構があります。
これには固溶強化、析出強化、転位強化、結晶粒微細化強化の4種類があります。
- 固溶強化とは材料に別の合金元素を添加して組織そのものを強化することです。
- 析出強化はアルミニウム合金のジュラルミンに代表されるように、硬い析出物を微細分散させて材料を強化することです。
- 転位強化は材料に鍛造や圧延などの加工を行い多くの転位やひずみを導入させて強化することです。
- 結晶粒微細化強化とは材料の結晶粒を微細にすることで材料が強化されることです。これはホールペットの式としても知られています。
なお、これらの強化機構は結晶粒微細化強化以外は硬くしすぎると伸びがなくなり、脆くなるので注意が必要です。