【機械設計マスターへの道】熱交換器の種類・分類と特徴、伝熱計算の基礎知識

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熱交換器の解説

固体壁の両側に、高温流体と低温流体を通して熱量の交換を行う機器を「熱交換器」(Heat Exchanger)といいます。

熱交換器は、熱伝導と熱伝達という2種類の熱移動理論を用いて、高温流体と低温流体の間で熱量の交換を行います。熱交換する流体の組合せとして、”液体対液体”、”ガス対ガス”、”液体対ガス” があります。

熱交換器は、温度制御による機械の保護(過熱・過冷却防止)、温冷熱利用、冷暖房などの目的のために広く用いられています。目的により「冷却器」「凝縮器」「加熱器」「再生器」など様々な呼び方があります。

今回は、熱交換器の基礎知識をわかりやすく解説します。

1.熱交換器の分類

(1)流動方式による分類

高温流体と低温流体が同一方向に流れる並流形と、互いに反対方向に流れる向流形があります。
他に、一方の流体の流れに対して、他方の流体が直角の方向に流れる直交流形もあります。
向流形は、高温流体と低温流体の平均温度差を大きくとることができて有利ですが、流体の種類、特性や、熱交換器の設置条件などにより使い分けます。

流動方式による分類

(2)構造上の分類

① 多管式(シェル・アンド・チューブ)

シェル内部に多くの伝熱管を設け、その管壁を隔ててシェル側流体と管内流体の熱交換を行う装置で、熱交換器として最も多く用いられています。
基本構造は、伝熱管内を流れる流体が出入りする管側ノズルの付く固定頭部、熱交換が行われる胴部、管内流体が折り返す後頭部(シェルカバー)、から構成されます。
胴部内部には、熱交換性能を上げるために邪魔板(バッフル)を設けた構造のものが多く用いられます。

管の構造により、次の3種類があります。
 

(ⅰ)固定管板式

管両端を管板に固定した構造です。構造は単純になりますが、熱応力を逃がすために必要に応じて胴壁に伸縮継手を入れます。

固定管板式
 

(ⅱ)遊動頭式(フローティングヘッド)

後頭部側の管板を固定せずに、管が自由にスライドできる構造とすることにより、熱応力を逃がすことができます。

遊動頭式
 

(ⅲ)U字管

管をU字状に曲げ加工して、後頭部側には管板を設けずに折り返し、固定頭部の管板に固定する構造です。
U字管は、後頭部側に自由に伸縮できるので、熱応力を逃がすことができます。

U字管
 

② 二重管式

大小2つの同心管を使用して、円管(内管)内に流れる流体と、外管と内管との間のすきま空間を流れる流体との間で熱交換する装置です。
伝熱面積10~20[m2]程度以下の比較的熱交換量の小さな用途に適用されます。伝熱効果を上げるために、内管にフィンを付けた構造のものもあります。
 

③ プレート式

薄い平板の周囲にガスケットをはさんで重ね合わせて締め付け、間に間隔2~6mmの空間室を作って1つおきに2つの流体を流し、薄板(伝熱プレート)を通して熱交換を行う構造です。
伝熱プレートは波形模様を刻んだ厚さ0.6~1.5mmの金属板です。

プレートの波形は、渦流を起こして伝熱性を上げる、伝熱面積を増やす、プレート強度を上げる、などの目的で設けられます。
多管円筒式に比較して、同じ伝熱量に対して小型化できる利点がありますが、圧力損失が大きいこと、ガスケットを使用する構造上、温度・圧力条件や流体性状に制限がある、といった短所があります。

プレート

 

2.伝熱計算(概要)

(1)対数平均温度差

熱交換器内部では図に示すように、高温流体、低温流体ともに流路に沿った温度変化は一定とはならず指数関数的な変化をします。
そこで、流体間の温度差は、一般的には次式に示す対数平均温度差 (LMTD)θlm を用いて表します。

 θlm =(θ12 )/ ln(θ12)
 θ1 : 熱交換器の高温流体入口における流体間温度差
 θ2 : 熱交換器の高温流体出口における流体間温度差

対数平均温度差
 

(2)熱通過率

熱交換器の隔壁の厚さをt[m]、熱伝導率をλ[W/mK]、隔壁両面の熱伝達率をα1、α2 [W/m2K] としたとき、
 1/K=1/α1 + t/λ+α2
K を熱通過率といい、単位はW/m2K となります。

熱交換器の伝熱面積をA[m2] とすれば、熱交換器の交換熱量Q[W] は、次式のように表すことができます。
 Q=KAθlm
 

(3)汚れ係数

熱交換器は経年的に、伝熱面の一方または両側に、さび、ごみ、炭素などのスケールが付着して堆積し、伝熱効率が著しく低下します。
堆積したスケールの厚さと、堆積スケールの熱伝導率の値を求めることは困難ですので、スケール堆積による熱伝達への熱通過率への影響を、水や各種流体に対して経験的に得られた熱抵抗で表すこととし、この熱抵抗のことを、「汚れ係数」(Fouling Factor)といいます。

汚れ係数に相当する熱抵抗の分、熱通過率が小さくなって、伝熱性能が低下します。
熱交換器の設計あるいは選定に際しては、各種流体の汚れ係数データをもとに熱交換器の大きさ(伝熱面積)を考慮する必要があります。

また管内の汚れは、流体の性質、温度、流速、熱交換器の材質、表面性状、などにより変化します。
汚れ状況把握や定期的な清掃の間隔も考慮する必要があります。

 

3.身近な所で活躍する熱交換器(エアコンの例)

熱交換器は、各種工業、発電など様々な産業で広く使用されますが、私達の身近な所でも見かけることができます。

代表的なものがお馴染みの「エアコン」です。
室内機の中に設置された熱交換器は、室内機と室外機との間を循環する「冷媒」という流体と、室内の空気との間で熱交換を行います。

冷房の場合、冷媒は液体の状態で室内機に入り、熱交換器を通して室内空気から熱をもらって気化します。
室内空気は冷媒から気化熱を奪われた分だけ温度が低下し、冷風となって部屋の温度を下げます。
室内空気はファンによって部屋と室内機の間を循環します。

冷房には、熱交換器とファンを埃などから保護するため「フィルタ」が取り付けられています。
フィルタが埃で目詰まりすると、熱交換性能が低下してエアコンの効きが悪くなるとともに、室外機で使われる圧縮機の負荷が増大して電気代も上がるので、フィルタはこまめに清掃することが重要です。
 

室外機の設置場所と熱交換性能

気化した冷媒は室外機の熱交換器で、外気との間で熱交換を行い、外気中に熱を放出して凝縮し再び液化して室内機へと向かいます。室外機には、冷媒を圧縮することで温度を上げて外気へ熱を放出しやすくするために圧縮機が設置されています。

暖められた冷媒と外気温との温度差が大きいほど、熱交換性能は向上します。
室外機はできるだけ温度が低く、外気の流通がしやすい環境に設置すべきです。
日当りの良い所に置かざるを得ない場合は、室外機周辺の外気流通を妨げないように、特に吐出し口周辺に十分な空間を確保しつつ直射日光を遮る日除けで覆うことが効果的です。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)
 

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