水素を効率的に輸送する方法は?《水素キャリアの比較》

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水素キャリア

水素は、使用時に二酸化炭素CO2を排出しないため、クリーンな次世代エネルギーと期待されていますが、課題も抱えています。

まず、水素製造時にCO2を排出したのでは意味がありません。則ちCO2フリーの水素を製造する必要があります。これに加えて、製造拠点から利用拠点まで大量の水素をいかに効率的に輸送するかも大きな課題です。高圧ガスボンベで輸送する従来法には限界があるためです。
 

1.水素の効率的輸送法を予備知識なしで一から考えてみましょう

水素の効率的輸送を、気体である水素をできる限り小体積の状態に転換し、低コストで大量に輸送する方法と定義して議論を進めていくことにしましょう。どんな方法が思い浮かびますか?

最も単純なのが水素(H2)の液化です。
ただし水素の液化にはマイナス253℃という超低温が必要であり、そのための設備投資や投入エネルギーに要するコストが大きいという問題もあります。

水素が他の元素と反応した状態、即ち水素化物への転換によって体積を減らすという方法もありえます。
この水素化物法を選ぶ際、その水素化物に望まれる要件として下記のものが挙げられるでしょう。

  • ⅰ)液体であること、または液化可能な気体であること。
  • ⅱ)軽量であること。従って、金属水素物のような大きな重量増を伴うものは不適です。
  • ⅲ)水素含量(水素の重量%)が高いこと。余計な元素は少ない方が好ましいと言えます。
  • ⅳ)体積あたりの輸送可能な水素量(g/cm3)が大きいこと。実用上重要な指標です。

なお水素の輸送を担うこれらの物質は「水素キャリア」と呼ばれています。
 

2.水素キャリアの種類と能力比較

上記のⅰ)とⅱ)を満足する水素化物として、メタン(CH4)、(H2O)、アンモニア(NH3)、メチルシクロヘキサン(C7H14)を選択し、水素(H2)と共に、これらに関するⅲ)の値を横軸に、ⅳ)の値を縦軸にプロットして水素キャリアの性能を比較したのが図1です。

は酸素の水素化物と捉えて選択したものです。水から水素を取り出すには多大なエネルギーを要しますので、水を水素のキャリアとみなすのは実用上意味がありませんが、考察する上で有用と判断しました。メチルシクロヘキサンについては唐突でなじめないかもしれませんが、この選択の理由は後述します。

水素(液化)は水素含量100%であって横軸で最も右に位置するのは当然のことですが、輸送可能な水素量/体積を表した縦軸においてアンモニア(液化)・水・メタン(液化)のいずれよりもかなり低い位置にあるのが少し意外かもしれません。これは水素(液化)の密度が0.071g/cm3と非常に小さいことに起因しています。

水素キャリアの能力比較
【図1 水素キャリアの能力比較】

上述の通り、水は実用上全く意味がありません。
また、メタン(液化)は、高純度での水素の出し入れが困難なので、水素キャリアとしての安定性に欠点を抱えています。

このため、水素(液化)、メチルシクロヘキサン、アンモニア(液化)の三者が水素キャリアとして有力視されています。ただしこの三者にはそれぞれ一長一短があるため、どれかが決定的に優位と言える状況ではないというのが現時点でのコンセンサスです1)
 

3.水素(液化)

液化水素はもともとロケット燃料用に用いられていました。岩谷産業が2006年に産業用液化水素の製造販売を開始しています。研究開発段階ではなく、既に実用化されています2)
水素100%であることがメリットであり、超低温を要することが弱点です。
水素エネルギー時代が本格化した時にキャリアとして市場を支配するか否かは、他キャリアの技術開発の進捗次第だと考えられます。
 

4.メチルシクロヘキサン

メチルシクロヘキサン(MethylCycloHexane)はMCHと略称され、MCHを用いる方法は「有機ハイドライド法」と呼ばれています。そのシステムを図2に示します。

水素製造拠点からMCHの状態で水素利用拠点まで輸送し、そこで水素を取り出します。
利用拠点で生成したトルエンを水素製造拠点に戻し、そこで水素と反応させて再びMCHとします。
MCHもトルエンも常温で液体であり、ガソリン中の成分でもあるので、既存の出荷設備が転用できるというメリットがあります。
但し、輸送可能な水素量/体積は決して高くはありません。また、MCHのリサイクルに伴って、少しずつですが不純物が蓄積するという問題もあります。

有機ハイドライド法
【図2 有機ハイドライド法】

有機ハイドライド法は、千代田化工建設がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援の下で開発を進めており、実証段階にあります3)
 

5.アンモニア(液化)

この方法ではアンモニアに熱エネルギーを投入して水素を回収します。

輸送可能な水素量/体積が非常に高いという特長があり、またアンモニアはマイナス34℃で液化可能ですので、その潜在的な可能性が期待されています。
但し、アンモニアには毒性がありますので、安全なシステムの構築が必要になります。今後の研究開発の進展が注目されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《参考文献・サイト》


 

 

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