3分でわかる技術の超キホン 燃料アンモニアの基礎知識

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燃料アンモニアの基礎知識を解説

2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すことが表明されました。
「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素(以下、CO2)などの温室効果ガスの人為的な排出量から自然界の吸収量を差引いて、実質的にプラスマイナスゼロにする試みです。
同年12月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定され、この戦略では、洋上風力・太陽光・地熱、自動車・蓄電池、及び住宅・建築物など14の重要分野が設定されています。2050年に向けて、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが特に重要となります。

今回は電力部門で挙げられている水素・燃料アンモニア分野に着目し、燃料アンモニアについて解説します。

1.そもそもアンモニアとは(前提知識)

アンモニアは特有の強い刺激臭を持つ、常温・常圧で無色透明の気体で、分子式「NH3」で表記される水素原子と窒素原子から構成される物質です。
アンモニアは化学産業において重要な窒素供給源であり、例えば、硝酸などの基礎化学品、メラミン樹脂などの合成樹脂、及び硫安などの窒素肥料の原料として利用されています。
日本では安衛法、高圧ガス保安法、及び建築基準法などで法規制されている可燃性・引火性ガスです。
 

アンモニアの製造方法

アンモニアの合成方法は、鉄触媒の存在下で水素と窒素を 400~600 ℃、200~1000 atmの超臨界流体状態で直接反応させる、1900年代初頭にドイツで開発された「ハーバー・ボッシュ法」が一般的です。
現在もこの方法が工業的に使用されており、天然ガス由来のメタンから改質反応で分解生成させた水素と大気中の窒素とを直接反応させてアンモニアを生産しています。この製法では、原料のメタンを不均一系触媒で分解して水素を生成する過程でCO2が排出されます。

燃料アンモニアの化学反応
【図1 アンモニア合成反応】

 

2.グレー・ブルー・グリーンと水素・アンモニア

前記CO2を大気放散する前に回収し、地下へ圧入・貯留する技術が「CCS」(Carbon dioxide Capture and Storage) です。この工程を取り入れた製法で生産される水素は「ブルー水素」と呼ばれ、更に窒素と反応させて合成されるアンモニアは「ブルーアンモニア」と称されています。

これに対して、前項のようにCO2の回収処理を行わない製法を「グレー」といい、製造された水素が「グレー水素」となります。

次に、電気分解により水を水素と酸素に還元することで製造される水素を原料とするのが「グリーンアンモニア」です。水の電気分解には電力が必要ですが、太陽光、風力、水力、地熱、及びバイオマス発電などの再生可能エネルギーを利用することでCO2を副生排出させることなく、水素を製造することができます。同時発生する酸素は環境への悪影響を与えず大気中に放散できます。

 

3.燃料アンモニアの開発動向

アンモニアは、前述のとおり再生可能エネルギーから生産することも可能であり、燃焼してもCO2を排出しないため、水素と共に気候変動対策に重要な燃料の一つに位置付けられています。
現在、火力発電設備でアンモニアを単独燃料として直接利用するための専焼技術の開発が進められていますが、現時点では石炭火力のバーナーへのアンモニアの20%混焼において、安定燃焼とNOx排出量の抑制に成功し、実機での実証実験を開始したところです。

 

(1)燃料アンモニアの課題

現状、世界の原料用アンモニア生産量は約2億トン(年間)で、貿易量はそのうちの1割程度しかなく、需要の大半が肥料用途であり、ほとんどが地産地消されています。日本での原料用アンモニア消費量は約108万トン(2019年)で、内訳は国内生産が約8割、インドネシア及びマレーシアからの輸入が約2割を占めています。

こうした状況で、アンモニアを火力発電、船舶用燃料、工業炉、及び燃料電池などに利用するには、燃料アンモニアの新たなサプライチェーンの構築が不可欠となっています。燃料アンモニアの利用拡大に向けて次のような課題が挙げられます。

  • ハーバー・ボッシュ法に代わる効率的なアンモニア生産技術の開発(低温・低圧・触媒活性 等)
  • グリーンアンモニアの低コスト生産に向けた電解合成技術の開発(電極触媒・電解質 等)
  • アンモニア輸送・貯蔵の大規模化・効率化のための技術開発
  • 混焼率向上・専焼に向けた技術開発(NOx抑制・吸熱技術・バーナー開発 等)

燃料アンモニアのサプライチェーン
【図2 燃料アンモニアのサプライチェーン】

 

(2)水素キャリアとしての利用

水素は、カーボンニュートラルの実現に向けて、燃料アンモニアと共に社会実装が加速しているエネルギー資源です。燃焼時に温室効果ガスを発生しないため、電力分野の脱炭素化に直接的に貢献します。
水素の国際的なサプライチェーンの構築が進められるなか、海上輸送における水素キャリアとして、液化水素やメチルシクロヘキサン(MCH)に次いでアンモニアが注目されています。
水素を窒素と反応させてアンモニアとして輸送・貯蔵し、必要に応じて水素を取り出して利用します。
アンモニアの輸送・貯蔵に係わる既存インフラを共有できる利点も大きいです。

 

(3)燃料アンモニアの今後の展望は?

2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成において、水素・燃料アンモニアは定量目標1%に設定されています。水素・燃料アンモニアの日本での年間導入量は、現在の約200万トンから2030年には最大300万トンへ、コストにおいては現在の100/ Nm3から2030年には30円/Nm3へと以降、化石燃料と同等程度の水準まで低減することを目指しています。
現時点では、グリーンアンモニアの石炭火力への代替は特に製造コスト面から現実的ではありませんが、エネルギー・トランジションは着実に進んでおり、グレーから、ブルー、そしてグリーンへと色相も変化しています。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 K・H)

 

 

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