《医薬品関係者の常識?》GCPの概要・早わかり解説

Pocket

GCP(治験)

医薬品を開発する企業の方や医師など専門家にとって「GCP」はお馴染みの用語ですが、一般の方には馴染みがないと思います。本稿では専門家でない方を対象としてGCPの概要についてまとめてみたいと思います。

1.GCPとは?

医薬品や医療機器を製品として販売するには厚生労働大臣の製造販売承認を得る必要があり、この承認申請を行うにあたり、効果や安全性をヒトで確認するため、臨床試験「治験」を行う必要があること、「治験」の結果をもって国に審査され承認されたものだけが「新薬」として販売できることは、一般によく知られていることと思います。

治験のデータは、科学的に評価できるデータとして倫理性・信頼性基準のもとで収集することが求められています。一言で言うと、このような基準がGCP(Good Clinical Practice)です。GCPは欧米諸国をはじめとした世界中で医薬品開発における国際的なルール(ICH-GCP)として認められています。

わが国ではGCPは、薬機法(旧薬事法)下の厚生労働省令である「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(以下「GCP省令」)にその基準が定められ、医薬品等の臨床試験実施の際に、企業や医療機関が守るべき基準として厳密に運用されています。

GCP省令には、治験と製造販売後臨床試験に関する遵守事項が規定され、その目的は被験者の人権、安全及び福祉の保護、臨床試験の科学的な質とデータの信頼性を確保することです。

 

2.GCPの歴史

1990年4月、治験データの相互に利用して、不必要な試験の繰り返しを防いで優れた新薬をより早く治療の場に届けることを目的に、日本、EU、米国の間で規制当局と製薬業界の専門家によって「医薬品規制調和国際会議ICH、International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)」が創設されました。
1996年、ICHによる治験の国際的な基準である「ICH-GCP」が最終合意されました。

わが国では、ICH-GCP の合意を受け、1996年に薬事法が改正され、1997年3月、厚生省(当時)から「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)」が発表されました。
なお、それ以前(1989年10月通知)にも「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)がありましたが、あくまでも「通達」で法的拘束力はありませんでした。この通達と区別するために省令となったGCPを「省令GCP」または「新GCP」と呼ぶ場合があります。

 
[※関連記事:GCP省令とは?ICH-GCP、GCPガイダンスなど混同しがちな用語も含めて解説 はこちら]

 

3.日本のGCP省令

医薬品の治験を行う場合、GCP省令(H9.3.27省令28、H20.2.29改正省令24)を遵守する必要があります。
GCP省令に違反すると、違反した症例のデータが使えなくなったり、重大な場合には違反した症例だけでなく他の症例のデータも使用できなくなったり、治験依頼者や規制当局の立ち入り監査を受けることもあります。

 

(1)GCPの特徴

① 治験内容の届け出

治験を実施する際には、治験内容を国に届け出る必要があります。
治験を行おうとする製薬会社は、治験を担当する医師が合意した「治験実施計画書」(「医薬品の候補薬剤」の服薬量、回数、検査内容・時期などが記載された文書)を厚生労働省に届け出ます。
厚生労働省は、この内容を調査し、問題があれば変更等の指示を出します。

 

② IRBによる調査

治験を実施する前に、IRB(治験審査委員会)にて安全性・有効性・倫理性を調査する必要があります。
IRBは、製薬会社や開発に関わる研究者や医師などから独立した第三者機関であり、科学的な視点や倫理的な視点から、治験が正しく実施できるかを審査する委員会です。
具体的には、治験実施計画書が治験に参加する患者(被験者)の人権と福祉を守って候補薬剤の持つ効果を科学的に調べられる計画になっているか、治験を行う医師は適切か、被験者に治験の内容を正しく説明するようになっているか、医療機関が計画通りに実施できる内容であるか、被験者の治療に不利益になる内容ではないか、などを審査します。

なお、IRBは医学の専門知識を有する専門委員、医療の専門知識がない非専門委員、医療機関と利害関係がない外部委員の3種類の委員すべてを含む5人以上のメンバーで構成されます。

IRBは治験を行う医療機関に設置されますが、治験を依頼する製薬会社でも通常社内IRBが設置されます。

 

③ インフォームド・コンセントの厳格化

被験者は、文書による同意が得られている者のみとする必要があります(インフォームド・コンセントの厳格化)。
治験の目的、方法、期待される効果、予測される副作用などの不利益、治験に参加しない場合の治療法などを文書で説明し、文書による被験者の同意を得ます(同意文書)。
治験に参加するかしないかは、誰からも強制されることはありません。
同意文書の控えと説明文書は被験者に渡されます。被験者のプライバシーは厳重に守られます。

 手順: 医師による説明 ⇒ 自由な質問 ⇒理解・納得 ⇒ 同意(署名)

 

④ 重大な副作用が見つかった場合の報告義務

治験を実施したことで重大な副作用が見つかった場合は、国に報告する義務があります。
治験中に発生した重大な副作用は治験を依頼した製薬会社から国に報告し、必要な治療と適切な補償が行われ、被験者の安全を確保するため必要に応じて治験計画の見直しや治験の中止などが行われます。
 

⑤ 管理システムの明確化

 

⑥ 治験チームにおける役割・責任の明確化

治験を依頼した製薬会社の担当者(モニター)は、治験の進行を調査して、治験実施計画書やGCPの規則を守って適正に行われていることを確認します。この確認は治験中に何度か行います。また、この治験を承認したIRBも治験が適切に行われているかどうかを1年に1回以上審査します。
実施中には治験実施計画書に定められたスケジュールで定められた評価や検査を行い、これを症例報告書にまとめます。
「治験責任医師」の指導・監督のもとに「治験分担医師」や「治験協力者」は、治験業務を実施または支援します。

 

(2)GCP違反

GCPの基本的な事項を遵守しない場合は、重大な違反となります。

GCP違反の例としては以下のものが挙げられます。

  • 安全性の問題を隠すため、実際の検査値とは異なる値を報告した。
  • 重篤な有害事象が発現した際に、発現状況を直ちに治験依頼者に伝えなかった。
  • 被験者からの同意を、文書を用いずに口頭のみで得た。

 

(3)CRC(治験コーディネータ)について

CRC」とは Clinical Research Coordinator の略で、被験者・医師・治験依頼者(製薬会社)の間に立って、治験の実施を支援します。
主な業務内容として、被験者ケア(同意説明補助、来院時および電話での面接・相談対応、有害事象への対応)、医師の支援(スクリーニング補助、スケジュール管理、併用薬の確認、データ管理、症例報告書作成支援、その他報告書の作成支援)、治験依頼者への対応が挙げられます。
特別な資格はありませんが、日本臨床薬理学会や日本SMO協会、SoCRAなどの団体によるCRCの認定制度があります。
治験に従事する職務であるため、通常、薬剤師、看護師、臨床検査技師などが担当されるようです。

 

(4)GCPに関連する法令、省令

① 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)
(略称法令名:医薬品医療機器等法薬機法

② 医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令
(略称法令名:医薬品GPSP省令

③ 医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令

 

4.ヘルシンキ宣言とGCP

GCPの倫理的バックグランドとして「ヘルシンキ宣言」が重要です。
これは「ヒトを対象とした全ての医学研究においては、ヘルシンキ宣言を基に行わなければならない」という原則です。
一部を抜粋してご紹介します。

  1. 患者・被験者福利の優先:科学的・社会的利益よりも優先されなければならない
  2. 本人の自発的・自由意思〔自由な同意〕による参加
  3. インフォ-ムド・コンセント取得の必要:必要な重要情報を十分に提供され、理解した上での意思決定
  4. 倫理審査委員会による事前審査、監視の継続:実験開始に先立ち、実施計画書(プロトコール)を作成して倫理審査委員会に承認されなければならない。
  5. 研究は科学原則に従い、動物実験を経て行う:科学的文献の十分な知識、他の関連した情報源及び十分な実験並びに適切な場合には動物実験に基づかなければならない。

「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスにも「治験は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則及び本基準を遵守して行うこと。」と説明されています。

 
以上今回は、GCPの概要について簡単にご紹介しました。
 

(日本アイアール株式会社 A・A)
 


<参考資料>


 

 

 

Pocket

製造業eラーニングTech e-L講座リスト

製造業向けeラーニングライブラリ

アイアール技術者教育研究所の講師紹介

製造業の新入社員教育サービス

技術者育成プログラム策定の無料相談受付中

スモールステップ・スパイラル型の技術者教育

技術の超キホン

機械設計マスターへの道

生産技術のツボ

早わかり電気回路・電子回路

品質保証塾

機械製図道場

スぺシャルコンテンツ
Special Contents

導入・活用事例

テキスト/教材の制作・販売