《医薬品関係者の常識?》GCPの概要・早わかり解説

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GCP(治験)

新しい医薬品が患者のもとに届くまでには、長い研究開発のプロセスを経る必要があります。
その中でも重要な段階が、人を対象として医薬品の有効性や安全性を確認する臨床試験、特に「治験」です。
しかし、臨床試験は人を対象として行われる研究であるため、被験者の人権、安全、福祉が厳格に守られなければなりません。また、医薬品の承認審査に用いられるデータである以上、試験は科学的に信頼できる方法で実施される必要があります。
こうした考え方に基づき、臨床試験を倫理的かつ科学的に実施するための基準として定められているのが「GCP」です。

この記事では、GCPとはどのような基準なのか、その制定の背景、国際調和の流れ、治験における関係者の主な義務について分かりやすく解説します。

1.GCPとは?

GCP」(Good Clinical Practice)は、医薬品や医療機器、再生医療等製品などの臨床試験を実施する際に守るべき基準の総称です。本記事では、このうち医薬品の治験に適用されるGCPを中心に解説します。

GCPには、臨床試験の計画、実施、記録、報告などの各過程で守るべきルールが定められています。
GCPの主な目的は次の2つで、GCPの内容はこれらの目的に沿ったものになっています。

  • 被験者の人権・安全・福祉の保護
  • 臨床試験データの信頼性の確保

日本においてGCPは、GCP省令医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)として定められており、薬機法(医薬品医療機器等法)に基づいて*1)、治験(医薬品等の製造販売承認に必要な資料の収集のために実施する臨床試験)や製造販売後臨床試験を実施する企業や医療機関は必ず遵守する必要があります。

*1) 薬機法は医薬品規制の主となる法律で、医薬品等の安全性と品質を確保し、国民の健康を守ることを目的としています。GCP省令などの施行規則(省令)では、法律より具体的で細かな規則を定めており、法律の委任(条文中の「~省令で定める」という規定など)を受けて法的拘束力を持つようになります。

 

2.GCP制定の経緯

(1)倫理的背景

GCPは、過去の臨床研究において被験者の人権や安全が十分に守られない事例が発生したことを契機に制定されました。
第二次世界大戦中には、ナチス・ドイツによる人体実験が行われ、強制収容所の囚人に対して同意なしに危険な実験が実施されました。また、アメリカではタスキギー梅毒研究において、梅毒患者に治療を行わず長期間観察する研究が行われ、被験者に十分な説明がされていないなど重大な倫理問題が発生しました。

これらの事件を契機に、人体を対象とする研究では被験者の権利と安全を守る必要性が強く認識されるようになりました。その結果、ニュルンベルク綱領(1947年)*2)ヘルシンキ宣言(1964年)*3)などの倫理原則が制定され、研究では「インフォームド・コンセント(十分な説明と理解に基づく同意)」や被験者保護が重要な原則となりました。

GCPはこれらの倫理原則を臨床試験に適用し、被験者の人権を保護するためのルールとして整備されました。「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP省令)」のガイダンスでも「治験はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則及び本基準を遵守して行うこと。」と説明されています。

*2) ニュルンベルク綱領は、ナチス・ドイツの非人道的な人体実験に対して、ニュルンベルクで行われた裁判で示された倫理原則で、医学的研究では被験者の自由意思に基づく同意が必要であることを謳いました。
*3) ヘルシンキ宣言はニュルンベルク綱領を受けて採択された倫理原則で、被験者の人権保護のためにインフォームド・コンセントの取得を求めており、GCPといった臨床試験の実施基準の倫理的背景になっています。

 

(2)科学的背景

医薬品は患者の命や健康に関わるものです。そのため、医薬品の承認審査では、その薬の安全性や有効性等について科学的に評価できる信頼性の高いデータが必要です。

しかし、GCPが整備される以前は、

  • 臨床試験の内容が医療機関や研究者ごとに異なっている(対照実験のように調べたい条件以外は同じでないと薬の有効性と安全性を適切に評価できない)
  • 臨床試験が計画のとおりに適切に行われたものか分からない
  • 試験結果の記録や管理が不十分(捏造や改ざんの可能性を否定できない)

などの問題が生じ、得られたデータの信頼性が低下する可能性がありました。

そのため、臨床試験の計画・実施・記録・報告の方法を標準化し、科学的に信頼できるデータを確保する仕組みとしてGCPが整備されました。

 

3.GCPの国際調和

(1)GCPの国際調和が求められた背景

1980年代以降、医薬品開発は世界規模で行われるようになりました。
しかし当時は、国ごとに臨床試験の基準や規制が異なっていたため、同じ医薬品でも国ごとに臨床試験をやり直す必要があったり(開発に多くの時間と費用がかかる)、国によって試験の質やデータの信頼性に差が生じる(データの相互活用ができない)などの問題が生じていました。

臨床試験の基準がどの国でも同じになれば、上記のような問題は解消され、患者が必要とする安全で有効な新規医薬品をより早く届けることにつながります。

 

(2)ICH-GCP

ICH(医薬品規制調和国際会議)は、日本・米国・欧州の各医薬品規制当局*4)を中心に、医薬品の承認に必要な要件(品質・安全性・有効性など)の国際的な統一(調和)を目的として発足し、現在ではより多くの国・地域が参加する国際的な枠組みとして、医薬品の品質・安全性・有効性に関する技術的要件の調和を進めています。

ICHでは、医薬品開発に関する技術的な基準を国際的に調和させるためのガイドラインを作成し、その一つとして「ICH-GCP*5)が策定されました。ICH-GCPはGCPの国際的な基準となっており、日本でもICH-GCPに基づいてGCP省令(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)が施行されています。

*4) 日本ではPMDA(医薬品医療機器総合機構)/ 厚生労働省、米国ではFDA(米国食品医薬品局)、欧州ではEMA(欧州医薬品庁)といった医薬品規制を担当する組織をいいます。
*5) ICHガイドラインは、Q(品質)、S(安全性)、E(有効性)、M(横断)の分野別に分類されています。有効性に関するICHガイドライン(ICH-E)の6番目がGCPであり、ICH-E6という表記もICH-GCPのことを指します。

[※関連記事:GCP省令とは?ICH-GCP、GCPガイダンスなど混同しがちな用語も含めて解説

 

4.臨床試験におけるGCP上の義務

臨床試験は多くの関係者が協力して実施されます。
GCPでは、それぞれが遵守すべき基準が定められています。

 

主な治験の関係者・関係組織の概要
【図1 主な治験の関係者・関係組織の概要】

 

(1)治験依頼者

治験依頼者とは、治験の計画、実施、管理、資金提供などを行う主体のことを指します。いわゆるスポンサーのことで、多くは新しい医薬品の開発を行う製薬企業が治験依頼者となります*6)
治験依頼者は、治験全体の責任主体として、試験がGCPに従って適切に実施されるよう管理する重要な役割を担っており、以下のような義務があります*7)

 

【表1 治験依頼者(治験を依頼しようとする者)の義務】

手順書等の作成 治験実施計画書、および、治験薬の管理、副作用情報の収集、記録の保存などの治験に関する手順書を作成しなければなりません。
必要な非臨床試験等の実施 被験薬の品質、毒性、薬理作用に関する試験など治験を依頼するために必要な試験を終了していなければなりません。
治験薬概要書の作成 治験薬の品質、有効性、安全性に関する情報に基づいて、被験薬の化学名/識別番号などを記載した治験薬概要書を作成しなければなりません。
治験薬の事前交付の禁止 治験の契約締結前に実施医療機関に治験薬を交付してはなりません。
治験の契約 実施医療機関などと文書により治験の契約を締結しなければなりません。
被験者への補償 被験者に健康被害が生じた場合の補償に必要な措置(保険など)を講じていなければなりません。
治験薬の表示
(拡大治験*8)を除く)
治験薬の容器又は被包には、先入観・バイアスを避けるため等の理由で、予定される販売名・効能効果・用法用量を記載してはなりません。
モニタリングの実施 CRA(Clinical Research Associate、治験モニタリング担当者)は、治験の実施過程の適切性を確認するため、治験の進捗状況、治験がGCPや治験実施計画書に従って行われているかなどを確認します。
監査担当者の指名・独立性の確保 監査担当者は、治験の結果(治験により収集された資料)の信頼性を確保するため、治験がGCPや治験実施計画書に従って行われたかどうかなどを確認します。癒着を避けるため、監査担当者は医薬品開発部門やモニタリング担当部門から独立していなければなりません。
副作用情報等の提供 治験薬の品質、有効性、安全性などの治験を適切に行うために必要な情報を実施医療機関の長に提供しなければなりません。
記録の保存 治験に関する記録を決められた期間、適切に保存しなければなりません。

*6)  医薬品等の開発業務の一部はCRO(Contract Research Organization、開発業務受託機関) に委託されることがあります。CROはモニタリングやデータ管理(DM:Data Management)などを支援しますが、最終的な責任は治験依頼者にあるとされています。
*7) GCP省令のほか、薬機法上の規制が関係する場合もあります。例えば、初めて治験の計画を届け出た場合、原則として、届出から30日を経過した後でなければ治験を依頼してはなりません。(いわゆる治験の「30日ルール」と呼ばれるもので、この期間中に主にPMDAが、その治験に関して保健衛生上の危害が発生しないか調査します。)
*8) 生命に重大な影響がある疾患で、既存の治療法が有効でなく、かつ、既に実施している治験(企業治験や医師主導治験)の対象とならない患者に対して、人道的見地から該当薬を使用する治験です。

 

(2)実施医療機関

実施医療機関とは、実際に被験者に対して治験を行う医療機関のことを指します。大学病院や総合病院など、一定の設備や体制を備えた医療機関が治験の実施施設となります*9)

臨床試験では、治験依頼者が作成した試験実施計画書に基づき、実施医療機関において被験者の診察、検査、治験薬の投与、経過観察などが行われます。そのため、実施医療機関には、被験者の安全を確保しながら治験を適切に実施するための体制が求められ、以下のような義務があります。

【表2 実施医療機関側の義務】

治験審査委員会(IRB)による審査 治験審査委員会は、中立的な立場から治験実施計画書や説明文書・同意文書などを確認し、治験実施の適否について審査します。
実施医療機関の長は、治験審査委員会がその医療機関における治験の実施が適当でない旨を述べたときは、治験を実施してはいけません。
そのため、治験審査委員会は以下の要件を満たさなければなりません。

  • 治験について倫理的および科学的観点から十分な審議ができること
  • 5名以上の委員からなること
  • 医学、歯学、薬学その他の医療又は臨床試験に関する専門的知識を有する者以外の者が委員にいること
  • 実施医療機関と利害関係を有しない者が委員にいること
  • 治験審査委員会の設置者と利害関係を有しない者が委員にいること
有害事象の発生 治験責任医師は、治験薬の副作用によると疑われる死亡等の重篤な有害事象を認めたときは、直ちに、実施医療機関の長への報告および治験依頼者への通知をしなければなりません。
被験者の同意 治験責任医師は、治験の内容等について被験者となるべき者の理解を得るよう、文書により適切な説明を行い、文書により同意を得なければなりません。

*9) 医療機関は、治験の実施に係る業務の一部をSMO(Site Management Organization、治験施設支援機関)に委託することがあります。SMOの主な業務として、CRC(Clinical Research Coordinator、治験協力者)の派遣があり、CRCは、治験責任医師や医療スタッフ、治験依頼者、モニター(CRA)などの関係者との調整を行いながら、治験が円滑に進むようサポートします。

 

5.GCPの意義と今後

GCPは、臨床試験を倫理的かつ科学的に実施するための国際的なルールとして、医薬品開発の基盤となっています。
近年は、電子データの活用やリスクベースドモニタリング*10)分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial, DCT)*11)など、臨床試験の方法も進化しています。これに対応する形で、ICH-E6(R3)への改訂を通じて、リスクに応じた品質管理や新しい臨床試験の形に対応したGCPの考え方が重視されています。

医薬品開発の最終的な目的は、患者に安全で有効な治療を届けることです。GCPはそのための基盤となるルールであり、今後も医薬品開発において重要な役割を果たし続けるといえるでしょう。

*10) 臨床試験において、患者の安全性やデータの質に重大な影響を与えるリスクを事前に特定・評価し、そのリスクが高い箇所にモニタリングの資源(人員・時間)を集中させる、効率的で質の高い管理手法です。
*11) デジタル技術(スマホアプリ、ウェアラブル端末、オンライン診療)などを活用し、患者が医療機関に定期的に来院することなく参加できる臨床試験です。通院負担の軽減に加え、治験参加者の多様性確保や、日常生活下における24時間リアルタイムでのデータ取得が可能となることから、患者中心の医薬品開発を実現する新たな手法として注目されています。

(日本アイアール株式会社 A・A / Y・A[薬剤師])

 

 
 

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