【トヨタとサムスン】この2社で実際に働いた体験から、社員の特徴・働き方・業績評価の違いを整理してみると?
目次
トヨタとサムスン、両組織の中の社員に着目してみる
前回のコラム「トヨタとサムスン 実際に両社で勤務した専門家が語る、組織の考え方の違いとは?」では、トヨタとサムスンの組織としての形に注目して、共通点と相違点をまとめてみました。
今回は、トヨタとサムスン電子というアジアトップクラスのグローバル企業に勤務する社員はどのような人たちで、どのような働き方をしているのか、その一端をご紹介します。
社員の学歴と教育レベルの違いは?
博士だらけのサムスン
韓国では、サムスンはスーパーエリートが集まる会社として認識されています。
新卒採用試験は韓国内だけでなく米国でも行われており、現代における「科挙」ともいえるような極度に難しい試験で国内外から優秀な人材を集めています。
ここで取り上げる例はサムスンのエンジニアリングプラスチックに関する研究所(現在は売却されてロッテケミカル)で、研究所という環境もありますが、とにかく周りを見渡せは博士ばかりで、感覚しては40%程度が博士号取得者、そのうちその分野での世界最高峰の大学での博士号取得者はさらにその1/3に至るかという数でした。
韓国社会では博士号が重視されるため、わざわざサムスングループへの就職のために海外博士号取得という選択をする人も多いとのことです。
トヨタでの博士号は「足の裏のご飯粒」?
一方、トヨタでは近年博士号保有率が上がってきているものの、それでも10%に満たない程度ではないでしょうか。
社命での博士号取得はほぼないと言っていいほどのレベルでした。
日本の自動車関連企業では、なべてこのような傾向にあるようです。
日本では博士号のことを「足の裏のご飯粒」と例える風潮があります。
「取っても食えないが、取らないとそれはそれで気になる」という意味です。
この傾向は国際的に見ても顕著です。
2018年時点の文部科学省での統計では、2013年時点の主要国の博士号保有率は、人口100万人あたりで
- ドイツ:345人
- イギリス:335人
- 韓国:280人
- 日本:110人
- 中国:40人
とのことです。
社内コミュニケーションは何語?
《日本語中心のトヨタ、多国語対応が当たり前のサムスン》
サムスンでは、韓国人同士の会話であれば韓国語ですが、皆さん英語が堪能なのはもちろん、年配の方はほとんど日本語ができますし、若手の方は第二外国語が日本語で、しかもそれを中学時代から学んでいる人も多いので、日本語でのシンプルなコミュニケーションには問題ありません。
同時通訳者も電話一本で手配できるので、英語や韓国語が苦手な日本人相手であっても、問題なく意思疎通できます。
サムスンの社内では、終業後に外国語のレッスンがありました。
2012年の時点で、日本語メインが多かった受講者の人数が中国語と逆転したそうです。
一方、トヨタ本社での業務は、日本語でした。
海外と連携する場合は英語または現地語となりますが、日常業務は日本語中心でした。
(現在は、当時よりも国際化しているかもしれません。)
個人の業績評価の違いは?
ここまでサムスンが国際色あふれる企業になったのも、李健照元会長が「1人の人材が1万人を養っていく」時代である(*1)と形容したように、グローバル社会で生き残るための天才的人材を確保するための戦略によるものでしょう。
トヨタもサムスンも、従業員の評価プロセスや指標は明確で、本人と上司が期初に決めたことに基づいて期末に自己査定し、交渉するというところでは一致しています。
しかし、トヨタはある程度定量化できないような目標でも評価することに比べて、サムスンは全て厳しく数字目標で管理しています。
どうやらここには日本と韓国の文化の違いがありそうです。
別の韓国企業の方が、日本の学会で明らかに会のテーマと異なる発表をしておられたことがあるのですが、それももしかすると、このような数値目標をクリアするための点数稼ぎだったのかもしれません。
コミュニケーションの均質性、相互理解の深さはカイゼンの要?
しかし、日々「カイゼン」に邁進するトヨタがこのように日本語中心にコミュニケーションしていたのも、ある意味、カイゼンを円滑に進めるためのコミュニケーションの質を担保するために必要だったからかもしれません。
トヨタ生産方式(Toyota Production System, TPS)で「カイゼン」は、自分たちが作り上げてきたものを厳しく再評価する活動でもあります。
密にコミュニケーションをとれることで、すでに土壌として同じ認識を持つ人たちの間でこそ、心理的な反発なく進められるのではないでしょうか。
もし、トヨタ以外の組織でこれを行おうとすると、まずはこのコミュニケーションや目標を合わせるという土壌作りから始める必要があります。
ここが、トヨタ以外の組織でカイゼンをするときの最も難しい点なのかもしれませんね。
このように、社員個人の働き方も、二つの企業ではずいぶん異なりました。
自分自身、あるいは自分の会社にとって良い結果をもたらすのはどのような働き方なのか、問い直してみてはいかがでしょうか。
(※この記事は技術オフィスTech-T 代表 高原忠良講師からのご寄稿を、当研究所が再構成したものです。)
※参考文献:
[*1] 李美善「サムスン電子の人材戦略」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamsjsaam/16/0/16_81/_pdf/-char/ja