デジュール標準の種類と概要《総整理》
今回は、皆さんもお馴染みの「ISO」をはじめとした様々な「デジュール標準」について、概要・基礎知識を解説いたします。
目次
1.ISO標準
ISO標準は、国家間の製品やサービスの交換を助けるため、知的、科学的、技術的、そして経済的活動における国家間協力を発展させることを目的としています。
ISO標準について一例をあげて説明しましょう。
標準化に関する前回のコラム「製造業技術者が知っておきたい標準化の基礎知識」で例としたプリンター関連では、記録紙サイズの他に、プリンターの部品を取り付けているネジなどについてもISO標準があります。
ISOが扱う標準化対象の技術領域は非常に多く、2022年3月現在で324番までのTC(Technical Committee)があります。
※詳細は、日本産業標準化調査会のサイト[国際標準化(ISO/IEC)-TC名称(ISO)] をご参照ください。
さて、こうしたデジュール標準はどのようにして制定されるのでしょうか?
制定には決まったプロセスがありますがそのプロセスは、添付の図のようになります。
標準化 ステップ |
作業名 | 作業のポイント |
Step1 | NP提案 | 新作業項目提案 (New Proposal / New Work Item Proposal) 新たな規格の策定、現行規格の改定を提案 標準制定の各段階では投票によって採決がなされます。このとき、投票権は1票/国です。 したがって標準を通す場合も否決する場合も多数の賛成を得ることがとても大事になります。 |
Step2 | WD作成 | 作業原案 (Working Draft) 幹事より任命された専門家はWGにおいてWDを検討作成 |
Step3 | CD作成 | 委員会原案 (Committee Draft) 総会でのコンセンサス又は、Pメンバー(積極的参加)の投票にかけて2/3以上の賛成を得た場合にCDが成立 |
Step4 | DIS策定 | 国際規格原案 (Draft International Standard) 投票によってDISは承認されます |
Step5 | FDIS策定 | 最終国際規格原案 (Final Draft International Standard) 投票によってFDISに決定されます |
Step6 | 国際規格発行 | 正式に国際規格として発行されます(発行期限はNP提案承認から36ヶ月以内) |
【表1 ISO国際標準化の手順】
近年は技術の進歩が速いので、技術革新のスピード・アップに対応して国際規格策定を行うために、迅速手続(Fast-track procedure)制度を導入しています。迅速手続きの条件が満たされれば、2,3の作業手続を省いてDIS登録されます。
標準制定のいくつかの段階では投票があります。投票には投票権(議決権)が必要です。
投票権はPメンバー(participating member)に与えられます。Pメンバーとは、その標準制定に多大な関心があり、標準作りに積極的に関与するメンバーです。投票は一か国一票です。議決にはPメンバーの2/3以上の賛成が必要ですから多くのPメンバーの合意が必要になります。
2.IEC標準
IEC標準は、電気及び電子の技術分野における標準化のすべての問題及び規格適合性評価のような関連事項に関する国際協力を促進し、これによって国際理解を促進することを目的としています。
前述のプリンターの関連ではプリンター等の電子機器が落雷や、静電気の放電等で誤動作しては困ります。
IECではこうした環境に対する機器の耐性を把握するための測定方法を規定するほか、使用する電子部品についても細かく規格を定めています。
IECが扱う技術領域も非常に広く、多くのTCがあります。2022年3月現在で、126のTCがあります。
※詳細は日本産業標準化調査会の資料(TC,SC名称)をご参照ください。
ISO同様、IECにも表2に示すように決まった標準制定プロセスがあります。
標準化ステップ | 作業名 | 作業のポイント |
Step1 | NPの提案 | 各国加盟機関、TC(専門委員会)/SC(分科委員会)の幹事などが新たな規格(New Proposal / New Work Item Proposal)の策定、現行規格の改定を提案 TC/SCのP(積極的参加)メンバーの2/3以上が賛成すること。 |
Step2 | WDの作成 | 幹事より任命された専門家はWGまたはPTにおいてWDを検討作成 |
Step3 | CDの作成 | WDはCD案として登録されTC/SCの全てのPメンバー及びO(observer)メンバーに意見照会のため回付し、TC/SCのPメンバーの合意が得られた場合にCDが成立。 |
Step4 | CDVの照会及び策定 | 投票したTC/SCのPメンバーの2/3以上が賛成し、反対票が1/4以下で承認。 CDV:Committee Draft for Vote |
Step5 | 最終国際規格案(FDIS)の策定 | 投票したTC/SCのPメンバーの2/3以上が賛成し、反対票が1/4以下で国際規格として成立 |
Step6 | 国際規格の発行 | FDISの承認後、正式に国際規格として発行 |
【表2 IEC国際標準化の手順】
新作業項目の提案NPが承認された後、36ヶ月以内に国際規格の最終案FDISがまとめられることとなっています。ISOと同様にIECでも技術革新のスピード・アップに対応して国際規格策定を行うために、迅速手続(Fast-track procedure)制度を導入しています。迅速手続きの条件が満たされれば、1、2,3の作業手続を省いてCDV登録されます。
3.ISO/IEC(JTC1とJTC2)
ISO/IEC第1合同技術委員会(JTC1)は、IT関連の標準を策定・維持・促進することを目的として1987年に創設されました。
また、ISO/IEC第2合同技術委員会(JTC2)では、エネルギー効率および再生可能エネルギー分野の標準化を目的として2009年に創設されました。
プリンターに用いるトナーカートリッジやインクカートリッジのイールド(使用枚数の規格)は機械とも電気とも関係します。このような情報技術の領域はISO/IEC/JTC1で標準制定されます。ISO/IEC 19752:2017では、モノクロトナーカートリッジの収率の測定法が規定されています。これにより、以前各社それぞれの測定法で収率を表示していましたが、これが改められ、消費者が収率で機器の評価ができるようになりました。そして、カートリッジのプリント可能枚数が、信頼できるものとなり、消費者にとっては購入時の安心感につながります。
なお、「JTC」は、Joint Technical Committeeの略で、ISOとIECが共同で標準を策定します。
※JTC1が扱っているTCについては日本規格協会グループのISO TC/SC/PC 番号順リストおよび、前述の日本産業標準化調査会の資料(TC,SC名称)をご参照ください。
4.ITU標準
ITU(International Telecommunication Union)は日本語では「国際電気通信連合」といいます。
本部をスイスのジュネーブに置かれた国際連合の専門機関として誕生しました。
設立の目的は、電気通信の良好な運用により諸国民の間の平和的関係及び国際協力並びに経済的及び社会的発展を円滑にすることです。
ITUの活動はITU-T、ITU-R、ITU-Dの3つがあります。以下に、その概要を紹介します。
(1) ITU-T(電気通信標準化部門)
世界電気通信標準化総会(World Telecommunication Standardization Assemblies:WTSA)等を含みます。活動の範囲は非常に広く、音声通信、データ通信、映像配信等を含みます。ファクシミリの通信に関する規格もITU-Tの規格です。電気通信標準化局(Telecommunication Standardization Bureau:TSB)が技術的な検討を行うSG(Study Groupe)を支援しています。通信はその性格上互換性の確保が重要となります。したがって決定した標準は勧告として発行されます。これは強制標準であるといえます。
※ITU-Tで活動しているSGは、日本ITU協会のサイト(ITU-T Study Group の構成)をご参照ください。
(2) ITU-R(無線通信部門)
世界無線通信会議(World Radiocommunication Conferences:WRC)、地域無線通信会議、無線通信総会、及び無線通信規則委員会(Radio Regulations Board:RRB)等を含みます。
無線通信の周波数帯域と衛星の軌道は人類に与えられた、限りある貴重な資源といえます。ITU-Rはこのグローバルな管理において、中核的な役割を果たしています。主な活動としては、3~4年に一度開催するWRCがあり、この会議では、周波数や衛星軌道の利用方法等に関する国際的な取決めについて規定した無線通信規則(Radio Regulations:RR)の検討及び改正等を行っています。
2019年に開催されたWRC-19の会合では、私たちの身近な規格として、国際的に調和した5Gシステム用周波数の拡大:5G等で使用することができる国際的な移動体通信(International Mobile Telecommunication:IMT)用周波数の拡大に向けた検討が行われ、我が国については、新たに計15.75GHz幅(24.25-27.5GHz、37-43.5GHz、47.2-48.2GHz、66-71GHz)がIMT向けの周波数として合意されました。
その他にも重要な国際間の無線についての取り決めが行われました。
(3) ITU-D(電気通信開発部門)
世界電気通信開発会議(World Telecommunication Development Conferences:WTDC)、地域電気通信開発会議等を含みます。
ITU-Dは、国際標準の策定は行わず、開発途上国における電気通信分野の開発支援を行っています。ITU-Dには以下の4つの目的があります。
- ICT分野における技術的・人的資源の開発に関して加盟国を支援する。
- 世界中の住民に対してICTによる便益の拡大を図る。
- デジタル・ディバイドの縮小に向けた活動について促進・参加する。
- 発展途上国のニーズを満たす情報流通を促進するプログラムを開発・管理する。
持続可能な開発目標達成のための、途上国へのICTの拡大と利用を加速する行動計画策定なども行っています。
5.マネジメント標準
これまでは『物』の規格について説明してきました。『物』の標準だけではモノづくりは決してうまくいきません。モノが継続してお客様に受け入れられ、地球環境にやさしく、持続可能で、且つ企業が競争優位を保つためには、それを可能にする「仕組み」が必要です。そして、その「仕組み」が基準を満たす良いものである必要があります。その基準に当たるものがマネジメント標準です。
マネジメント標準には認証制度があります。認証は認証機関が行い、初回認証から1年ごとに適合審査が行われ、認証から3年目に更新審査が行われます。審査の都度、改善が求められるのもマネジメント規格認証制度の特徴です。つまり、獲得した認証が維持されることでマネジメントの質がブラシアップされていくのです。
ISOマネジメント標準は、以下ような規格があります。ここではそれらの標準の概要を説明します。
※マネジメント標準の全体を把握したいときは、日本品質保証機構(JQA)のサイトをご参照ください。
① ISO 9001
ISO 9001は品質マネジメントシステムに関する国際規格です。
世界中で最も普及しているマネジメントシステム規格といえます。企業間取引ではISO9001の認証を取得していることを条件にしている企業もあります。この認証を取得できていると当該企業の品質への取り組みが一定レベルに達しているとみなされ、取引を行う上での安心感につながります。
認証は年に1〜2回の定期的な監査と3年に一度の更新審査があります。その都度、継続的な改善が求められますので、認証を維持することによって強靭な組織へと成長していくことができます。以下のマネジメント標準が同様の認証プロセスであるので、認証プロセスの説明は省略します。
② ISO 14001
ISO 14001は環境マネジメントシステムに関する国際規格です。
近年ではSDGsに取り組む企業が多くなっています。地球環境を保護し、地球温暖化抑制に取り組むための組織の枠組みを示しています。カーボンニュートラル達成までの計画的な取り組みなども重要な活動です。
③ ISO/IEC 27001
ISO/IEC 27001は、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に関する国際規格です。
情報の機密性・完全性・可用性の3つをバランスよく管理し、情報を有効活用するための組織の枠組みを示しています。情報管理のリスクに対応することで情報漏洩を防ぐとともに、情報を有効活用するための仕組みづくりが求められます。
④ ISO 50001
ISO 50001は、事業者が省エネ・節電を行うのに必要な方針・目的・目標を設定し、計画を立て、手順を決めて管理する活動を体系的に実施できるようにした仕組みを規定している世界標準の規格です。
ISO 50001に取り組むことで、エネルギー消費原単位、エネルギー効率、エネルギー使用量、エネルギー起源のCO2排出量などをエネルギーパフォーマンスとして設定し、その改善に取り組むことができます。業種と規模を問わず、あらゆる組織が、エネルギーを管理し、エネルギーパフォーマンスを継続的に改善していくために利用することができる規格です。
⑤ ISO 22000
ISO 22000は、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格です。
消費者に安全な食品を提供すること、および、フードチェーン内(作物生産者、飼料生産者、一次食品生産者、食品製造業者、卸売業者、小売業者、食品サービス業、ケータリング業者、輸送・保管及び配送サービスを提供する事業者、包装材料の供給者など)の食品安全を脅かすハザード(危害要因)を適切に管理するための仕組み作りを目的に制定されました。
⑥ ISO 39001
ISO 39001は、道路交通安全マネジメントシステムに関する国際規格です。
交通事故の死者や重大な負傷者を減らすことを目的に、道路交通安全のためにさまざまな組織が取り組むべきマネジメントシステムの要求事項を定めています。業種・規模を問わず、道路交通に関連する幅広い組織で導入することができます。
⑦ ISO 13485
ISO 13485は、医療機器産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格です。
日本を含む世界各国の医療機器に関する規制において、品質管理手法のベースとして採用されています。
医療機器における顧客要求事項および規制要求事項を一貫して満たす製品・サービスの提供を行う際の有効な規格です。
⑧ ISO/IEC 27017
ISO/IEC 27017は、クラウドサービスに関する情報セキュリティ管理策のガイドライン規格です。
クラウドサービスは、操作性、利便性・拡張性・コストメリットなどから近年多くの企業に採用されておりセキュリティに関する有効な取り組みについても要求が強まっています。
情報セキュリティ全般に関するマネジメントシステム規格であるISO/IEC 27001の取り組みをISO/IEC 27017で強化することで、クラウドサービスにも対応した情報セキュリティ管理体制を構築することができます。また、ISO/IEC 27001とISO/IEC 27017の両方の認証を取得することで、クラウドサービスセキュリティへの堅実な取り組みを対外的にアピールすることができます。
⑨ ISO 22301
ISO 22301は、事業継続マネジメントシステム(BCMS:Business Continuity Management System)に関する国際規格です。
地震・洪水・台風などの自然災害をはじめ、システムトラブル・新型コロナウィルスなどの感染症の流行・停電・火災といった事業継続に対する潜在的な脅威に備えて、効率的かつ効果的な対策を行うための包括的な枠組みを示しています。
本マネジメント規格では以下の3点を実現するための要求事項を定めています。
- 事業の中断・阻害を引き起こす事象への組織的な対応策の構築および運用
- BCMSのパフォーマンスおよび有効性の監視・レビュー
- 継続的改善
⑩ ISO 45001
ISO 45001は、労働安全衛生マネジメントシステムに関する規格です。
あらゆる職場において、安全な労働環境を整えるための枠組みを示しています。
労働安全衛生マネジメントシステムの枠組みを活用することで、例えば、今まで分散的・形骸的になっていた内部管理機能を統一的かつ効果的な仕組みに落とし込むことができるようになります。会社の性質に応じた労働安全衛生上の問題や課題を把握しやすくなり、迅速な対処や効果的な対応策・防止策の実施が可能となります。これにより、労働安全衛生にかかわるコストの削減ができ、顧客やステークホルダーの信頼性向上につながります。
⑪ ISO/IEC 27701
ISO/IEC 27701は、2019年に発行された世界水準のプライバシー保護体制を構築するためのマネジメントシステムの国際規格です。
同規格は、ISO/IEC 27001およびISO/IEC 27002(情報セキュリティ管理策の実践のための規範)のアドオン(拡張)規格として位置づけられており、情報セキュリティマネジメントシステムの要求事項に加え、個人情報の処理によって影響を受けかねないプライバシーを保護するための要求事項とガイドラインが規定されています。この規格に取り組むことで、組織が個人情報を管理する方法など、プライバシー保護に関するガイダンスを提供し、世界中のプライバシー規制の順守を実証するのに役立ちます。
⑫ ISO/IEC 20000
ISO/IEC 20000は、ITサービスマネジメントシステム(ITSMS)に関する国際規格です。
ビジネスの要求に合わせて管理された ITサービスを効果的に提供するために実現すべき項目を規格化したもので、組織が提供するITサービスの内容やリスクを明確にし、サービスの継続的な管理、高い効率性、継続的改善を実現するための枠組みを示しています。
⑬ ISO 9001-HACCP
ISO 9001-HACCPは、品質マネジメントシステムの国際規格ISO 9001をベースに、食品安全管理システムを構築するHACCPの考え方を組み込んだ規格です。
国際的な基準に基づいた食品安全管理に取り組む第一歩として最適なものです。
ISO9001とISO9001-HACCPの違いは、ISO9001は業種・業態問わず、あらゆる企業・団体が認証を取得することができますが、ISO9001-HACCPは具体的には、農業・水産業・畜産業、食品製造・加工業、容器・包装資材の製造業、レストランなどの外食産業が該当します。
ISO9001とISO9001-HACCPでは、規格の目的が異なります。ISO9001では、一貫した製品・サービスの提供や顧客満足の向上が主な目的です。ISO9001-HACCPでは、消費者に安全な食品を提供するための食品安全マネジメントシステムを確立することが最大の目的になります。
また、ISO22000とも関係する規格ですが違いは次の図に示す通りです。
[引用:日本品質保証機構(JQA)サイト]
https://www.jqa.jp/service_list/management/service/iso22000/
⑭ ISO 21001
非公式教育・訓練の学習サービスに限定されていたISO 29990を発展させて教育組織全般を対象にした、教育組織と学習者やその他の顧客との相互関係に焦点を当てて開発されたマネジメントシステム規格です。2018年に新たに作成された国際規格です。
6.デジュール標準と特許の関係
過去、長年にわたって標準化と特許の問題が幾度となく発生しました。
標準化された技術を使って製造、販売された商品が特許技術を使ったとして、特許権者から製造会社や販売会社が提訴され、製造、販売の差し止めを求められ、巨額な損害賠償を請求される事件です。
標準化された技術を使っても、このような揉め事の発生を未然に防ごうという考え方が、現在では確立しています。それが、『パテントポリシー』です。
《パテントポリシーとは》
2018年、パテントポリシーの改定がなされ、ITU、ISO、IEC間で差異の無いパテントポリシーが制定されました。その内容は次の通りです。
- 標準策定のWorking Groupの議長は委員会で標準策定の早い段階から参加者に対し、標準に関連する特許、とりわけ、必須特許となるものがあるかどうかを尋ねなければなりません。これをPatent Callといいます。
- 必須特許となりうる特許(出願中のもの、登録されているものを問わず)の存在が明らかになったら特許権者から必須特許保有の表明として、決まったフォームの「PATENT STATEMENT AND LICENSING DECLARATION FORM FOR ITU-T OR ITU-R RECOMMENDATION ISO OR IEC DELIVERABLE」で宣言することが求められます。
- 特許権者は下記、(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)いずれかを宣言せねばなりません。宣言の内容は次の通りです。
(ⅰ) 特許権者は,不特定多数の申請者に対して標準規格の実装品を製造,使用及び販売するために,全世界ベースで,非差別的かつその他の合理的な条件で無償ライセンスを提供する用意がある。
(ⅱ) 特許権者は,不特定多数の申請者に対して標準規格の実装品を製造,使用及び販売するために、全世界ベースで被差別かつ合理的な条件で(FRAND)ライセンスを提供する用意がある。
(※FRANDとは「公平(Fair)、合理的(Reasonable)かつ非差別的(Non-Discriminatory)」)
(ⅲ) 特許権者は,(ⅰ)または(ⅱ)の条件に従ってライセンスする意思はない。
宣言者は,宣言の対象とする特許については,登録特許か出願中か,登録(出願)国,特許番号(出願番号),タイトルを開示しなければなりません。
このように必須特許に対して、特許権者が態度を明確にすることによって、のちに特許権者と、標準技術を使って事業を行うものの間で、標準化された技術で係争事件を発生することはなくなります。
そこで、特許権者が(ⅲ)を宣言した場合が問題です。こうしたケースでは、標準化策定において、必須特許を避ける標準を策定することになります。必須特許を回避する標準の策定が困難となった場合は、当該標準の策定を取りやめることになります。
7.デジュール標準のまとめ
これまで、デジュール標準の話をしてきましたが、『事業を進めるうえで、デジュール標準とどう関わればよいのか』について考えてみましょう。
① 国際標準に準拠したモノづくり
- 製品の品質特性の測定方法が国際標準に準拠していることで、顧客が安心してその製品を購入できるメリットがあります。
- 国際標準に準拠することで、製品の互換性が確保され、顧客の利便性が確保されます。
- 国際標準に準拠した部品やユニットを採用することでコストダウンや入手の容易化が達成できます。
② 国際標準認証の取得
- マネジメント標準の認証取得企業となることで、パートナー企業や、団体、顧客との信頼関係の円滑化に役立ちます。
③ 特許戦略と標準化
- 自社の持つ技術を国際標準必須技術とできれば、FRAND宣言をすることによって、ライセンス収入が可能になります。そして事業を優位に展開できます。
- 国際標準必須技術の周辺技術を確立し、特許網を形成することで、事業を優位に展開することができます。
国際標準と事業を関連付けることのメリットは枚挙にいとまがないほどあります。
皆様のお仕事でも是非、国際標準との関係を今一度お考えいただけましたら幸いです。
次回は「デファクト標準」についてご紹介します。
(アイアール技術者教育研究所 M・O)