結晶構造を知る:XRD|分子構造を知る:FT-IR, Raman, NMR《機器分析のキホン⑥》

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分光光度計(分析機器の解説)

1.結晶構造を知りたい

固体の結晶構造を解析する手段として、光あるいは粒子線の回折を使った方法があります。
当連載コラムの第4回「電子顕微鏡(TEM,SEM)と走査プローブ顕微鏡(SPM) 」で、複合機としての電子顕微鏡の付加機能の一つとして説明したEBSD(Electron Backscatter Diffraction)は電子線の回折を使ったもので、他に中性子線を使うものなどもありますが、ここでは最も基本的で汎用性の高いX線回折法XRD: X-ray Diffraction)について説明します。

 

X線回折法(XRD: X-ray Diffraction)

原子が規則正しく並んでいる物質に、原子の間隔と同程度の波長を持つX線が入射すると、原子によって(正確には原子の核外電子によって)散乱されたX線は干渉しあい、特定の方向で強め合います。

図のような状況では、第1の結晶面で散乱されたX線と第2の結晶面で散乱されたX線の行路差は2dsin(θ)になります。

 

X線回折法(XRD)
【図1 X線回折法(XRD)】

 

この行路差がX線の波長(λ)の整数(n)倍の時、山と山が重なって強め合いますが、それ以外の方向では散乱X線が弱めあいます。

つまり、2dsin(θ)=nλ(ブラッグの式)を満たす方向でのみ、回折X線が観測されることになります。従って、X線回折によって試料の結晶面の間隔がわかり、試料がどのような物質であるか特定することができます。

この原理を用いて、波長のわかっているX線(CuのKα線など)を試料に照射し、試料を回転させて入射角(θ)を連続的に変え、試料の回転と同期させて検出器を2θの方向に移動させ、横軸に2θ、縦軸にX線強度をとったスペクトルを得るのがXRDです。

 

X線回折法による測定
【図2 X線回折法装置概要】

 

単に物質を同定するだけでなく、スペクトルを詳細に分析して単結晶であるのか多結晶であるのか結晶粒の大きさはどの位か結晶にどれくらいの歪があるか、などの情報を得ることもできます。

励起、信号ともにX線ですから、大気中での測定が可能で、非破壊の分析方法です。

 

2.分子構造を知りたい

ことに分析対象物質が有機物の場合、分子構造を知ることが必要になります。
分子構造の情報を得るには、分子振動準位間の遷移に対応する振動スペクトルを調べることが有効で、赤外吸収スペクトルラマン散乱スペクトルがこれに相当します。また、核磁気共鳴も有機物の構造解析や定量などによく用いられています。

 

(1)フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)

赤外分光法」は、主に中赤外(2.5μm~25μm)領域の光を用いる分光法です。
分子に赤外線を照射すると、赤外線の振動数と分子の振動数が一致する場合に、分子が赤外線を吸収して励起状態に変化し、この吸収が透過光のスペクトルとして現れます。分子は、分子構造に応じた固有の振動数をもっていますので、スペクトルを解析することで分子構造を特定することが可能です。

基本的には励起光を分光することで波長を変え、それぞれの波長における吸収率を測定すれば良いわけですが、最近はこのような方法を取らず、フーリエ変換を用いて精度よく、短時間でスペクトルを取ることができます。この方法を「フーリエ変換赤外分光光度計」(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)と呼びます。

FT-IRの原理図を示します。

 

フーリエ変換赤外分光光度計
【図3 フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)】

 
光源としては、必要な波長範囲を連続的にカバーするような物(高輝度セラミックなど)が必要です。

光源を出た光を半透鏡ビームスプリッタとも呼び、半分の光を透過し、半分の光を反射する性質を持ちます)で二つに分け、半分の光は固定鏡で反射されて半透鏡に戻り、半分の光は移動鏡で反射されて半透鏡に戻るようにします。戻ってきた光は、それぞれ再び半透鏡で二つに分けられ、一部が試料に向かいます。試料に向かう光は、固定鏡から帰ってきた光と移動鏡から帰ってきた光が重なりあっていますから、ある波長の光に注目すれば、二つの光の光路差が波長と一致すると強め合い、波長の二分の一になると消えてしまうことになります。

移動鏡の位置を変えながら透過光の強度を測定し、その時間変化をフーリエ変換すれば、個々の波長の赤外線に対する吸収を得ることができます。

 

(2)ラマン分光光度計(Raman)

Ramanでは、散乱光のスペクトルを解析します。

分子に光を照射すると、光が波長を変えずにそのまま散乱される(レイリー散乱)だけでなく、一部は分子とエネルギーのやり取りをして散乱される(ラマン散乱)ものがあります。

 

ラマン分光光度計
【図4 レイリー散乱とラマン散乱のイメージ】

 

やり取りするエネルギーの量は、分子の振動エネルギーに相当しますので、入射光と散乱光の波長差から分子の振動モードを特定し、結合状態を知ることができます。

照射光は、単色性が良くかつ強度もあるレーザ光を使うのが一般的です。
FT-IRでも数十μm程度の微小領域の測定は可能ですが、レーザラマンでは約1μmまで、測定領域を絞ることができ、例えば、表面に付着した微小有機物の同定、マッピングなどにも適用できます。

 

(3)核磁気共鳴(NMR)

質量数または原子番号のいずれかが奇数の原子核は核磁気モーメントを持っており、磁場の中に置かれると、磁場に平行な向きあるいは逆平行な向きに配向します。配向の向きによってわずかなエネルギー差があり(ゼーマン分裂)、このエネルギー差に相当する電磁波を吸収、放出するようになります(共鳴)。

 

核磁気共鳴(NMR: Nuclear Magnetic Resonance)
【図5 核磁気共鳴(NMR)】

 

エネルギー差は、磁場が強いほど大きくなりますが、超電導磁石を用いても共鳴周波数は数百MHz程度でいわゆるラジオ波の範囲です。このようにエネルギー差が小さい分、周囲の影響を受けやすく、分子の結合状態などによってエネルギーがシフトしたり(化学シフト)、周囲の原子核の核磁気モーメントとのカップリングによってスペクトルが分裂したりします。

最もよく使われる原子は1Hと13Cで、ほとんどの有機化合物はこれらを含んでいますので、分子構造とスペクトルの対応についてデータが蓄積され、核磁気共鳴NMR:Nuclear Magnetic Resonance)は特に有機物の構造決定のために有用な方法です。

[※関連記事:【分析化学を学ぶ】核磁気共鳴分光法(NMR)とは?はこちら]
 

さて、当連載コラムでは、第1回~第3回は、分析によって知りたい四つの事項、
 1.何があるのか?
 2.それはどれだけあるのか?
 3.それはどこにあるのか?
 4.それはどのような状態であるのか?
にそって、機器分析の概要を説明し、第4回~第6回は、
 ・形状を知りたい
 ・組成を知りたい
 ・構造を知りたい
場合に適した具体的な分析機器について説明しました。

最終回になる次回は連載の締めくくりとして、混合物の中から様々な方法で目的の元素(分子)を分離したうえで、最も直接的な手段である、質量分析器を用いて元素(分子)を特定する分析について紹介します。

 

(アイアール技術者教育研究所 H・N)

 

【連載:機器分析のキホン】

 

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