3分でわかる技術の超キホン 難燃剤の種類と作用機構

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難燃剤の種類と作用機構

プラスチックやゴムなどの有機材料は軽量性・加工性に優れますが、可燃性であり、物質によっては簡単に延焼してしまいます。
延焼防止のため、こうした有機材料には難燃剤が欠かせません。
難燃剤には有機系/無機系など様々な種類があり、その難燃化機構も様々です。

今回は代表的な難燃剤を紹介し、難燃化機構および近年の開発動向について解説します。

1.難燃剤の種類

難燃剤を大まかに分類すると、有機系無機系に分けられます。
無機系には金属の酸化物や水酸化物などがあり、有機系には有機リン系物質やハロゲン系物質があります。

それぞれの特徴を見ていきましょう。

 


【図1 難燃剤の分類図】

 
 

(1)有機系難燃剤① ハロゲン系難燃剤

有機系難燃剤の一種であるハロゲン系難燃剤は、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)やデカブロモジフェニルエーテル(Deca-BDE)などの臭素系物質が一般的です。
燃焼時にガス化して気相での燃焼反応をトラップするほか、発生したハロゲン化水素が酸素の希釈剤として働くことで燃焼を防ぎます。
各種ある難燃剤の中でも難燃化効果に優れるためハロゲン系難燃剤は重宝されてきました。

しかし近年ではDeca-BDEがEUで規制されるなど、環境への蓄積や生物への有毒性が懸念されるようになり、一部では有機リン系難燃剤への代替が進められています。

 

(2)有機系難燃剤② 有機リン系難燃剤

有機リン系難燃剤にはリン酸トリフェニル(TPP)やトリスジクロロプロピルホスフェートDOPOなどの芳香族リン化合物があります。
気相で燃焼反応を抑える効果があるほか、燃焼時にリン含有の高密度なチャー(炭)を生成することにより難燃化効果を発揮します。

また、有機リン物質ではありませんが単体の赤リンも難燃剤として使用されています。
赤リンはマッチの発火用に使われるため危険なイメージがありますが、少量の配合によって樹脂の難燃性を向上させることができます。赤リンは燃焼時に縮合リン酸となってチャーを形成します。

 

(3)無機系難燃剤① 金属水酸化物

代表的な無機系難燃剤は水酸化アルミニウム水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物です。
金属水酸化物は燃焼すると、以下のような反応により金属酸化物とH2Oを生成します。
金属酸化物は不燃性であるため、生成物自体が有機材料の延焼を防止するほか、水分子が可燃性ガスの希釈剤として働くことにより難燃化効果を発揮します。
また、この反応は吸熱反応であるため燃焼部分から熱を奪うことができ、事態の悪化を防ぎます。

 M(OH)2 → MO + H2O

 

(4)無機系難燃剤② アンチモン酸化物

三酸化アンチモンなどのアンチモン酸化物も難燃性付与のため有機材料に使われています。
単独での難燃化効果が薄いため「難燃助剤」として扱われますが、ハロゲン系難燃剤と併用することで優れた難燃化効果を発揮します。
三酸化アンチモンはハロゲン系難燃剤との反応によってハロゲン化アンチモンを生成し、これが樹脂表面を酸素から遮蔽することで難燃化に寄与する仕組みです。

 

2.難燃化機構

(1)気相での反応阻害による難燃化

難燃剤による難燃化機構を解説する前に有機物が燃える仕組みを見ていきましょう。
有機物の炭素と酸素が直接反応して燃焼が進むというイメージを持ちやすいですが、実際には直接反応するわけではありません。
有機物の燃焼はラジカルを通じた連鎖反応によって進むため反応機構は複雑ですが、簡略化すれば以下のような順序で燃焼が進みます。

  • ① 熱源または火が有する「熱」により有機材料が熱分解され、メタンなどの可燃性ガスが生成する。
  • 可燃性ガスと酸素が反応し、光と熱が発生する。(ラジカルによる連鎖反応)
     ⇒この光と熱がいわゆる「火」
  • 発生した熱が①の熱源となり、再び熱分解を引き起こす

気相で難燃化効果を発揮する難燃剤は上記のような反応を阻害することで役割を果たします。
より具体的には、燃焼反応の一部である素反応で発生したラジカルをトラップすることで燃焼反応を妨害します。中でも酸化力・反応性が非常に高く、連鎖反応の担体として働くOHラジカルのトラップは燃焼防止に大きく貢献します。

(ⅰ)の式は有機リン系難燃剤の熱分解で発生したPOによる活性OHラジカルのトラップ、(ⅱ)の式はハロゲン化水素によるOHラジカルのトラップを表しています。
また、(ⅱ)で発生したH2Oは気相における可燃性ガスを希釈する効果もあり、延焼防止に寄与します。

  • OH + PO → HPO + O  …(ⅰ)
  • OH + HX → H2O + ・X  …(ⅱ)

上記の反応はあくまでも一例です。
難燃剤は燃焼を構成する膨大な数の素反応を阻害することで役割を果たします。

 

(2)難燃性物質(チャー)形成による難燃化

気相における反応阻害のほか、チャー形成も材料難燃化をもたらします。
チャー(char)は直訳すると「木炭」や「黒焦げ」となりますが、化学におけるチャーは燃えにくく反応性に乏しい凝集帯を意味します。
ラジカルトラップが気相での難燃化であるならば、難燃剤によるチャー形成は「固相」での難燃化と言い表すことができます。

 

チャー形成による難燃化
【図2 チャー形成による難燃化】

 

有機リン系難燃剤は燃焼時にチャーを構成することで知られています。難燃剤中のリン含有率が高いほど緻密なチャーを形成すると言われており、緻密なチャーは断熱層として働き、延焼を防ぐことができます。

Si-O結合を有するシリコン系難燃剤ポリカーボネート(PC)の燃焼時に多量のチャーを生成するため、PC樹脂用の難燃剤として好まれます。なお、複数の異なる難燃剤を併用することでチャー形成が促進されることもあります。

 
気相での反応阻害、チャー形成と2つの機構を解説しましたが、難燃剤は必ずしも一方の機構のみで働くわけではありません。有機リン系難燃剤は上記の通り2つの機構を有するため、性能の高い難燃剤として好まれています。

 

3.難燃性の評価について

材料の難燃性を表す基準として「UL94」規格がよく知られています。
「UL規格」はアメリカの認証・検査会社であるUL社が定める規格であり、電気特性や長期物性など多くの評価規格が定められています。その中でもUL94は難燃性について定めた規格です。

 

UL94規格での垂直燃焼試験
【図3 UL94規格での垂直燃焼試験】

 

UL94の評価試験では評価板を縦状に上から下ろし、下から10秒間ガスバーナーで接炎させます。
接炎後、燃焼が30秒以内に止まったら、さらに10秒間接炎させて評価を行います。
総燃焼時間のほか、燃焼で落下した粒子が脱脂綿を発火させたか否かなどの基準に沿って材料の難燃性を評価します。
難燃性グレードは V-0>V-1>V-2 であり、V-0グレードの場合、接炎後に炎が10秒以内に消えなければなりません。
プラスチック材料は燃えやすい材料ですが、難燃剤を混合することでV-0グレードを達成することができます。

UL94規格のほか、限界酸素指数(LOI値)で難燃性を表すこともあります。
LOI値はその材料の燃焼に必要な酸素濃度を表したものです。
繊維のLOI値を見ていくと、レーヨンやアクリル繊維、ポリエステル繊維は18~21%の値をとります。
大気の酸素濃度は約21%であるため、こうした繊維は大気中で燃え続けるということを表しています。
一般的に22%以下で可燃性物質、26%以上で難燃性物質となります。
難燃剤の配合により材料のLOI値は上昇します。

 

4.近年の開発動向

難燃剤に関する近年の開発動向は、主に①規制対策②性能向上③背反防止の3つの方向性で進められています。

ハロゲン(臭素)系難燃剤はアンチモン系難燃助剤と併用により高い性能を発揮するため、従来より使用されてきました。
しかし、燃焼ガスの安全性や難燃剤自体の環境負荷が懸念され、各国で規制されるようになっています。
規制対策として、高分子化や非ハロゲン化により環境負荷低減を目指す研究開発が進められています。

有機リン系難燃剤はハロゲンの代替品として注目され、実用化されています。
しかし、ハロゲン/アンチモン系には性能が劣るため、性能向上に向けた研究が進められています。具体的にはDOPO分子の変性や酸化グラフェンへのDOPO導入、難燃剤分子中のリン濃度向上といった手法が取られており、このような手法によってより緻密なチャーが形成されると考えられています。

難燃剤による背反も課題の一つです。
プラスチック材料の場合、難燃剤を配合することで難燃性は向上できますが、物性は低下する傾向にあります。物性への影響度が小さい少量でも効果を発揮する難燃剤の開発や、樹脂の硬化剤として働き、物性をむしろ向上させる難燃剤の開発が進められています。

 

以上、難燃剤の基本について解説しました。
世界中における建築需要の増加や建物の安全基準強化などもあり、難燃剤の市場規模は今後伸びていくものと見られます。

 

(アイアール技術者教育研究所 G・Y)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1) マテリアルライフ学会誌,Vol.14,No.4,165-173(2002)
  • 2) 日本ゴム協会誌,Vol.79,No.6,316-322(2006)
  • 3) 東ソー株式会社(Webサイト)
    https://www.tosoh.co.jp/company/challenge/20220607.html
  • 4) 中小企業庁 (Webサイト)
    https://www.chusho.meti.go.jp/sapoin/index.php/cooperation/project/detail/4505

 

 

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