3分でわかる技術の超キホン 鉄鋼の組織と熱処理を整理!Fe-C状態図・用語解説等
鉄鋼は、機械部品でよく用いられる材料です。
今回のコラムは、その基礎知識として、鉄鋼の組織と機械的特性、そして目標とする機械的特性を得るため、熱処理でどのように組織を変えているのかについて解説します。
1.鉄の状態変化
温度変化などにより、化学組成が同じままで物理的特性を変化させることを「変態」と呼びます。
鉄鋼では、目標となる機械的特性を得るために、鉄に炭素(C)を加えますが、鉄と炭素の成分量が同一、すなわち化学組成が同一でも、変態により組織(結晶構造)を変え機械的特性を変化させます。
図1に鉄の温度による状態変化を示します。
図1(a)は、炭素添加量0%、すなわち純鉄の場合の状態変化を示しています。
図1(b)は、炭素添加量2.5重量%の場合の状態変化を示しています。
【図1 温度による鉄の状態変化】
純鉄では、温度を上げていくと、α鉄(アルファ鉄)、ɤ鉄(ガンマ鉄)、δ鉄(デルタ鉄)とよばれる状態に変化し、さらに温度を上げると液体状態となります。
結晶構造の違いとしては、α鉄とδ鉄は体心立方格子構造(BCC構造、body-centered cubic configuration)で、ɤ鉄は面心立方格子構造(FCC構造、face-centered cubic configuration)です。
ɤ鉄の結晶構造の方が原子間空隙が大きく、炭素などの原子を取り込みやすい構造となっています。
このような状態変化は、鉄に炭素を加えることにより変化します。
例えば、炭素添加量2.5%の場合の状態変化は、図1(b)のようになります。
Fe3Cは、鉄と炭素の化合物です。(*1)
(*1) Fe3Cは、炭化鉄分子ではなく、結晶格子にFeとCを含む結晶で、原子の比が3:1です
2.炭素を添加した鉄の状態図(Fe-C状態図)
図1(b)は、炭素量2.5wt%の例でしたが、炭素量を横軸に取り、状態の変化をグラフにしたものを「Fe-C状態図」(鉄-炭素系状態図)と呼びます。(図2)
この図から、各炭素量と各温度において、状態がどのようになっているのかが分かります。
炭素含有量0%は、純鉄の温度による状態変化を示します。
【図2 Fe-C状態図(鉄-炭素系状態図)】
「炭素鋼」と「鋳鉄」
「炭素鋼」(Carbon steel)という呼び名は、炭素含有量2wt%以下の鉄鋼に対して使われます。
炭素含有量2wt%以上の鉄炭素合金は延性が低く、主に鋳造用に使用されるため「鋳鉄」と呼ばれます。
3.鉄鋼の組織名
破損部品の破面解析などで、組織の名称が出てきますが、これらの名称を、α鉄、ɤ鉄、δ鉄などとの関係も含めまとめました。
鉄鋼の組織名 | 内容 |
フェライト ferrite |
α鉄に他の元素を固溶したもの(固溶限界は723℃で最大0.025%) |
オーステナイト austenite |
ɤ鉄に他の元素を固溶したもの(固溶限界は最大2%) |
セメンタイト cementite |
α鉄の炭素の固溶限界を越えた時に生じる、鉄と炭素との化合物Fe3C |
パーライト pearlite |
フェライトとセメンタイト(Fe3C)が層状に配列しているもの |
マルテンサイト martensite |
オーステナイトの急冷によりFe3Cを析出できずに、炭素がオーステナイトに固溶されたままとなった針状の組織 |
トルースタイト troostite |
セメンタイトとフェライトの混合組織 |
ベイナイト bainite |
オーステナイトの冷却時に、パーライトが生じる温度とマルテンサイトが生じる温度の中間で生じる組織(セメンタイトが微細に析出している) |
【図3 鉄鋼の組織】
δ鉄は、温度状態を除き、結晶構造がα鉄と同一(体心立方格子構造)のため、「δフェライト」とも呼ばれます。
鉄鋼の引張り強度は表面硬度に比例し、表面硬度は鉄鋼に含有する炭素とマルテンサイトの量が多くなるほど高くなります。
4.熱処理による組織の変更
これまで鉄鋼の組織についてまとめてきましたが、鉄鋼に施される熱処理が、どのような組織変化を与えるために行うのかを図4に簡単に整理してみました。
熱処理の種類 | 内容 |
焼き入れ quenching |
オーステナイト組織を、急冷して、硬度の高いマルテンサイト組織にする |
焼き戻し tempering |
急冷により得られたマルテンサイト組織中の残留応力の除去と、硬度と靭性(もろさが低いこと)の調整を行う |
焼きなまし annealing |
オーステナイト組織を、ゆっくり冷却して、フェライトとパーライトの混合組織にして、マルテンサイト組織よりも加工をしやすくする |
焼きならし carburizing |
鉄鋼表面に炭素を拡散浸透させ、表面に硬化層を作る |
浸炭 nitriding |
鉄鋼表面に窒素を拡散浸透させ、表面に硬化層を作る |
高周波焼き入れ induction hardening |
炭素量0.3%以上の鉄鋼に対して、表面を高周波の電磁波により加熱して焼き入れを行う |
サブゼロ処理 subzero cryogenic treatment |
焼き入れによりマルテンサイトに変化できなかった残留オーステナイトを低温状態保持によりマルテンサイトに変化させる |
【図4 熱処理の機能】
高温のオーステナイトを急冷するとマルテンサイトに、ゆっくり冷却するとフェライトに、その中間の冷却でパーライトとなります。
硬度は、[マルテンサイト>パーライト>フェライト]の順となります。
オーステナイトの焼き入れの際に、マルテンサイトに変化できず残ったオーステナイトは「残留オーステナイト」と呼ばれ、低硬度や経時寸法変化により破損不具合の原因となりますので、なるべく低減しなければなりません。ただし適度な量にしてオーステナイト組織による靭性向上を行うという設定もあります。
焼きなまし、焼きならし、およびサブゼロ処理は、それぞれ「焼鈍」、「焼準」、および「深冷処理」とも呼びます。
5.鉄への添加物の種類と効果
鉄鋼や合金鋼では、強度特性や耐摩耗性など部品に求められる機械的特性を得るために添加物を加えます。
主な添加物の効果を図5にまとめました。
添加物の種類 | 効果 |
C 炭素 | 硬度、引張り強度を向上する |
Si ケイ素 | 硬度、引張り強度を向上する |
Mn マンガン | 焼き入れ性を向上し、靭性を向上する |
Cr クロム | 浸炭・焼き入れをし易くし、耐摩耗性を向上する |
Mo モリブデン | 高温での組織肥大化を防ぎ、焼き入れ性を向上し、引張り強度を向上する |
Ni ニッケル | 耐衝撃性、耐食性および耐摩耗性を向上する |
V バナジウム | 結晶粒を微細化し、硬度の高い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上する |
W タングステン | 硬度の高い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上する |
【図5 鉄鋼に対する添加成分の効果】
鉄鋼材料に含まれる、リン(P)や硫黄(S)は、鉄鋼の脆性を高める有害な成分ですので、含有量の管理が必要です。一方、切削性の向上のためにS添加の効果を用いる場合もあります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)