【半導体製造プロセス入門】熱処理の目的とは?(固相拡散,結晶回復/シリサイド形成/ゲッタリング)

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半導体熱処理装置(アニール装置)

半導体製造では、さまざまな熱処理(アニール)を行います。

「熱処理」というと難しく聞こえますが、意図する効果を得るために、要は製造の過程で、シリコンウエハーに熱を加え、化学反応や物理的な現象を促進させることです。

今回は、半導体製造プロセスにおける熱処理の目的を中心に解説します。

1.熱処理とは?

包丁やハサミなどの刃物を作る過程で、鍛冶の職人さんが「焼き入れ」や「焼きなまし」を行いますが、これが熱処理の身近な一例です。鍛冶の職人さんは火入れの加減を長年の勘で行っていますが、半導体製造の世界では科学的な理論に基づいて熱処理の加減を調整しています。

つまり、鍛冶屋さんの熱処理を、もっと精密・厳格に半導体ウエハーに対して行っていると考えていいでしょう。
 

2.半導体ウエハーに対する熱処理の目的

半導体製造プロセスにおけるウエハーに対する熱処理の目的として、代表的なものは以下の3つがあります。

① イオン注入後の結晶回復と固相拡散
② シリサイド形成
③ ゲッタリング

これらの熱処理を行う熱処理装置は、すべて同じものが用いられます。

つまり、クリーンルーム内に複数の同じタイプの熱処理装置が多数設置してあり、それらは、それぞれの熱処理プロセスに応じて温度や時間を変えてあります。そして、必要なプロセスに応じた処理装置にウエハーが投入されるということになります。

また、ウエハー表面に層間絶縁膜や金属薄膜を形成する成膜装置も加熱プロセスを使用します。
 

3.ドーピングと熱処理

ドーピングの後には必ず熱処理が行われます。
熱処理は、ウエハーに熱を加えることで、「固相拡散」を促進し、「結晶回復」を行うプロセスです。

(1)固相拡散

イオン注入プロセスによって、不純物がウエハーの表面に導入されますが、それだけは完全にドーピングが完了しているとは言えません。なぜかというと、図1に示したように、導入された不純物はシリコン結晶の隙間に強制的に埋め込まれているだけで、シリコン原子との結合が行われていないからです。

イオン注入後の結晶構造
【図1 イオン注入後の結晶構造】

 

原子同士の結合が行われていないということは、自由電子やホールのやり取りが原子間で行われず、電気が流れないということになります。
そこで、何らかの手段を用いて、不純物原子とシリコン原子との結合を行う必要があります。

電子はエネルギーを加えると活性化します。そして、結晶内を動くようになり、反応性が高くなります。
エネルギーを手っ取り早く与える方法は「加熱」です。半導体ウエハーに熱を加え、シリコン原子や不純物原子の周りを回っている価電子の反応性を上げることで、シリコン原子と不純物原子との結合が促進されます。このようにして、不純物原子がシリコン原子と結合して、新たな結晶構造を形成することを「固相拡散」といいます。

結晶内に熱が伝わり拡散していくのにしたがって、不純物原子とシリコン原子間の結合が行われていくので、不純物があたかも拡散していくように見えるため「拡散」と呼ばれているのです。

 

(2)結晶回復

イオン注入はシリコン単結晶中のシリコン原子同士の結合を無理やり断ち切って、不純物を叩き込むために、イオン注入後はシリコン単結晶の結晶構造がズタズタになっています。
そこで、ウエハーに熱を加えることで、図2に示されるように、シリコン原子同士の結合を回復させる必要があります。これを「結晶回復」といいます。

結晶回復後の結晶構造
【図2 結晶回復後の結晶構造】

 

4.シリサイド形成と熱処理

「シリサイド」とはあまり聞きなれない言葉です。半導体製造分野での専門用語で、シリコンと金属の化合物のことを言います。

例えば、金属の一種であるタングステンとシリコンの化合物は「タングステンシリサイド」、銅との化合物は「銅シリサイド」と呼ばれます。

シリサイドは、主にトランジスタのゲートやドレインソースの電極と金属配線層とをつなぐ役割を持っています。

なぜ、シリサイドが必要かというと、トランジスタの電極に直接金属配線を行ってしまうと、トランジスタとの電子の流れが細い金属配線層に集中してしまい、電子がうまく流れず、電気抵抗が増大してしまうからです(これを「接触抵抗が高い」と言います)。

電気抵抗が大きいと必要となる電子の数が多くなり、デバイス全体の消費電力が増してしまいます。この状況は、デバイスの集積度が高くなり、素子の大きさが小さくなればなるほど顕著になってきます。
そこで、接触抵抗をできるだけ減らし、電子の流れをスムーズにするためにシリサイド膜を形成することが多くなっています。

シリサイド膜の形成はまず、電極に成膜装置を使用して金属膜を形成します。もちろん成膜プロセスでも加熱を行いますが、シリサイド膜の形成とは加熱の温度が異なります。

成膜プロセス後のトランジスタの電極は、下部にシリコン、上部に金属の接合面(半導体同士の接合であるPN接合面とは異なります)を持っています。この状態で熱処理を行うと、シリコンと金属が化学反応を起こし、接合面の上下にシリサイド膜が形成されます。

このようにシリサイド膜形成は熱処理プロセスを一つ加えるだけで接触抵抗を低減することができるので、大変よく使われている製造プロセスです。
 

5.ゲッタリングと熱処理

何も加工されていないシリコンウエハー(ベアウエハー)は、「イレブン・ナイン」と呼ばれる非常に高い純度を持っています。しかし、100パーセントではありません。ごく微量ですが不純物(主に金属です。ドーピングの不純物とは異なります)を含んでいます。そして、この微量の不純物が悪さをする場合があります。

ところで、トランジスタとしての動作を行わせる製造プロセスは、主にウエハーの表面の浅いところで行われますが、この浅いところに金属不純物があったらどうでしょうか?
この場合、トランジスタとしての意図した動作特性を実現することは難しくなります。

ひと昔、ふた昔前のデバイスでは、集積度が今ほど高くなかったために、金属不純物の影響はそれほど大きくありませんでした。しかし、集積度が上がるにしたがって、トランジスタとして加工を行う深さはどんどん浅くなっています。また、影響を与えると思われる金属不純物の濃度も年々小さくなっています。

そのため、ベアウエハーに求められる純度の高さはますます上がっていますが、ベアウエハーの全ての深さで純度を上げることには限界があります。もっとも、金属不純物の濃度が高い場所が、トランジスタとしての動作に影響を与えないほど深いところであれば、多少濃度が高くても使用に耐え得るということになります。

一方、ベアウエハーはすべての場所でムラのない均一な結晶構造を有しているはずですが、実際にはごくわずかに結晶のムラがあり、原子が存在しない場所(結晶欠陥)が所々あります。そこで、金属不純物をこのムラや欠陥に集めることを考えてみます。このプロセスを「ゲッタリング」といいます。そして、このムラや欠陥のことを「ゲッタリングサイト」といいます。

ベアウエハーを切り出したときにできる裏表面の微小な凹凸などもゲッタリングサイトとなります。この場合、熱を加えることでウエハーの裏面に金属不純物を集めることができます。

ゲッタリングサイトが存在する場所の結晶の密度は低く、金属不純物が存在する結晶の密度は高いです。
ウエハーを加熱して、電子の活性を上げると、結晶の濃度の高い部分の金属不純物がゲッタリングサイトに移動していきます。

つまり、結晶の濃度差を利用して、金属不純物をウエハーの深い位置あるいは裏面に集め、ウエハー表面のトランジスタの動作特性への影響を回避することができます。このようなゲッタリングプロセスにも熱処理装置が使用されています。

 

次回は、実際に使用されている主な熱処理装置の種類と方式について解説します。

 

(アイアール技術者教育研究所 F・S)

 

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