- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceを活用したEMC設計基礎から設計応用(セミナー)
2024/12/19(木)10:00~17:00
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このコラムシリーズでは、信頼性試験の基礎知識を解説しています。
前回の「環境試験」に続いて、今回は「EMC試験」「電気的試験」の主な種類と概要をご説明します。
目次
EMC(Electromagnetic Compatibility)は電磁両極性という意味合いを持ちます。
EMC試験は「EMI試験」と「EMS試験」の2つに分類ができます。
ノイズを発しない/ノイズに影響されない強い製品が設計出来ているかどうか評価します。
「エミッション」は機器から発せられるノイズのことをいいます。
放出されたノイズは空気中もしくはケーブルを渡って他の機器に影響を及ぼします。
エミッションのノイズレベルについては、あらゆる技術基準にて限度値が決められています。その限度値内にノイズレベルが収まる様に製品の設計をする必要があります。
測定対象の機器(以下、EUT)から放射されたノイズをアンテナで受信して、ノイズの強度を測定します。
アンテナは1種類だけではなく、測定する周波数によって交換する必要があります(下表参照)。
周波数帯[Hz] | 使用アンテナ |
30~50 | モノポールアンテナ |
30M~300M | バイコニコルアンテナ |
0.7G~6G | ホーンアンテナ |
180M~1500M | ログペリアンテナ |
【表1 使用するアンテナと周波数帯の対応表】
EUTや接続されているケーブルから放射されたノイズ、または地面で反射して合成されたものをアンテナが受信します。さらに、アンテナが検出するノイズの強度は EUTとアンテナの位置関係によって変動します。
EUTを回転させたり、アンテナの高さを変えることでノイズの強度が最大となる点を探し出します。
車載機器の場合では、車体(ボディ)の近くに機器やハーネスが配置されることが多いです。
その環境を再現するために、卓上のグランドプレーン上にEUTとハーネスを設置します。
アンテナはEUTもしくはハーネスから1mほど離れた場所に設置して測定を行います。
ただし、アンテナとEUTとの距離は規格によって異なるので試験前によく確認をしましょう。
一般の電子機器では、低い周波数帯にて電源ケーブルなどを介して電磁干渉が生じることが多いです。
伝導エミッション試験では、EUTから電源ケーブル(または通信ケーブル)を通って外部に伝播するエミッションの電圧を測定します。
測定する周波数は150 kHz~30 MHzが多いですが、規格によって異なるので注意しましょう。
放射エミッションと異なり、アンテナは使用せずに擬似電源回路網(AMN:Artificial Mains Network)を介して電磁ノイズを抽出します。
規格によって電流プローブ、電圧プローブを用いた測定法を使用します。
イミュニティ試験では、無線電波や他の機器から発生したノイズを受けた場合の影響を評価する試験です。
エミッション試験と同様に放射/伝導の2パターンで試験を実施します。
この他にも静電気(ESD)や、落雷などによるサージが機器に及ぼす影響についても評価します。
EUTが無線電波(スマートフォン、ラジオ放送、TV放送など)や、産業機器から発せられた電波を受けることで、電流や電圧が誘起されて誤動作を起こす場合があります。特にEUTに接続されているケーブルはむき出しの状態のためノイズの影響を受けやすいといえます。(回路基板のパターンや電子部品単体もノイズの影響を十分に受けます)
放射イミュニティ試験は、これらの電磁波に対して耐性があるかどうかを確認する試験です。
アンテナを使用して強度のノイズを放射することから、試験時には外部へ影響を及ばさないために電波暗室内にて試験を実施します。
ケーブルを通ってノイズが入ってきた場合にEUTがどの程度影響を受けるのか評価する試験です。
高周波成分を持っている場合には電波としてEUTに影響を及ぼしますが、低い周波数帯ではケーブルを通してEUTに影響を及ぼすことが多いです。
ノイズによってケーブルに誘起された電圧や電流が、機器の誤動作を招くのです。
以上のことから、低い周波数のノイズに対するイミュニティ試験では、ケーブルに妨害信号を注入する方法が採用されます。規格によってケーブルに妨害電流を誘起させる電流注入クランプ、妨害信号を注入するEMクランプを用いて測定を行います。
人体や物体には電荷が蓄えられます。冬など乾燥した季節にドアノブに触れると指先からパチッと音を立てて放電することがあります。これが静電気と呼ばれるものですが、人体が発するエネルギーはさほど大きくありません。エネルギーが大きい場合、機器が誤動作もしくは小型サイズの電子部品が損傷することもあります。
(回路基板の場合、回路にコンデンサを挿入して静電気を吸収する対策を取ることが一般的です)
静電気放電試験では、ESDシミュレータを使用して、機器の静電気への耐性を評価します。
ESDシミュレータには放電ガンが装備されており、ガンの先端から静電気が放電されたものがEUTに印加されます。静電気放電をする時には高いレベルの電磁界が放出されます。それにより、近くに配置されている電子機器への干渉を引き起こすこともあります。EUTに直接静電気を印加する方法が直接放電試験、EUTの近くの胴体に静電気を加える方法が間接放電試験です。
電源系統の切り替えの時、エンジン始動時、あるいは落雷が起こることによって電源ケーブルや信号ケーブルにサージが発生します。このサージのエネルギーは非常に大きいもので、機器の誤動作を引き起こすだけでなく故障に至る場合もあります。
サージを対象のケーブルに印加して、機器に及ぼす影響について評価します。
特に、落雷時の電圧・電流・エネルギーは非常に大きく、電子機器にとって驚異的な存在です。
落雷した瞬間にエネルギーが空気中に拡散され、配電線や通信線を通って機器に過電圧(誘導雷)が加わり故障することもあります。
実際の試験では、試験機からEUTの電源ラインや通信ラインに誘導雷を模擬したノイズを印加し、雷サージへの耐性を評価します。
環境試験、EMC試験の他に電気的試験があります。
ここでは代表的な試験としてパワーサイクル試験を説明します。
他にはオペレータが誤ってバッテリを逆に接続してしまう事を想定した逆電圧試験、定格電圧を超えた電圧を一定時間印加し続ける過電圧試験などがあります。
ショートタイム試験では、デバイスのON→OFFへの切り替え時間は数秒~数10秒程度とします。ケース温度 (Tc)を安定させて、チップ温度を上昇・下降させます。
チップ上のワイボンド接合部やチップ下の金属接続材で発生する電気的・熱的ストレスを評価します。
ロングタイム試験では、デバイスのON→OFFを繰り返して、パッケージ温度を上昇・下降させます。
デバイスがONすることでデバイスそのものが発熱してジャンクション温度 (Tj)、ケース温度 (Tc)が上昇します。OFFすることでデバイスが冷却されて周囲温度 (Ta)に戻ります。
チップ下のはんだ接合部で発生する電気的・熱的ストレスを評価します。
以上、今回は信頼性試験・評価のうち、「EMC試験」と「電気的試験」の基礎知識をご紹介しました。
(アイアール技術者教育研究所 S・H)