【早わかりポンプ】NPSHAはポンプユーザー側が提示する値(NPSHAの計算方法と条件)

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ポンプ指標・NPHSAについて解説

当連載の第2回「キャビテーションとは?発生原理やNPSHなどの基礎知識をやさしく解説」では、ポンプに特有の困りごとであるキャビテーションについて解説しました。

キャビテーションに関連する指標である「NPSH」のうち、「NPSHA」については連載第2回でNPSHAとNPSHRの関係に少し触れてはいますが、NPSHAはポンプユーザーも十分に理解しておく必要があります。

そこで今回は、NPSHAについて詳しく解説したいと思います。

1.NPSHA(Available NPSH)の計算方法

NPSHAとは、「有効吸込みヘッド」といい、利用できるNPSHのことです。
ポンプの設置条件、および吸込み条件で決まる値で、その時の水温における飽和蒸気圧に対する、ポンプ羽根車吸込み中心における吸込みヘッド余裕分のことです。

NPSHAはポンプユーザー(発注側)がポンプメーカーに提示する値ですので、ポンプユーザーはNPSHAの計算方法と、その提示条件を正しく理解する必要があります。

では、2つの例についてNPSHAの求め方を見ていきましょう。

 

(1)水面より高い位置に設置したポンプのNPSHA

下の図1は、大気圧が作用する水面から、ポンプ軸中心(羽根車中心)まで S[m] の高さに設置した横軸ポンプです。

水面より高い位置に設置したポンプ
【図1 水面より高い位置に設置したポンプ】

 

水の密度をρ [kg/m3]、重力加速度をg[m/s2]、フート弁を含む吸込み配管の損失水頭をHLとすれば、

 NPSHA=Pa/ρg-Pv/ρg-S-HL ・・・(1)

大気圧 Pa=101325Pa(標準気圧)、水の飽和蒸気圧力 Pv=2400Pa(水温約20℃)、水の密度 ρ=1000、重力加速度 g=9.8 とします。

ポンプ流量 Q[m3/min]、吸込み配管内径 d[mm] とすれば

 吸込み流速 v=Q/60/{(π/4)d2} ・・・(2)

吸込み配管長さ L1=6[m]、L2=2[m]、d=80.7[mm] とします。
一般的な値として直管部の管摩擦係数を0.03、エルボの損失係数を0.21、フート弁の損失係数を2.0とすれば、吸込み配管損失水頭は、

 HL={0.03(6+2)/0.0807+0.21+2.0}(v2/2g)=0.264 v2 ・・・(3)

式(1),(3)より、

     

  • NPSHA=(101325-2400)/(1000×9.8)-3-0.264 v2=7.09-0.264 v2

式(2)より、

    >Q=0.8のとき v=2.61, NPSHA=7.09-0.264×2.612=5.29[m]
  • Q=1.0のとき v=3.26, NPSHA=7.09-0.264×3.262=4.28[m]
  • Q=1.2のとき v=3.91, NPSHA=7.09-0.264×3.912=3.05[m]

大気圧、飽和蒸気圧、吸い上げ高さが一定であっても、損失水頭が流速の2乗に比例して大きくなるので、流速が大きい、すなわち流量が多くなるほどNPSHAは小さくなります
仮に、ポンプNPSHR=3.0[m]であったとすると、Q=0.8~1.0[m3/min]までは運転可能ですが、Q=1.2[m3/min]では、NPSHA≒NPSHRとなって、NPSHAに余裕が無くなるため運転不可能になります。

連載第4回「ターボポンプの比速度と吸込比速度」の中で解説したように、流量が増えるほどNPSHRも大きくなるので不利となります。運転流量範囲を良く確認することが重要です。

 

(2)密閉タンクがポンプより高い位置に設置された場合のNPSHA

下図のように密閉貯槽がポンプ軸中心(羽根車中心)より高い位置に設置された場合で、炭化水素プロセスポンプやボイラ給水ポンプなどが該当します。
密閉貯槽内部の圧力Paは、液の飽和蒸気圧力Pvと等しくなっています。
ポンプ軸心(羽根車中心)から貯槽内の液面までの高さをhaとすれば、haは吸上げ高さではなく押し込みとなります。

したがって式(1)より、

 NPSHA=(Pa-Pv)/(ρg)+ha- HL=ha- HL

すなわち、NPSHAは押し込み高さから配管損失を引いた値となります。

内径 d=80.7[mm] の吸込み配管損失係数が、上記と同じく ha=7.09[m] であれば、NPSHAは上記計算例と等しい 7.09-0.264 v2 ということになります。
ただし、ポンプが高温状態のまま吸込み貯槽だけが急に温度低下するような変化がある場合、ポンプ内部の飽和蒸気圧が、貯槽内圧より高くなるので、その分を差し引いてNPSHAを求める必要があります。

なお、配管損失は、流量の2乗に比例して大きくなるので、流量が大きいほどNPSHAが小さくなることは、吸い上げの場合と同様です。

密閉タンクからの吸込み
【図2 ポンプより高い位置に設置された密閉タンクからの吸込み】

 

2.提示するNPSHAの条件

NPSHAは本来、ポンプ羽根車の吸込み中心(立軸多段ポンプの場合は初段羽根車)における値です。
計算例のように吸込み配管中心と、羽根車中心(軸心)が一致している場合は、羽根車に対するNPSHAとして提示することができます。

しかし、ポンプ吸込みフランジと羽根車の位置がずれている場合や、あるいは両者の位置関係が不明な場合もありますので、NPSHAを「吸込みフランジ中心における値」というように条件を明確にしてポンプメーカーに提示します。

吸込みフランジと羽根車の位置がずれている例には次のようなものがあります。

 

(1)上向きノズル

高い位置に設置した吸込みタンクからの押し込みの場合に良く用いる構造です。
ノズル高さHnの分だけ、実際のNPSHAは提示NPSHAより大きくなります。
ポンプにとってHnはNPSHA余裕となります。床面における値として提示される場合もあります。
このときは、ポンプNPSHAは提示値からセンタハイトHcを引く必要があります。

ポンプメーカーは提示されたNPSHAがどの位置における値なのか条件を良く確認する必要があります。

上向きノズル
【図3 上向き吸込みノズルの場合のNPSHA】

 

(2)ピットバレル型二重胴ポンプ

二重胴ポンプの場合については、連載コラム第3回「ターボポンプの構成部品と構造面による分類」の”ケーシングによる分類(3)単胴と二重胴(② NPSH確保)にも解説していますので、ご参照ください。

吸込みフランジ中心におけるNPSHAがポンプのNPSHRに対して不足するときは、ピットを深くして(初段)羽根車中心におけるNPSHAを増やすことができます。
羽根車の水没深さでNPSHAを大きくとることができるのは、立軸ポンプの利点の一つです。
 

NPSHAはポンプを選定し設計するうえで重要な指標の一つです。
提示されるNPSHAがどの位置における値であるのか、またどの流量における値であるのか、NPSHAの変動がないのかなど、ポンプユーザーとポンプメーカーの間で十分に確認し、共有することが重要です。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 

 

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