【早わかりポンプ】ターボポンプの比速度と吸込比速度

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今回は、ターボポンプに関する議論や検討を行う際に、必ずと言ってよいほど頻繁に出てくる用語である、「比速度」「吸込比速度」について説明したいと思います。

ポンプの設計製造を行う側だけでなく、ポンプの仕様書作成・発注や運転・保守管理を行うユーザ側にとっても大変重要な用語ですので、その意味する所を正しく理解するようにしましょう。

なお、必要に応じて本コラム連載のこれまでの記事の掲載内容も併せて参照ください。

 

1.比速度Ns

ポンプに要求される基本的な機能である流量と全揚程とが要求仕様として与えられることで、羽根車やケーシングなど、ポンプ主要部品の寸法や形状を設計します。

ここでターボポンプは羽根車が回転することにより、流量と全揚程という機能を発揮する機械であり、羽根車の形状を定義するためには、回転速度の設定が必要となります。
つまり、ターボポンプの羽根車形状は、①流量、②全揚程、③回転速度の3つのパラメータから決定することになります。

ポンプの流量をQ(m3/min)、全揚程をH(m)、回転速度をN(min-1)とした時、比速度(Specific Speed、以下 Nsと表します)は次の式で定義されます。

Ns=NxQ1/2 / H3/4  ・・・(1)

Nsは、ターボポンプの羽根車形状の相似性を表す数値です。
すなわち、Nsは形状が相似であるポンプについては同じ値となります。

回転速度Nと流量Qが一定とすれば、(1)式からわかるように、全揚程Hが大きくなるほどNsは小さくなります。また回転速度Nと全揚程Hが一定とすれば、流量Qが大きくなるほどNsは大きくなります。

コラム連載の第1回で解説したように、「流量は少なくて良いが、全揚程を高く出したいときは遠心ポンプ」、「流量を多く流したいが、全揚程は低くて良いときは軸流ポンプ」、という選定区分になりますので、小流量、高揚程の遠心ポンプはNsが小さく、大流量低揚程の軸流ポンプはNsが大きくなります。

遠心ポンプはNs100~500程度、斜流ポンプはNs500~1200程度、軸流ポンプはNs1200程度以上、が概ねの適用範囲です。
ただし、このNsの範囲別に羽根車の型式が必ず一つに決定されるわけではなく、範囲境界付近のNsであれば遠心・斜流どちらの形式、あるいは斜流・軸流どちらの形式にも設計することが可能です。

遠心ポンプは、回転速度が同一の場合、羽根車の直径が大きいほど全揚程が高くなり、羽根車の出口面積が大きいほど(直径が同じであれば、出口幅が広いほど)流量が大きくなります。
従って羽根車の断面形状は、Nsが小さいほど細長い形に、Nsが大きいほどずんぐりした形となります。
いわばNsとは、人間のBMI値のような値ということもできます。
そして同じNsで遠心にも斜流にも、あるいは斜流にも軸流にもなるということは、例えば筋肉質で見た目はスリムでもBMI値が意外に大きい、というケースに似ているかもしれません。

羽根車の断面形状とNsの関係のイメージは下図のようになります。

Nsと羽根車

 

2.吸込比速度S

ポンプに関する連載コラム第2回では「キャビテーション」を取り上げ、そこでNPSHという用語についてご説明しました。

NPSHRは羽根車がキャビテーションを発生することなくポンプ運転できるために必要な吸込みヘッドのことで、回転速度と流量の2つのパラメータと深い相関があります。
流量、回転速度、NPSHRの関係を比速度と同様の考え方で整理することができます。

NPSHRをhsv(m)、流量をQ(m3/min)、回転速度をN(min-1)とした時、吸込比速度(Suction Specific Speed、以下Sと表します)を次の式で定義することができます。

S=NxQ1/2 / hsv3/4 ・・・(2)

Sはポンプ羽根車入口形状(入口面積、翼入口の角度など)に依存する数値であり、普通に設計された遠心羽根車の場合、Sはおよそ1200程度となります。

(2)式からS値が大きいということは、回転速度と流量が一定ならばhsvが小さいということになり、より小さいNPSHA条件において運転可能すなわち吸込性能が良いことを示します。
特殊な設計を行えば、S=1500程度の吸込み性能とすることは可能です。

(2)式から、S値と流量Qが一定であれば、回転速度が大きくなるほど、NPSHRは高くなります。
高速回転になるほどキャビテーションが発生しやすくなるので、高速ポンプの吸込条件には注意が必要です。

また、S値と回転速度が一定であれば、流量Qが小さくなれば、NPSHRが低くなります。
遠心ポンプで両吸込羽根車(コラム第3回参照)を用いれば、片側の羽根車入口流量をポンプ全体流量の1/2とすることができますので、(2)式からNPSHRは片吸込の場合の60%強程度に低減することができます。
両吸込羽根車はNPSHAの値が小さい場合に採用されることがあります。

 

3.NsとSには単位がある

Nsとs値は無次元数ではないので、単位が(m3/min,m.min-1)でない場合にはその数値が変わってくるので注意が必要です。
たとえばAPI(米国石油協会)仕様が適用される場合などに米国単位(ヤード・ポンド)が使用されます。
この場合、流量単位としてUSGPM(米ガロン毎分)、揚程単位としてft(フィート)が用いられます。
回転速度は同じmin-1です(rpmと表示することがあります)。

この時、単位(m3/min,m.min-1)を用いたNsとSに6.67を乗じることで米国単位系に換算することができます。
例えば、Ns200(m3/min,m.min-1)の遠心ポンプは、米国単位で表すとNs1334(USGPM,ft,rpm)になります。
S=1200(m3/min,m.min-1)は、米国単位ではS=8004(USGPM,ft,rpm)になります。

NsとSは無次元数ではないので、議論・検討などする際には、その単位をよく確認することが重要です。
 

ということで今回は、ターボポンプの基本機能である流量、ヘッドを回転速度と関連付けることにより羽根車形状の相似性を表す重要な指標である”Ns”と”S”についてお話ししました。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 

 

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