3分でわかる技術の超キホン 光ファイバに固有の光損失(レイリー散乱、吸収損失、構造の不均一性による散乱)

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光ファイバの光損失を解説

通信ではデータが速く正確に遠くまで伝送されることが求められます。光通信の場合には、光ファイバを伝送するデータである光は様々な要因で減衰しますので、この光損失を抑えることが必須となります。

光ファイバ通信で考えられる光損失としては表1に示すような要因が挙げられます。
光損失は要因により、”光ファイバ自体に固有の損失”と”光ファイバを通信システムに使用したときに生じる損失”の2つに分類することができます。

今回のコラムでは、光ファイバに固有の損失について解説します。

 
分類 要因
光ファイバに固有 レイリー散乱損失
吸収損失
構造の不均一性による散乱損失
システム組込時 曲げ損失
マイクロベンディングロス
接続損失
結合損失

[表1 .光ファイバ伝送時における光損失]

 

1.レイリー散乱損失

「レイリー散乱」とは、光がその光の波長に比べて十分小さい微粒子との相互作用により光の進行方向が変化する現象です。

光ファイバを製造するためには、光ファイバ母材である石英ガラスを高温(約2,000℃)加熱して溶かしてから糸状に引き伸ばす(線引き)過程があります。
引き伸ばされたガラスは室温(25℃)に急冷されて巻き取られます。

これらの過程において、まずガラスが高温で溶融されたことによってランダムな密度のゆらぎが生じます。
そして、その後に急冷されたことで、ガラス組織のゆらぎが光ファイバに残留して固まります。

これにより光が光ファイバ内を伝送する際には、光ファイバに残ったゆらぎが屈折率のゆらぎとなりレイリー散乱が起こるため、損失が生じます。
すなわち、レイリー散乱による損失は、光ファイバのコアの屈折率の不均一性による光損失です。

レイリー散乱損失は、短波長側では波長の4乗に反比例します。
つまり、波長が長くなるにつれてレイリー散乱損失は小さくなります。

レイリー散乱損失自体を小さくするために、フッ化物ガラスを用いたファイバも開発されています。
フッ化物ファイバは製造時におけるガラスの溶解温度が約700℃で、石英ガラス(約2,000℃)に比べると低くなるため、急冷したときの変化も少なく、ガラス組織の不均一性を小さくすることができます。

 

2.吸収損失

「吸収損失」とは、光ファイバを伝送する光パワーが光ファイバによって吸収され、熱に変換されるために生じる光損失です。

吸収損失には、光ファイバの材料であるガラスの主成分(SiO2)による固有の損失と、ガラス内に含まれている不純物による損失があります。どちらも波長に依存します。

SiO2による固有の損失には、0.1μm付近に損失ピークをもつ紫外吸収損失と10μm付近に損失ピークをもつ赤外吸収損失があります。SiO2による固有の損失は、これらのピークの谷間である1.0~1.6μmで低くなります。

不純物による損失は、主に水酸化物イオン(OH)によるものです。OHの振動による吸収のピークがSiO2中では2.8μmになります。そのため高調波にあたる0.94μm、1.24μm、1.38μmで損失ピークをもちます。

したがって、これらのピークの谷間の波長帯である0.85μm付近、1.3μm付近、1.55μm付近が低損失となります。順に光ファイバの第一の窓、第二の窓、第三の窓と呼ばれています。

 

3.構造の不均一性による散乱損失

「構造の不均一性による散乱損失」とは、光ファイバを構成するコアとクラッドの境界面において伝送する光がコアの外側に放射されるために生じる光損失です。

光ファイバは、中心部のコアとその周りに設けられるクラッドから構成されています。
コアの屈折率をクラッドの屈折率よりも高くすることで、コアとクラッドの境界面で全反射が起こるため、光を閉じ込めて伝送することが可能になります。

先に述べた光ファイバ製造時に起因したゆらぎは、コアとクラッドの境界面でも存在します。
コアとクラッドの境界面に生じた凹凸により、光が全反射せずに乱反射することで光損失が生じます。

 

光ファイバ通信の波長は、光ファイバ固有の損失要因で決まる!

以上より、光ファイバ通信で使用できる波長は、光ファイバに固有の損失要因により定まっています。
短波長側はレイリー散乱損失、長波長側では赤外吸収損失で決まります。

レイリー散乱損失が最も少ないのは1.55μmで、光ファイバの最小損失値も1.55μmで理論限界になると考えられています。そして、赤外吸収損失をさらに長波長側にシフトすることで、その最小損失値を小さくできる可能性があります。

 
次回は、光損失に関する説明の続きとして、光ファイバを通信システムに使用した際に生じる光損失(曲げ損失、マイクロベンディングロス、接続損失、結合損失)についてご紹介します。

 
(日本アイアール株式会社 N・S)

 

 

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