《注目のLiDAR関連技術》FMCW(周波数変調連続波)とは?光計測技術の前提知識から解説

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(LiDARで)注目されるFMCW法

近年、自動運転の分野などで「LiDAR」と呼ばれる技術が発展してきました。LiDAR技術にはいくつかの方式がありますが、特にFMCW方式(Frequency Modulated Continuous Wave, 周波数変調連続波)が注目されています。

この記事では、そのFMCW方式の基礎知識について解説します。

1.《前提知識》光計測の基本

光計測」とは、光を用いて様々なものを計測する技術です。
例えば、レーザ光を対象物に照射し、照射した参照光と対象物からの反射光との位相差から距離を求める技術などがあります。

上述の「LiDAR」(Light Detection and Ranging)は、光を使って物体距離や形状を測定する方法です。簡単に解説すると、電磁波を物体に向けて発射してその光が反射して戻ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離を測定したりしています。LiDAR技術は光計測や光センシング技術の一つといえます。

計測に光を用いることのメリットは、レーザー光の性質から高精度であることや、光の速さからほぼリアルタイムな高速測定が可能であることなど多岐に渡ります。
 

LiDAR
【図1 LiDAR】

 

LiDAR技術の方式の一つであるFMCW法を理解するためには、光計測に関する基礎的な知識をいくつか押さえておく必要があります。以下、FMCW法を学ぶための前提知識を説明します。

 

(1)スペクトルとは

日常的に見ている光は、様々な波長(周波数)帯の光の色が混ざっています。例えば、白色蛍光灯の光は白色に見えますが、実は赤色や青色が混ざって出来た混色です。
また、光の分野だけでなく電気的な信号も同じように様々な周波数を含んでいることが多いです。

このような光や信号といった波を周波数成分ごとに分けて見やすくしたものを「スペクトル」(spectrum)と言います。スペクトルをみることで、各成分の含まれる強さが分かります。そして、スペクトルで考えることを「スペクトル解析」などと言います。

 

スペクトルのイメージ
【図2 スペクトルのイメージ】

 

(2)連続スペクトルと線スペクトル

スペクトルは、大きく分けて二つの種類があります。
それは、連続スペクトルと線スペクトルです。

 

連続スペクトル

連続スペクトルとは、波長が全て連続的に繋がった広範囲のスペクトルを指します。
例えば、太陽光などの天体からの光や白熱電球などの熱放射は基本的に連続スペクトルとなっています。

 

連続スペクトル
【図3 連続スペクトル】

 

線スペクトル

線スペクトルとは、特定の波長のみが存在していてその間には何もないスペクトルを指します。
元素や化合物がそれぞれに固有な波長帯の光を放出したり吸収したりするときに現れます。
つまり、線スペクトルを見れば、とあるガスに含まれる成分の分析が可能になります。

 

線スペクトル
【図4 線スペクトル】

 

(3)周波数スペクトル

スペクトルは、使用する分野や文脈によって呼び方が異なることが一般的です。
主な二つの呼び方として「周波数スペクトル」と「分光スペクトル*1)」があります。

周波数スペクトル」は、一般的に信号処理や通信光学、光工学の分野で使われることが多く、とある信号が含む周波数分布を指しています。時間的に変化する信号の周波数成分を解析する際に使われます。また、周波数スペクトルを見る際には、信号を「フーリエ変換*2)」という手法を用いてグラフに描画します。

 


*1) 分光スペクトルとは
「分光スペクトル」は、一般的に物理学や化学の分野で使用される事が多く、物質が放出または吸収する光の波長(または周波数)分布を指しています。
つまり、物質の化学的組成や物理的特性を解析するために分光スペクトルは使われます。


*2) フーリエ変換とは
「フーリエ変換」とは、時間領域や空間領域で表された信号、関数などを周波数領域に変換する数学的手法です。フーリエ変換を行う事で、元の信号がどのような周波数成分で構成されているのかを解析できるので、様々な科学技術の分野で使用されています。
フーリエ変換は、変換しようとしている信号や関数が連続か不連続かで計算の仕方が異なります。
信号が連続している場合、以下の式で表されます。

フーリエ変換

f(t)は時間領域での信号で、それを周波数領域での信号(スペクトル)として表現したものがF(ω)になります。式(1)を計算することで、連続信号のフーリエ変換が行われます。
信号が不連続、つまり離散的な場合、式(1)は使用せずに、離散フーリエ変換(DFT)という手法を用います。DFTは、離散的な時間または空間サンプルからなる信号を周波数成分に変換します。

最後に、フーリエ変換に関する用語の解説として、高速フーリエ変換(FFT)があります。FFTは、DFTを求めるために最適化されたアルゴリズムであり、その技術は低周波域の周波数分析を目的としたFFTアナライザなどの計測器に使用されています。


 

(4)スペクトルをどう使うのか、どう使われているのか

(3)で、スペクトルがどのような分野で使われるのかを簡単に説明しました。
ここでは、スペクトルの使い方について、もう少し具体的な例をいくつかご紹介します。

  • 化学/物理学
    分光スペクトルによって、物質の組成や濃度を特定できます。
    元素や化合物は自身に特有のスペクトル線を持っているので、それを解析することで対象のサンプル中の物質を同定することができます。
    また、分子が特定の光の波長を吸収または放出することを利用して、その分子の構造に関する情報を得ることもできます。
  • 通信技術
    周波数スペクトルによって、無線通信で特定のチャンネルや帯域を割り当てる事ができ、異なる通信システム間での干渉を避けながらデータの送受信が行えます。
    無線通信だけでなく、テレビやラジオ、携帯電話などにも特定の周波数帯が割り当てられています。
  • 医療分野
    MRIなどの画像診断技術は、体内の異なる組織が放出あるいは反応する特定の電磁波のスペクトルを利用していて、高解像度の体内画像を生成する事ができます。
    また、光学顕微鏡の技術にもスペクトルは使用されています。
  • その他
    環境科学の分野では地球の表面や大気のスペクトルデータを見ることで気候変動、海洋の状態、植生の変化などを監視したり、材料科学の分野では材料の光学特性についてスペクトル分析を行なったりします。

 

2.FMCWによる測距の原理

LiDARなどの遠隔計測技術において、「FMCW方式」(Frequency Modulated Continuous Wave)が注目を集めています。例えば、自動運転技術ではFMCW方式で前を走る車両までの距離を瞬時に計測したりします。

FMCWは、送信波(電磁波)と対象物からの反射波の差周波数ビート周波数*3))の情報によって距離を求めます。測定(測距)の概略イメージは図5のようになります。

 

FMCWの概略図
【図5 FMCW方式による測距】

 

まず、FMCWの送信波ですが、瞬時周波数が時間経過とともに直線的に変化するような変調を行なっています。このような変調を行なった信号のことを「チャープ」と呼びます。
続いて、送信波が対象物に当たりその反射波を受信します。その後、ミキサーによって送信信号波形と受信信号波形が掛け合わされてビート周波数が生成されます。このビート周波数をローパスフィルタに通すなどの信号処理を行うことで距離や速度、角度を検出することができます。

送信波の変調は図6のように行われています。ただし、送信信号周波数がft[Hz]、受信信号周波数がfr[Hz]、送信時間がT[s]、ビート周波数がfB[Hz]、周波数掃引幅がfw[Hz]です。

 

送信波の変調
【図6 送信波の変調】

 

そして、アンテナから対象物までの距離Lは、送信信号と受信信号の受信機の時間差Δtと光速cを用いて次のように表せます。

アンテナから対象物までの距離L

ここで、Δt/2としているのは、Δtを往復の時間差で定義しており、距離Lを片道で定義しているためです。
実際の変調は、送信信号周波数は図7のように周期的に掃引されています。

 

送信信号周波数の周期的な掃引
【図7 送信信号周波数の周期的な掃引】

 


3) ビート周波数とは
ビート周波数(beat frequency)は、二つの異なる周波数を持つ波同士が干渉する際に生成される差周波数です。例えば、図5,図6の場合で言えば差周波数はfr-ftとなります。


 

3.測距方式「ToF法」とは?FMCW方式との違いは?

以上、FMCW法の原理を解説してきました。

距離を測定する方法は、FMCW方式の他にもあります。
それは「ToF法」(Time of Flight)です。

ToF法は、LiDARの基本的な考え方でもある電磁波や音波を対象物に飛ばして、その反射波が戻ってくるまでの時間を計測して距離を求めるという原理になっています。
ただし、FMCW法ではレーザ光の周波数を変化させながら連続的に照射するのに対して、ToF法ではレーザ光をパルス的に照射しているという点が大きな違いです。

ToF法は比較的単純な構成であることから、生産コストの低減に繋がります。また、自動車以外に産業用ロボットなどでも活用されるなど、応用範囲も広いです。

 

ということで今回は、LiDAR関連技術として注目される「FMCW法」を解説しました。

 

(アイアール技術者教育研究所 Y・F)

 


《引用文献、参考文献》


 

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