超音波センサの基礎知識を徹底解説|仕組み・特徴・使用例などがこれ一つでわかる!
現代の工業・自動車・ロボティクスなど、さまざまな分野で使用されている「超音波センサ」。
その名前は知っていても、実際にどういった仕組みで動作しているのか、どのような用途で使われているのかまでは理解していない方も多いのではないでしょうか?
本記事では、超音波センサとは何か?という基本から、その原理・構造・特徴・使い方・欠点やデメリットに至るまで、初心者でも理解しやすいように詳しく解説します。
目次
1.超音波センサとは?
「超音波センサ」とは、人間の耳では聞き取れない高周波(20kHz以上)の音波=超音波を利用して、対象物の存在や距離、動きを検出するセンサです。
このセンサは、超音波を空中や液体中に発信し、物体に当たって反射して戻ってくる音波(エコー)を検知することで、その物体までの距離を測定します。
言い換えれば、コウモリやイルカが使う「エコーロケーション」(反響定位)に似た原理で働いているのです。
超音波センサの最大の特徴は、対象物に直接触れることなく非接触で検出や距離計測が可能な点にあります。そのため、直接触れることが困難な状況や、人が立ち入れない場所でも、安全かつ正確に対象の情報を取得することができます。また、音波を使うため、光学式センサでは検出しにくい透明物や黒色物体にも強い傾向があり、視認性に頼らずに対象を認識できるという利点があります。
このような性質を活かし、超音波センサはさまざまな分野で活躍しています。
たとえば、自動車の駐車支援システムや障害物検出機能には欠かせないセンサ技術ですし、工場の自動生産ラインにおける距離計測や物体検出、ロボットの障害物回避機能などにも広く活用されており、その応用範囲は年々広がっています。
一見すると目立たない小さなセンサですが、人や機械の「目」として多くの場面で重要な役割を担っているのが、超音波センサなのです。
2.超音波センサの原理と仕組み
超音波の発生と受信
超音波センサは、主に以下の2つの部品から構成されます。
- 送信部:圧電素子やMEMS技術を使って超音波を発生。
- 受信部:反射して戻ってきた超音波を検出。
超音波は空気中(または液体中)を進み、対象物に当たって反射します。その往復時間と音速(空気中で約340m/s)を元にして、距離を計算します。
対象物までの距離(D)は以下の式で計算されます。
《距離測定の式》
- 距離D =(往復時間t × 音速v) ÷ 2
音速v=約340m/s(空気中の場合)
反射するまでの時間を正確に測ることが高精度な距離測定のカギです。
ミリ波レーダ・LiDARとの違い
このように対象物までの距離の計測に反射時間を用いるセンサとしては、超音波センサ以外に「ミリ波レーダ」や「LiDAR」があり、ミリ波レーダでは電波の反射時間を、LiDARでは光の反射時間を用いています。
3.超音波センサの構造
超音波センサの構造はシンプルながらも高精度を実現できるよう工夫されています。
以下図1に超音波センサの構造を示します。
【図1 超音波センサの構造】
- ハウジング: 水やほこりを防ぐ防塵・防水仕様のケースが一般的です。
- 圧電素子(超音波振動子): 電圧で圧電素子が伸縮し、その振動で超音波が発生し、逆に受信した超音波による振動を圧電素子が受け取ると、電気信号へ変換します。
- マイコン制御部: 超音波の送信と受信のタイミングを制御したり、信号の処理や距離の計算を行います。
製品によっては、送受信を同じ素子で行う「単一素子型」と、送受信が分かれている「二素子型」があります。単一素子型では、1つの素子で発信と受信の両方を行い、発信と受信を交互に行います。
4.超音波センサの特徴
超音波センサは、空気中や液体中を伝わる高周波の音波を利用して対象物との距離を測定する装置であり、最も大きなメリットは上述のように非接触で物体の検出や距離計測が可能である点です。
光や赤外線と異なり、透明な物体や光沢のある表面にも影響を受けにくいため、一定の精度を保った測定が行えるのが強みです。また、埃や霧といった環境要因に対しても比較的強いため、屋外や工場内といった過酷な環境でも安定した動作が期待できます。さらに、構造がシンプルであるため、低コスト化や小型化がしやすく、低消費電力化も可能であるという点も重要です。
そのため、家庭用機器から自動車、ロボティクスまで、幅広い分野で活用されています。
使用される周波数は主に40kHz前後が一般的で、これは人間には聞こえない範囲でありながら、精度と到達距離のバランスが取れたものです。距離の精度については、数ミリ〜数センチ単位の検出が可能であり、用途に応じて調整されたモデルも多く存在します。
5.超音波センサの主な用途と使用例
超音波センサは、その構造のシンプルさと優れた距離検出能力により、さまざまな分野で応用されています。
ここでは、特に代表的な使用例をいくつかのカテゴリに分けて紹介します。
車載用途
最近の自動車では、以下のような機能に超音波センサが使われています:
- バックソナー: 障害物までの距離を警告音で知らせる。
- 自動駐車支援: 車両と周囲の障害物の位置関係を検出。
- ブラインドスポット検出: 死角にある物体の有無を確認。
産業用
- 工場の自動化設備(FA機器): 部品の有無確認、距離測定。
- 液面センサ: タンク内の液体の高さを超音波で計測。
その他の使用例
- ロボットの障害物回避
- ドローンの高度保持
- 自動ドアの人感センサ
6.超音波センサの使い方のポイント
超音波センサを効果的に使うためには、いくつかのポイントに注意を払う必要があります。
まず最も基本的なのは、センサの設置角度と位置です。超音波は直進性が高いため、測定対象に対してセンサを垂直に設置しないと、反射波が正しく戻らず、測定誤差が生じます。角度のズレによって反射方向が逸れ、対象物の検出が困難になることもあります。
また、対象物の材質や形状にも注意が必要です。例えば、金属やガラスのように硬く平滑な素材は超音波を反射しやすく、測定に向いていますが、布やスポンジなどの柔らかい素材は音を吸収してしまい、信号が返ってこないことがあります。
さらに、超音波の速度は空気中の温度に左右されるため、温度補正機能がないセンサでは測定結果が不安定になることもあり、精密な計測を行う用途では温度センサと連携する工夫が必要です。
このように、超音波センサは比較的取り扱いが簡単な一方で、設置と環境条件による調整が測定精度に直結するため、導入前のシミュレーションや実地テストが有効です。
7.超音波センサの欠点
便利で多用途に使用されている超音波センサですが、いくつかの明確なデメリットも存在します。
第一に、柔らかい素材や凹凸のある形状の物体には超音波がうまく反射しないため、正確な距離が測れない場合があります。これは、超音波の反射特性が対象物の表面に大きく依存するためです。特に布や紙のように音を吸収する素材や、穴の空いた対象物は、誤った測定結果を生じやすくなります。
また、外部環境の影響として、強風や騒音の多いところでは、超音波が乱されて誤検出や不安定な信号が発生する可能性があります。圧電素子自体が振動するため、外部から受ける振動や衝撃に注意が必要です。
さらに、測定可能な距離に上限があることも欠点の一つです。一般的な超音波センサでは、数センチから最大でも5メートル前後の範囲にとどまる場合が多く、それ以上の長距離測定には不向きです。したがって、広範囲の測定や高速移動体の検出には、他のセンサ技術(LiDARやミリ波レーダーなど)との組み合わせが望ましい場合もあります。
図2は車両において、検出領域の分担のイメージを示したものです。
【図2 超音波センサの検出領域】
センサの周波数においては、周波数が高いほど分解能が高くなる一方で、減衰も大きくなります。 検出対象物の距離に応じてセンサ配置と検出領域の分担を設定する必要があります。
図3は、超音波センサとミリ波レーダの車両での適用周波数の例を挙げたものです。
【図3 車載センサの周波数の適用例】
8.超音波センサの精度を高める方法
超音波センサをより正確に活用するには、いくつかの技術的工夫が求められます。
まず、基本的な前提として、センサの初期キャリブレーション(較正)を正しく行うことが必要です。設置環境に応じてキャリブレーションを調整することで、距離測定におけるバラつきを抑えることができます。
さらに、複数のセンサを同時に使用することで、死角の削減や冗長性の確保が可能になります。例えば、自動車のバンパーには左右に複数の超音波センサが取り付けられており、各方向からの情報を統合することでより正確な周囲把握が実現されています。
ノイズの影響を軽減するために、センサ信号に対してデジタルフィルタリングを行う手法も有効です。不要な波形成分を除去することで、安定した測定結果が得られやすくなります。また、近年では、センサから得られた情報をAIや機械学習によって補正・解析し、より高精度な測定や異常検出を行う試みも進んでいます。
このように、単にセンサを設置するだけでなく、複合的な工夫を組み合わせることで精度と信頼性を大きく向上させることが可能となります。
全体システムとして検出精度と故障対応のシステム信頼性を向上させるために複数種類のセンサを用いることを「センサフュージョン」(sensor fusion)と呼びます。
車両で同時に複数用いられることがある外部環境検出センサを図4に示します。
【図4 車両外部環境を検出するセンサー】
9.まとめ
超音波センサは、「距離」や「位置」を高精度に、しかも非接触で測定できる優れたセンサ技術です。構造がシンプルで安価かつ小型でありながらも、さまざまな分野でその「使い方」は進化を続けています。しかし、素材による反射率の違いや環境ノイズの影響、距離制限といった「欠点」も存在します。そのため、導入時には精度要件や設置環境を十分に考慮する必要があります。
今後はAIやIoTとの連携により、より賢く、より安全に私たちの生活を支える技術として、さらに活用の幅が広がっていくと考えられます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)