3分でわかる技術の超キホン 「メタサーフェス」って何?《種類・構造・反射特性など要点解説》

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メタサーフェス

1.メタサーフェスとは?

メタサーフェス」とは、簡単に言えば「人工的に作られた表面」のことで、自然界に存在しない反射特性を持っています。つまり、その表面で反射した電磁波の反射位相を制御できるのです。

 

「メメタサーフェス」と「メタマテリアル」の違いは?

メタマテリアル」という言葉とも似ていますが、メタマテリアルは三次元構造なのに対し、メタサーフェスは二次元構造をしています(図1)。メタサーフェスはメタマテリアルの一種であり、通常メタマテリアルの方がメタサーフェスよりもかなり小さいです。

また、メタサーフェスは電磁波が入射した際に表面波の制御や反射特性に変化を与えるのに対し、メタマテリアルは電磁波が入射した際にその伝搬特性(屈折率など)を変化させます。

メタマテリアルやメタサーフェスを構成する最小単位は「メタ原子」などと呼ばれています。これは、水が水分子から構成されていることと同じイメージです。

 

メタサーフェスとメタマテリアルの違い
【図1 メタサーフェスとメタマテリアルのイメージ】

 

 

2.メタサーフェスの種類

メタサーフェスの研究は、電磁波の制御方法によって様々であり、盛んに行われています。
ここでは、代表例をいくつか紹介します 。

 

(1)AMC(Artificial Magnetic Conductor/人工磁気導体)

特定の周波数帯でのみPMC特性を持つように人工的に実現したものを「AMC」(Artificial Magnetic Conductor/人工磁気導体)と言います。アンテナの設計にAMCを用いることで、反射特性の制御から、導体表面にそって伝播する表面波を抑制し、指向性の劣化を防ぐことができます。アンテナの低姿勢化や高利得化が実現できます。

 

(2)PECとPMC

先ほど登場したPMC特性について簡単にふれておきます。
電磁界シミュレーションにおいて馴染み深い言葉として、「電気壁」、「磁気壁」がありますが、PEC とPMCは、同義になります。

PEC」(Perfect Electric Conductor)は、完全導体のことであり、PECに入射した電磁波は、電界の接線成分が打ち消され電磁波を逆位相で反射します。

一方で、周期構造により磁界の接線成分を打ち消し、電磁波を同位相で反射させる構造体が人工的に作られました。そのような構造体を「PMC」(Perfect Magnetic Conductor)と言います。また、PMCでは、インピーダンスが無限大となります。

 

(3)HIS (High Impedance Surface/高インピーダンス表面)

特定の周波数帯で表面に高い電気的インピーダンスを持つ人工的に作られた表面構造を「HIS」 (High Impedance Surface/高インピーダンス表面)と言います。つまり、特定の周波数帯でAMCと同様のPMC特性を持つため、入射・反射する電磁波が同位相になり波の合成により反射した電磁波が増強されます。これらから、周波数範囲によって電磁波の反射特性を制御することができます。

 

(4)EGS (Electromagnetic Gradient Surface/電磁傾斜表面)

電磁場の勾配を制御することで電磁波の振る舞いを変化させることができます。それを微細な構造で人工的に設計した表面構造を「EGS」 (Electromagnetic Gradient Surface/電磁傾斜表面)と言います。入射した電磁波の位相や振幅に変化を加えることが可能となり、反射特性も制御できるようになります。

 

3.メタサーフェスの基本構造

ここでは、メタサーフェスの基本構造の一つでる「マッシュルーム型」について説明します。マッシュルーム型は、図2のように、立体的かつ周期的にきのこ状のユニットセルを配置した構造です。立体的とは言いましたが、全体で見ると一枚の板のように二次元的な人工表面となっています。ちなみに、EGSなどは大きさの異なるユニットセルを配置しています。

 


【図2 メタサーフェスの基本構造の一つである”マッシュルーム型”】

 

周期構造を横から見ると図3のようになっており、これはLC並列共振回路と等価回路になっています。

 

メタサーフェスの周期構造を横から見た図
【図3 周期構造を横から見た図】

 

この時、面方向のインピーダンスZはインダクタLとコンダクタCを用いて次式で表されます。

面方向のインピーダンスZ・・・(1)

式(1)より、共振周波数 ω=1/√LC の時インピーダンスZは無限大になることが分かります。
つまり、共振周波数という特定の周波数で非常に高いインピーダンスになることからPMCに近い状態の表面が得られます。

 

4.メタサーフェスの反射特性

AMCやHIS等における大きさの同じユニットセルを周期的に配置したメタサーフェスの反射特性例が図4となっています。

 

メタサーフェスの反射特性例
【図4 メタサーフェスの反射特性例 ([1]より引用)】

 

図4を見ると、表面での反射位相が入射位相と同相になる、すなわち反射位相ϕs=0となるようなPMC特性を持っていることがわかります。
ちなみに、PECでは表面での反射位相が入射位相と逆位相になる、すなわち反射位相ϕs=±πとなります。
また、反射位相ϕs=-π/2~π/2の範囲を疑似的なPMCと定める事により、メタサーフェスにおけるPMC特性の動作帯域幅とすることが一般的になります。
 

5.メタサーフェスの用途(応用例)

ここでは、メタサーフェスの応用例をいくつか簡単に紹介します。

  • アンテナ: アンテナへの応用が期待されています。例えば、電磁波の反射する方向を制御することで、周囲の環境に合わせて信号を飛ばすことが可能になります。また、指向性の向上に繋がります。
  • 光学デバイス: 光の位相を変えることが可能なことから、位相変調素子として機能させることができます。また、特定の波長の光を選択的に反射・透過させることができる分光器などにも応用できます。
  • センシング技術: 電磁波の特定の波長を反射・透過させることが可能という点から、環境中の物質を検出したり、生体への医療などへ用いるセンサーとして応用できます。
  • ステルス技術: 電磁波の特定の波長を反射・透過させることが可能という点から敵からのレーダー探知に対しての感知を最小限に抑えることができるようになります。

 

ということで今回は、5G関連技術としても注目されているメタサーフェスの基礎知識をご紹介しました。
メタマテリアルについては、別コラム「メタマテリアルとは?原理/構造/応用例などをわかりやすく解説!」で解説していますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。

 
(アイアール技術者教育研究所 Y・F)

 


《引用文献、参考文献》

  • [1] メタ・サーフェスの設計技術とアンテナ・伝搬への応用, 無線システムの拡大を担うアンテナ・伝搬及び関連システムの論文特集, 堀 俊和,
  • [2] AMCのFDTD法による解析とアンテナへの応用, Reports Res. Lab. Asahi Glass, 庭野 和彦, and etc.,
    https://www.agc.com/innovation/library/pdf/55-12.pdf
  • [3] メタマテリアル人工磁気導体共振構造を用いたミリ波吸収周波数特性制御技術に関する研究, Annual Report, 榊原 久二男,
    https://corporate.murata.com/-/media/corporate/group/zaidan/report/study/2013/h23_25.ashx?la=ja-jp&cvid=20180704063817369900jp&cvid=20180704063817369900

 

 

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