機械材料の質量・密度・体積の求め方|質量と重量の違い、密度と比重の違いは?
機械設計作業の一環として、設計する機械の質量を算出することも重要です。
製品の原価計算、製品を設置する基礎の強度計算、製品の吊り上げ治具の選定などに必要となるためです。
今回は、質量計算の元となる材料密度、体積計算について、重量、比重、機械部材の強度とも関連して解説いたします。
1.機械材料における「密度」とは?
密度には、「人口密度」のように一定面積や体積中に存在する物質の割合という意味や、「仕事の密度」のように物事の内容の充実度合いといった意味もありますが、工学・物理学では物体の単位体積に含まれる質量のことをいいます。したがって、密度のSI単位は[kg/m3] となります。
機械部品に使用する、いくつかの材料の密度を下表に示します。
炭素繊維強化プラスチックCFRPは、鉄鋼材料の約5分の1の密度です。
【表1 主な機械部品材料の密度】
2.体積計算のやり方
密度と体積の積が、機械部材あるいは製品の質量となります。
質量を計算するためには、部材や製品の体積を計算する必要があります。
部材や製品の形状が複雑な場合、正確な体積の計算は難しいですが、計算しやすい形状要素に分割することで、ある程度精度よく体積を求めることが可能です。
体積の計算がしやすい形状として、板(直方体)、丸棒(中実円筒)、中空円筒、円板などを挙げることができます。部分的に切り取った分割要素ごとに、断面積と長さの積で体積を計算して、分割要素をすべて足せば全体積となります。
【図1 渦巻きポンプケーシングの要素分割】
一例として、上の図のような渦巻きポンプのケーシングの場合
- 吐出しフランジ: 中空円板と圧力計座(円筒)
- 吸込みフランジ: 中空円板
- 吸込みノズル: 中空円筒
- ケーシング: 前面壁(中空円板)+外周部(中空円筒)+カバー取付フランジ(中空円板)
- 脚: 板要素(直方体)の組合せ
という具合に分割が可能です。
ただし、実際の形状は単純な円と直線で構成されているわけではありません。
実際の図面を見て、より細かく分割する、各分割要素の近似の直径、長さを見積る、など計算精度を高める工夫をします。
たとえば、ケーシングの前面形状は単一円ではなく、複数半径円弧をつないで形成されているので、平均径の円とするか、各半径の円弧に分割して面積を求め合計して肉厚をかけて体積を求めます。
吐出しノズル部は、曲がり管で、かつ面積が漸拡大していますので、平均径を持ったエルボ管として近似するか、直線状の広がり管に近似する、などの方法をとります。
ケーシング前壁部は単純な円板ではなく、断面形状に合わせて中空の円錐台として体積を計算することにより精度が高くなります。
【図2 体積計算しやすい分割要素(例)】
3.工学単位としての「質量」と「重量」の違い
体重〇kg、車体重量△kg、というように日常生活では「重量」という用語が良く用いられますが、SI単位に照らして考えれば「質量」というべきです。
重量は、過去に広く用いられていた工学単位系から来る用語です。
質量1[kg]の物質に重力加速度9.80665(便宜的に9.8)[m/s2]が作用するとき、この物質に働く力すなわち重力を、工学単位で1[kgf]と表していました。
つまり、質量にも重量にも力にもkgを用い、力の場合に[kg重]とよぶこともあって、質量、重量、力、の区別が明確でない面がありました。
SI単位では、力F = 質量m x 加速度α = 1[kg] x 9.8[m/s2] = 9.8[N] となります。
すなわち「重量」とは、ある質量を持った物質に作用する重力のことであって、単位は力の単位[N=kgm/s2]となります。この力(重力)は重力加速度が変化すれば当然違う値となります。
一方、「質量」は物質の密度が変わらない限り不変の物性値です。体重であるとか、物体の軽重といったように、日常的概念として質量のことを重量(重さ)と呼ぶことは問題ないと考えますが、工学単位としての質量[kg]と重量(重力)[N=kgm/s2]の違いは理解しておく必要があります。
そもそも「軽い、重い」という概念は、ある物体を動かしやすいか、動かしにくいかを表す言葉です。
質量の小さい物体は動かしやすい(軽い)、質量の大きい物体は動かしにくい(重い)ことは概念として理解しやすいです。
たとえば質量1[kg]の物体を 1[m/s2] の加速度で動かすのに必要な力をFとすれば、
F = 1[kg]x1[m/s2] = 1[N]
です。
質量が2倍になると同じ加速度を与えるのに必要な力は
2[kg]x1[m/s2] = 2[N] = 2F
となって、2倍の力が必要になります。
つまり質量とは、物体の動きにくさ、すなわち慣性を表す単位であって、いわば静的な単位と考えることができます。一方、重量とは、物体を動かすときに働く力であって、動的な単位として考えることができます。
【図3 質量と重量】
4.「密度」と「比重」の違い
質量・重量のように混同しやすい用語として密度と比重があります。
密度の定義は2.に記載の通りです。
温度4[℃]、標準大気圧(101.3[kPa])における純水の密度 ρwは1000[kg/m3] です。
ある物質の密度ρの ρw に対する比 s = ρ/ρw
を「比重」といいます。すなわち比重は単位を持ちません。
ただし、物質(製品あるいは部品)の質量を[ton]単位で求める場合に比重は便利です。
水の標準密度は 1000[kg/m3] = 1[ton/m3] となります。
鉄の比重は7.87です。
したがって、たとえばある鉄製の部品の体積が 2[m3] であるとすれば、製品質量は
2[m3] x 7.87x 1[ton/m3] = 5 .74[ton]
とすぐに求めることができます。
比重は、単位を持ちませんが、基準となる単位密度を掛け合わせる(1[ton/m3]を用いれば1なので掛け合わせ計算不要)ことで質量計算に用いることもできる、ということを理解しておきましょう。
5.軽量化と技術課題
機械部品の質量を小さくする(軽くする)ことができれば、搬送や据え付け、基礎荷重低減などの面で有利となります。自動車や航空機など輸送用機械であれば燃費向上に寄与します。
従来、鉄系・非鉄系の金属材料が用いられてきた部品に、近年は軽量・高強度の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられることも多くなっています。
CFRPは、鉄と同等か、種類によっては鉄鋼材料より高い強度を有しています。一方でCFRPは、鉄に比較するとコストが高いことが課題であり。現状ではCFRPの価格は鉄の8倍程度ともいわれています。
また、製品が用いられる環境に対して、耐腐食性の問題がないかを確認すること、製品や部品の設計形状に加工することに対して問題がないか確認すること、も重要な課題となります。
このように軽量化を実現するために、解決すべきトレードオフ要因が数多くありますが、機械設計技術者は日々進歩する材料技術に常に気を配り、より良い製品の開発設計に努めていきましょう。
(アイアール技術者教育研究所 S・Y)