3分でわかる技術の超キホン 固体電解質との界面構造の制御(リチウムイオン電池の基礎知識)

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固定電解質と界面抵抗

イオンの移動と界面抵抗

電池に電流が流れる(充放電する)と、リチウムイオンが電解質を介して正極と負極の間を移動します。
イオンの移動に伴い内部抵抗が発生します。
この内部抵抗は、電解質内や電極活物質内の移動に伴う抵抗(主に拡散抵抗)と、結晶粒界や活物質/電解質界面における抵抗(界面抵抗)に大きく分けられます。

電極活物質層や電解質層が厚い大型・大容量のバルク型電池では、イオン伝導体が電解質として機能するためには、電解質内での内部抵抗を反映するイオン伝導率が高いだけではなく、界面抵抗が低いことも重要になります。さらに、電気化学的安定性(電極活物質により酸化還元を受け難い、電位窓が広い)と化学的安定性(耐湿性、耐酸化性・難燃性)が必要です。

リチウムイオン電池に関する当連載では、これまで下記4回にわたってリチウムイオン二次電池で検討されている有機高分子系、無機系固体電解質について説明しました。

イオン伝導率については、従来の液体電解質と同等あるいはそれを超えるリチウムイオン伝導体が見つかっています。Thio-LISICON系結晶質硫化物、Li2S-P2S5系ガラスセラミックス硫化物、及びガーネット型結晶構造を持つ酸化物です。
 

界面抵抗の課題と制御方法

その一方で、上記の界面抵抗に関しては、それぞれ以下のような課題を抱えています。

まず、酸化物系固体電解質は可塑性が劣るため、界面(結晶粒界、電極活物質/電解質界面)抵抗が大きいという課題があります。

硫化物系については、酸化物系と比較して可塑性が大きく、結晶性化合物であっても、粒界における界面抵抗は低いとされています。しかし、酸化物系正極活物質(LiCoO2など)と組み合わせた電池では、界面にリチウムイオンが欠乏した高抵抗層が出現し、期待した電池特性が得られないことが判明していました。

今回のコラムでは、この界面抵抗の低減などを目的として検討されている固体電解質との界面構造の制御方法(エアロゾルデポジション法、表面改質法、単結晶の使用など)について説明します。

 

1.エアロゾルデポジション法

酸化物系固体電解質の一種であるガーネット型構造を持つLi7-xLa3(Zr2-xMx)O12(M=Nb,Ta)は高い室温イオン伝導率(10-3~10-4Scm-1)と化学的安定性及び電気化学的安定性(負極として金属リチウムを使用可能、4~5Vの高電位正極にも対応)を兼ね備えています。
しかし、界面抵抗が大きいため、高密度化するため1000℃超の高温焼結が必要です。

電池製造工程としては、一般的な酸化物系正極活物質層と一緒に焼結できることが好ましいと言えます。
ところが、1000℃超の高温では反応により正極活物質/電解質界面に高抵抗層が生成してしまいます。
この課題を解決する方法のひとつが、エアロゾルデポジション法です。

「エアロゾルデポジション法」とは、粒子径1μm程度の微粒子をガスと混合し減圧下でノズルから噴射することで、エアロゾルジェットとして基板に衝突させ、室温で成膜する方法です。
例えば、ガーネット型酸化物系電解質ペレット・基板に、所定の粒子径を持つ酸化物系正極活物質粒子を減圧下にガスと共にノズルから噴射します。

この方法によれば、正極活物質/電解質界面に高抵抗層を生成させずに、界面抵抗を低減することができます。

基本的には、エアロゾルデポジション法は薄膜型電池の製造に向いている方法です。

 

2.硫化物系固体電解質の酸化物系固体電解質による表面改質

上記した硫化物系固体電解質/酸化物系正極活物質界面に生成する高抵抗層の課題については、活物質表面を酸化物系固体電解質により被覆する方法(緩衝層の形成)が知られています。

この表面改質法により、高抵抗層の生成を抑制して界面抵抗を低減することが可能です。

酸化物系固体電解質としては、LiNbO3、LiTaO3など比較的高イオン伝導度を示す酸化物系固体電解質が使用されます。

硫化物系固体電解質/酸化物系正極活物質系の全固体リチウムイオン二次電池の作成では、よく使われる方法です。

 

3.可塑性電解質による表面改質

可塑性に乏しい結晶質酸化物系固体電解質の界面抵抗を低減する方法として、より可塑性を持つ酸化物系固体電解質により被覆する方法があります。

焼結していないためイオン伝導性が非常に低いLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3粒子表面を可塑性があるLi2SiO3やLi3BO3などで被覆すると、イオン伝導率が~30倍に向上します。

 

4.単結晶の使用

結晶質酸化物系イオン伝導体を電解質としたリチウムイオン二次電池では、リチウムデンドライトによる内部短絡が報告されています。
この内部短絡は、結晶粒界に沿ってリチウムデンドライトが成長するためとされています。固体電解質の高密度化を図っても、容易に解消されませんでした。

通常使用される結晶質酸化物系イオン伝導体は合成が容易な粒界を持つ多結晶です。
粒界のない単結晶にすることで、内部短絡の問題を解消しています。

近年、ガーネット型酸化物系固体電解質についても単結晶が得られています。
 

以上、今回は界面抵抗の低減等を目的とした、固体電解質との界面構造の制御方法をご紹介しました。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・W)
 


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