3分でわかる技術の超キホン ガラス/ガラスセラミックスの無機固体電解質とリチウムイオン電池

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リチウムイオン電池と無機固体電解質の解説

今回は、ガラス、あるいはガラスセラミックスのリチウムイオン伝導性無機固体電解質について説明します。

ガラスは非晶質ですが、局所的な周期構造と(X線回折では、結晶特有なシャープなピークは観察されずブロードなパターンのみ)、ガラス転移点の存在(熱力学的非平衡状態)に特徴があります。
ガラスは等方的であり、結晶粒界が存在しません。外部からエネルギーを加えると(熱処理など)、構造が変化します(電子状態や密度の変化、結晶生成、異方性の発生など)。
ガラスセラミックス(結晶化ガラス)は、非晶質のガラスと結晶からなる複合体です。

1.リチウムイオン伝導性ガラス

リチウムイオン伝導性ガラスは、網目の骨格を形成している強い結合部分(主に共有結合、網目形成剤に由来)にリチウムイオン(網目修飾イオン)が弱く結合した構造を持っています。

網目骨格形成原子に弱く結合したリチウムイオンが解離し、網目構造の間を拡散することによりイオン伝導するとして説明されています。

リチウムイオンは、酸化物、硫化物などのカルコゲン化物、ハロゲン化物、オキソ酸塩(網目修飾剤)として供給されます。

網目形成剤は、カルコゲン化物(B2O3,B2S3,SiO2,SiS2,P2O5,P2S5など)です。主に、酸化物系ガラスと硫化物系ガラスが検討されています。
酸化物系ガラスとしてはLi2O-SiO2、Li2O-P2O5、Li2O-Al2O3、Li2O-Al2O3-TiO2-P2O5、Li3-xP(O,N)4(LIPON,リチウムリン酸オキシナイトライド)などが、硫化物系ガラスとしてはLi2S-SiS2、Li2S-P2S5、Li2S-Al2S3などが挙げられます。

 

リチウムイオン濃度とイオン伝導率

リチウムイオン濃度を増大させると、イオン伝導率が向上します。

ガラス状態の安定性は組成(網目形成剤、網目修飾剤の比率)に依存しますが、冷却速度にも影響されます。
冷却速度を増大させると、より高濃度のリチウムイオンを含むガラス組成を安定に存在させることが可能な場合があります。

ただし、網目修飾剤としてLi2Oを使用した場合(Li2O-SiO2など)、高リチウムイオン濃度では、生成した非架橋酸素によりリチウムイオンが捕捉されるため、イオン伝導率は低下します。

酸化物系ガラスより硫化物系ガラスのほうが、1~2桁大きい室温イオン伝導率を与えます(0.6Li2O-0.4SiO2では10-6Scm-1オーダー、0.6Li2S-0.4SiS2では10-4オーダー)。
また、アニオン成分として、Li2O以外にハロゲン化リチウムやオキソ酸リチウム(Li3PO4、Li4SiO4など)を少量添加すると、イオン伝導率が1桁ほど向上します。

イオン伝導率は硫化物系ガラスが大きいですが、化学的安定性や電気化学的安定性(負極での耐還元性、正極での耐酸化性)については、酸化物系ガラスが硫化物系ガラスを上回っています
遷移金属を含む電解質では、リチウム負極に対する耐還元性が低下します。

 

リチウムイオン伝導性ガラスの製造方法

リチウムイオン伝導性ガラスの製造方法としては、溶融急冷法(原料混合物を溶融し、ガラス転移点以下に結晶が析出する前に急冷)以外に、メカノケミカル法(原料混合物をボールミルなどでミリング)があります。

メカノケミカル法の利点は、高温での蒸気圧が大きい硫化物系ガラスも常温・常圧で製造できる点と、直接粉末として得られるので、電極活物質粒子との混合、一体化が容易な点です。

 

2.リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス

特定組成のリチウムイオン伝導性ガラスを所定条件で加熱すると結晶が析出し(ガラスセラミックス)、さらにイオン導電率が向上することがあります。高イオン伝導性結晶が析出するためです。
結晶粒界にガラス相が存在するため、粒界抵抗も低く抑えられます

高イオン伝導性結晶相の析出は、もとのガラスの組成や熱処理条件(加熱温度、保持時間、冷却速度)に影響されます。

 

酸化物系のガラスセラミックス

酸化物系では、Li2O-Al2O3-TiO2-P2O5系ガラスを加熱するとLi置換NASICON型構造を持つLi1+xAlxTi2-x(PO4)3を主結晶相とするガラスセラミックスが得られます。
組成や熱処理条件を最適化すると、室温イオン伝導率が10-3 Scm-1まで向上します。

 

硫化物系のガラスセラミックス

硫化物系では、Li2S-P2S5系から得られるガラスセラミックスが代表例です。
0.7Li2S-0.3P2S5ガラスからは、高イオン伝導性準安定結晶相Li7P3S11(360℃以上に加熱すると消失)が析出します。
Li2SとP2S5の反応で得られる生成物は、熱力学的安定結晶相であるLi3PS4、Li4P2S6で、低い伝導率10-4 Scm-1しか示しません。0.7Li2S-0.3P2S5ガラスからは、組成(元素の置換・添加)や熱処理条件を最適化することで、室温イオン伝導率は1.7×10-2Scm-1まで向上します。

 
シート状で厚さがミクロンオーダーの正極、固体電解質(酸化物系)、負極からなる単電池を積層したリチウムイオン電池(厚さが数mm)が、IoT用電源として商品化されています。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・W)
 


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