開発リーダーに必要な「共感力」とは?チームを成功に導くコミュニケーション戦略
目次
1.開発リーダーに求められるスキルとは
開発チームの成功には、リーダーがメンバーの力を最大限に引き出せるかどうかが大きく影響します。
そのような開発チームのリーダーには、以下のようなスキルが求められます。
<開発リーダーに求められる主なスキル>
- コミュニケーション能力
- チームマネジメントスキル
- 意思決定能力
- ビジネスの視点
- 技術的な専門知識
これらのスキルを身につけることで、開発リーダーとしてチームを成功に導きやすくなります。
本コラムでは、メンバーの力を最大限に引き出す鍵である「コミュニケーション能力」に注目して解説します。
【図1 開発リーダーに必要なスキル】
2.開発リーダーの役割
開発チームのリーダーは、プロジェクトを成功に導く大きな責任と役割を担います。
主な役割は次のとおりです。
(1)開発ビジョンを打ち出す
プロジェクトの方向性を明確にし、チームメンバーと共有します。
その方向性には、技術的な観点だけでなくビジネス戦略や市場ニーズなどを踏まえたビジョンを示し、チームの目標意識を高めて一体感のある開発チームの推進が必要です。
(2)意思決定と問題解決
プロジェクトを進めていく中で、さまざまな課題や技術的な問題は必ず生じます。
リーダーは、その状況を正しく把握したうえで適切な意思決定を行います。
意思決定には、常に迅速かつ的確な判断が求められます。
(3)チームマネジメント
リーダーはメンバーの能力や役割を把握し、最大限のパフォーマンスを発揮できるよう調整します。
モチベーションの管理、スキル向上の機会、効果的なコミュニケーションを促すなど、生産性向上につながる施策の実行が求められます。
(4)技術的なリーダーシップ
リーダーは、最新技術の動向を把握しチームやプロジェクトに適用できるように導く必要があります。
メンバーの専門性を理解し、リーダーとして技術の採否を判断し、技術的な指導を通じてエンジニアとしてのリーダーシップでチームを動かします。
(5)ステークホルダーとの調整
プロジェクトを成功させるためには、経営陣や営業部門、取引先など、さまざまな利害関係者とのつながりも重要です。
これらのステークホルダーとコミュニケーションをとり、ニーズを調整し、開発チームの活動を良好かつ円滑に進めます。
【図2 開発リーダーの役割】
3.コミュニケーションの基礎知識
コミュニケーション能力は、開発リーダーの役割を果たすためにはとても重要なスキルの一つです。
この章では、コミュニケーション能力を理解するための基礎知識を解説します。
コミュニケーションには、「言語的コミュニケーション」と「非言語的コミュニケーション」に分類できます。
私たちは日常的に両方のコミュニケーションを用いて情報や感情などを伝えています。それぞれの特徴・役割についてわかりやすく解説します。
(1)コミュニケーションの種類
(a)言語的コミュニケーション(Verbal Communication)
- 定義:
「言葉(言語)」を用いて行うコミュニケーションの手法です。
話したり、書いたりといった形で、内容を伝えます。 - 主な手段:
話し言葉: 会話、電話、プレゼン、面談など
書き言葉: メール、報告書、チャット、メモなど - 注意点:
言葉の選び方次第で誤解やトラブルの原因になります。
書き言葉では感情が伝わりにくいことがあります。
(b)非言語的コミュニケーション(Non-verbal Communication)
- 定義:
言葉を使わずに行うコミュニケーションの手法です。
表情・姿勢・声のトーンなどに感情や態度が表れます。 - 主な手段:
表情や視線
ジェスチャーや姿勢
声のトーン・話し方
パーソナルスペース(対人距離) - 注意点:
表情と感情が一致しないとき誤解される場合があります。(例:うつむいている=やる気がないと受け取られる)
習慣や文化の違いによって意味が異なることがあります。(例:アイコンタクトの意味)
【表1 コミュニケーションの種類と比較】
言語的コミュニケーション | 非言語的コミュニケーション | |
手段 | 言葉(話す・書く) | 表情・姿勢・声のトーンなど |
目的 | 内容を明確に伝える | 感情や態度を補完・表現する |
利点 | 正確な情報伝達が可能 | 感情や信頼感を伝えやすい |
注意点 | 言葉選びによる誤解 | 意図せぬ伝達や文化の違いに注意 |
(2)主なコミュニケーション能力
コミュニケーション能力にはいくつかの種類があり、目的や場面に応じて適切に活用することで、効果的な対話が可能になります。
主なコミュニケーション能力を解説します。
(a)共感コミュニケーション(Empathic Communication)
相手の気持ちや視点に共感しながら対話を進めるコミュニケーションの手法です。
- 特徴:
– 相手の感情や立場を理解し、共感を示しながら話します。
– 相手の意見を否定せず、傾聴を通じて受け止めます。
– 「なるほど、それは大変ですね」など、感情を共有する表現を用います。 - 活用例:
– 開発チームのモチベーションを管理します。
– チーム内の意見の対立を解消します。
– 部門間の調整時の対話に用います。
[※関連記事:共感によるコミュニケーション「ラポール」とは?ラポール形成の基本と実践]
(b)アサーティブコミュニケーション(Assertive Communication)
自分の意見を主張しつつ、相手を尊重し自分の意見を伝えるコミュニケーションの手法です。
- 特徴:
– 感情的にならず、論理的に自分の考えを伝えます。
-「私はこう思う」「あなたの考えも尊重したい」など、対話の中で双方の立場を考慮します。
– 相手を攻撃せず、自分の立場を明確にします。 - 活用例:
– 交渉やプレゼンの場面で用います。
– チーム内の役割分担を明確にするときに用います。
(c)ノンバーバルコミュニケーション(Non-verbal Communication)
言葉を使わずに、身振りや表情、視線などによりコミュニケーションする手法です。
- 特徴:
– ボディランゲージを用いて、相手に安心感や誠実さを伝えます。
– 目線やジェスチャーを適切に使い、対話の効果を高めます。
– 話し方のトーンを工夫し、伝えたい意図を明確にします。 - 活用例:
– ビジネス交渉の際、説得力を強くする際に用います。
– リーダーシップの発揮による姿勢や雰囲気づくりの際に用います。
(d)クリティカルコミュニケーション(Critical Communication)
問題や課題について深く掘り下げ、論理的かつ共感を得るコミュニケーションの手法です。
- 特徴:
– 事実やデータをもとに、論理的に議論を進めます。
– 感情に左右されずに、課題解決のための対話を重視します。
– 反対意見にも冷静に耳を傾け、相手に寄り添います。 - 活用例:
– 技術的な意思決定やレビューの際に用います。
– プロジェクトの戦略的計画策定時に用います。
(e)創造的コミュニケーション(Creative Communication)
既存の考えにとらわれずに、新たなアイデアを柔軟に共有し、新しい発想を広げるためのコミュニケーションの手法です。
- 特徴:
– 既存の枠組みにとらわれず、自由な発想を促します。
– 視覚的なツール(スケッチ、マインドマップ、ピクトグラムなど)を活用します。 - 活用例:
– イノベーションを生むブレインストーミングで用います。
– 新製品の企画会議で活用します。
【図3 コミュニケーション能力の種類】
【表2 コミュニケーション能力比較一覧】
コミュニケーション能力 | 特徴 | 主な手段 | 活用シーン |
共感コミュニケーション | 相手の気持ちを理解し、共感を示す | 傾聴・共感 | チームワーク 対人関係構築 |
アサーティブコミュニケーション | 相手を尊重し、自分の意見を伝える | 「私は~だと思う」「私は~したい」などのメッセージ | 意見調整 交渉 プレゼンテーション |
ノンバーバルコミュニケーション | 言葉を使わず、身振り・表情・視線などで伝える | 表情 身振り アイコンタクト |
交渉 雰囲気づくり 異文化間交流 |
クリティカルコミュニケーション | 論理的且つ共感し対話する | 事実・データによる論理的な議論 | 戦略会議 意思決定 リスク管理 |
創造的コミュニケーション | 柔軟な発想や新たなアイデアを受け入れる | ブレインストーミング 視覚的表現 |
アイデア創出 新製品企画会議 |
4.開発業務における共感コミュニケーションの活用
プロジェクトの進行中には、様々な課題が起きるものです。
そのような場面では、コミュニケーション能力が役に立つでしょう。
この章では、起きる課題に対して共感コミュニケーションでどのような解決できるのかを事例を交えて紹介します。
(1)情報共有の不足 →「傾聴」と「伝達の透明性」
- 課題:
メンバー数の多さや、専門性の違いなどにより必要な情報の共有が十分にできていないことが無意識のうち起こることがあります。
完成期日の不一致、仕様の不一致、予算や方針・目標の不徹底などにより、設計ミス、日程計画のズレ、調達ミスなどさまざまな不具合につながります。 - 解決案:
傾聴
まず、メンバーがどのような情報が必要なのかをヒアリングする。
「この情報が不足すると、どんな問題が起こりますか?」と問いかけることで、具体的に相手の必要としていることを吸い上げましょう。
透明性の確保
「この情報が皆にとって必要と思うので、今後は定期的に共有しますね」と、情報を提供し、共有する方針を明確にして信頼関係を築きましょう。 - 事例:
週次ミーティングを開催し「プロジェクトの問題点、解決した手段を共有しましょう」「プロジェクトの各項目の進捗を共有します」といったテーマで話し合う場を設け、情報共有のやり方や内容の改善を行います。
(2)意見の対立 →「相手の視点を理解する」
- 課題:
技術の採用や仕様決定の段階で意見が対立し、議論が停滞することがあります。 - 解決案:
視点の整理
「あなたの考えを詳しく教えてください」と促し、まず相手の視点で理解する姿勢をとります。
共通点を見つける
「それぞれの意見に共通する部分を見つけると、新しい解決策が見えてくるかもしれませんね」と、協力的な姿勢を示します。 - 事例:
「制御方式Aを採用する」「制御方式Bを採用する」と、技術の選定について意見が異なり、プロジェクトが停滞した。
このような場面では、即座に結論を出すことはせずに、「技術難易度、経済性、将来性など同じ項目で比較しよう。各項目の内容は相手が提案した制御方式について、列挙し話し合いましょう」と提案し、お互いに技術面を含めて理解し合い検討を進めましょう。
(3)モチベーションの低下 →「感謝の表現と支援の提供」
- 課題:
プロジェクトが長期化すると、メンバーのモチベーションが低下し、生産性が下がることがあります。
プロジェクトの難易度による疲労感、単純に同じことの繰り返しによるマンネリ化感、ゴールの見えない不安感など要因は様々であり、個人によっても異なります。 - 解決案:
感謝を伝える
「○○さんのこの貢献のおかげで、難しかったプロジェクトの△△を達成できた。」と、具体的な点について高く評価する。
成長の機会を作る
「この技術には難しさがあるが、あなたの専門性なら解決できると期待しています。メンバーを率いて、ぜひ取り組みませんか?」と、新しい挑戦を提案し、やる気を引き出してみる。 - 事例:
毎月のミーティングで「プロジェクトの貢献による売上や顧客満足の期待値は、○○です。」「この1か月で助かったこと」を共有し、プロジェクトの必要性や期待されていることを伝えます。
(4)リモートワークでのコミュニケーション不足 →「心理的安全性の確保」
- 課題:
リモートワークの環境では、対面の時のような雑談が減り、孤独感が強くなりメンバー間の信頼関係が薄れてチームワークが低下する傾向にあります。 - 解決案:
対話の機会を増やす
「最近どうですか?リモートワークの中で困っていることはありますか?」と、仕事以外の雑談も交えながら関係性を深める。
心理的安全性の確保
「どんな意見でも大歓迎ですので、自由に発言してくださいね」と、安心して話せる環境をつくる。 - 事例:
毎日、業務開始時に10分間の「フリートーク・チャットタイム」を設け、リーダーを含めたチーム員全員参加で業務外の話題を共有します。
この取り組みにより、孤独感が和らぎ、チーム内の雰囲気も明るくなります。
(5)ステークホルダーとの調整不足 →「共感的な交渉スキル」
- 課題:
開発チームと営業・マーケティングなどの他部署との間で進める案件の優先度に食い違いが起き、プロジェクトの進行が順調に進まないことがあります。 - 解決案:
相手の立場を理解する
「営業チームとしては、この項目がこの理由から最優先と考えているのですね」と、まず相手の視点を受け止める。
開発側の状況を説明
「開発としてはこの点が課題なので、最優先案件はこの件です。お互いの最優先順位を満たす案を考えましょう」と、協力的な調整を提案する。 - 事例:
プロジェクトで新製品Aを最優先で進めていたところ、市場の変化から新製品Bを最優先し進める要求が営業から出された。
市場の変化、販売計画、事業計画など営業が変更する理由の詳細を開発チームと共有する。開発チームは新製品Bを進めた場合のリスク評価をする。
これらをお互いに理解し合い、いずれを選択するかを会社として判断する。
【図4 コミュニケーションの課題と対応策】
5.まとめ
開発チームの円滑なコミュニケーションは、プロジェクトの成功に不可欠な要素です。
開発リーダーは、コミュニケーションスキルを高め、維持することが重要です。
中でも共感コミュニケーションを実践することで、チーム内の信頼関係が深まり、協力しやすい環境が生まれます。しかし、そのスキルを効果的に身につけるには、専門的な学習機会の活用が有効です。
例えば、
・共感コミュニケーションをテーマにしたセミナーや研修を受講することで、実践的な技術を学び、より高いレベルでチームのコミュニケーションを改善できます。
・ワークショップ形式のトレーニングでは、実際の課題を題材にしたケーススタディを通じて、共感的な対応の方法を身につけることができます。
・書籍やオンライン講座も有効な手段ですが、対話型の学習を取り入れると、実務にすぐ活かせるスキルを習得できます。
共感を基盤にしたコミュニケーションのスキルを磨くことで、チームの生産性を向上させるだけでなく、メンバーの関係性を強化し、より創造的で協力的な開発環境を築くことができます。
この機会に、共感コミュニケーションを学ぶ場を積極的に活用し、開発リーダーとしての影響力をさらに高めてはいかがでしょうか。
(アイアール技術者教育研究所 T・Y)