《設計者CAE解説》製品開発におけるCAE導入の効果とは?導入までの手順・検討事項も整理
本記事では、CAEを導入するメリットから、CAEを導入する際のハードルと手順について紹介します。
製品開発にCAEを活用したいと考えている技術者の一助になれば幸いです。
[※関連コラム:CAEの前提知識についてはこちらの記事をご参照ください]
目次
1.設計者CAEとは?
「CAE」はフロントローディング化を推進するツールとして、さまざまな分野で普及が進んできています。
製品開発では、マーケティングからコンセプトを決めて、製品の形に落とし込みます。最終的に商品化できるかどうかはその製品に求められる性能や品質を満足できるかどうかで決まります。
開発を推進するエンジニアは関係部署と連携を取りながら、決められた開発予算の範囲内で設計検証のための実験を行います。しかし、製品化するまでの道のりにはさまざまなハードル、基準値が存在し、それを満足させた仕様を作りこむために、さまざまな条件で実験を行います。
中には設計予測値から外れた試験結果になってしまい、再度設計の仕直しと再試験による予想外の追加試験が重なり、開発工程に遅れが生じることがあります。(図1)
このような問題を解決するために、開発の構想段階から設計検証が可能な設計者CAEへの期待は大きくなっています。
【図1 予想外の開発工程の遅れ】
2.専任者CAEとの違いは?
「設計者CAE」と対比する言葉として、「専任者CAE」が挙げられます。
図2に設計者CAEと専任者CAEの違いをまとめてみました。
【図2 設計者CAEと専任者CAEの違い】
明確な定義付けはありませんが、「設計者CAE」は製品設計の妥当性確認のためのCAEで、「専任者CAE」は物理的な現象を捉える計算全般を指すCAEとイメージしたら良いと考えています。
また、設計者CAEは比較的短時間で相対比較ができる電卓に近いような計算を行う反面、専任者CAEは高精度な計算を必要に応じて時間をかけて行い、絶対値として現象を忠実に再現できるような計算を行う傾向にあります。
ただし、開発部署の中にCAE専任者が在籍しCAEを専任で行う人もいますし、CAE代行会社として他社からの依頼でCAEを行う業者も専任者CAEに該当する範囲になります。
従来、CAEはこのような専任者でないと行えない専門性の高い業務というイメージを持たれていました。しかし、近年CAEの技術は進歩を続け、3DCADソフトの付属CAEやフリーソフトのCAEなど、費用をあまり掛けずに活用できるツールが増えてきています。
もちろんハイエンドのCAEは高精度化、計算の高速化が進み、一部の企業や公的機関では富岳などのスーパーコンピュータを用いたCAEの活用も進んでいます。
3.CAEを導入するメリット(導入の効果)
CAEを導入することによって、開発の構想段階から設計の検証ができるのが最大のメリットです。
製品を試作せず設計検証ができるということは、試作品を作る回数を減らせ、その分試作費や試作試験の工数、試験に必要な電気代などを押さえることができます。つまり、開発スケジュールを短縮し、早期に品質の手戻りが少ない製品を世に送り出すことができます。CAEによって開発期間を短縮した事例製品紹介のPRとして対外的にもアピールできます。
4.設計者CAE導入のハードルと対策
何かとメリットが多いように感じられるCAE。
ただ、いますぐにでもと導入を急ぎたくなっている方は、一旦気持ちを沈めましょう。
なぜかというとCAEを導入するためには、越えなければいけないハードルがいくつか存在するからです。
ではそのハードルを紹介します。
CAE導入のハードル①:CAEの導入コストとランニングコスト
CAEに掛かるコストはハイエンド、ローエンド、またライセンス数によって異なりますが、ハイエンドの場合で導入に数百万円、ランニングコストで年間1000万円以上掛かる場合があります。外部委託する場合でも1か月の案件で約100万円など、CAEに掛かる費用はそれを使用する人の給料を払うような規模に相当します。
そのため、CAEを導入することによる効果を明確にしないと、せっかく会社を説得してCAEを導入できたとしても、その効果を回収できない事態に陥ってしまいます。
CAE導入のハードル②:CAEの習熟度
コストを掛けてようやくCAEを導入できたとしても、CAEを使いこなせなければ意味がありません。
CAEにはチュートリアルやヘルプ機能が充実しているソフトもありますが、これらを参考にしながら独学で進めるのは効率が悪いように感じます。まずは既にCAEを使いこなしている身近な方に聞くか、CAE取り扱い業者のサポートを受けるか、CAEのセミナーに参加して効率良くCAEを習得できるようにしましょう。
自分で全部やろうと思ってしまうと、大抵は失敗してしまいます。何か壁に遭遇したら、すぐ質問するアクションがとれるようにします。
もちろんCAEは万能ではありません。できないものはできないと返してきます。
メッシュが設定できないような3D-CADの形状であれば、3D-CADの形状を見直したり、メッシュの形状を変える必要があります。
場合によってはどのような対策をすれば良いかわからない場合もあります。また、全ての条件が正しく入力できたと判断できても、計算実行時にエラーとなりその原因がわからない場合があります。
このようなエラーはサポートに問い合わせれば解決できますが、ある程度の対策は自部署がノウハウとして構築していく必要があります。
CAE導入のハードル③:結果の確からしさ
実験で得る結果は、実条件そのものの運転を行うため、顧客先で使用したときとほぼ同じ現象を再現することができます。
一方、CAEでは全てコンピュータで計算するため、材料の物性値から荷重や温度などさまざまな条件を解析担当者が手入力で設定します。言い方を変えると、入力値を間違えれば全く現実味のない桁レベルで違う計算結果をいともたやすく出力することができてしまうということです。
結果が正しいかどうかを十分に検証せずに、新製品の性能が目標を満足していると過信してそのまま試作試験を行い、手戻りが生じるのは本末転倒です。このようなことを想定して、CAEを導入する時は、必ず同じ条件で実機試験を行い計算が合っているかどうかを確認します。
最初はCAEの計算結果と実機試験の結果が合うことはまずないかもしれません。仮に合っていたとしても一つの条件でCAEの妥当性が確認できたと判断するのは危険です。
複数の条件で、性能変化の傾向が実機と同じ傾向であることが確認できて初めてCAEの妥当性が確認できてきたと判断すべきでしょう。(図3)
また条件はできるだけ多いほうが望ましいのですが、開発工数の制約範囲内で、最低3条件はあったほうが、条件違いによる試験結果の傾向がつかめると考えます。2条件では直線の関係としか捉えられないのですが、3条件確認できれば、曲線の関係としても捉えることができます。
【図3 条件3つが良い理由】
5.CAEを導入する手順(導入に向けた検討事項と進め方)
CAEを導入するためのハードルは超えられないものなのでしょうか?
凡事徹底という言葉があるように、なんでも大きな成果を得るためには少しずつ前に進むしかありません。
それではCAEを導入する手順について紹介しますので、次の手順を1歩ずつ進めていきましょう。
(1)どのような課題を解決したいのか明確に!
まずは、製品開発で何が課題になっているかを明確にしましょう。
これから開発を始める場合は、過去の開発でどのような不具合でつまずいたかを振り返ります。
例えば、
「振動を低減するために試作機を5回作り直してしまった。」
「騒音を1dB下げるために、半年かかった。」
などの隘路事項があれば、CAEに取り組むチャンスがあります。
(2)どんなCAEツールを使用したいのか
続いて、どのようなCAEツールがあるのか把握しましょう。
また、それぞれのCAEツールで何ができるのかを把握します。
代表的なCAEツールには以下のようなものがあります。
- 変形解析:荷重がかかる部品がどれだけ変形するのか?壊れないか?
- 振動解析:共振していないか?振幅、加速度はどの程度か?
- 機構解析:組み合わさった機構がどのような挙動をするか?
- 音響解析:遮音板や吸音材がどの程度遮音する効果があるのか?
- 流体解析:流体の圧力や流速を確認したい。
(3)CAEの取り扱い業者とアポイントを取る
ある程度使用したいCAEツールを決めたら、CAEの取り扱い業者にアポイントを取ります。
取り扱い業者はWebで検索することができますが、毎年東京ビックサイトなどで開催される「設計・製造ソリューション展」などの大規模な展示会に来場して、一度にたくさんの情報を得る方法もあります。
(※製造業関連の展示会情報はこちら)
CAEの取り扱い業者と打合せを行い、解決したい課題がCAEで実現可能か確認します。できれば、他社のCAE適用事例を聞いたうえで自社に適用できるかを検討しましょう。取り扱い業者も開示してくれる範囲で情報を提供してくれます。
(4)効果を予測
試作と設計の手戻りを何回減らせるかを見積もります。最初はどの程度見積もればよいのかイメージが付きにくいので他社の事例をCAE取り扱い業者に聞くのも方法の一つです。
(5)予算を申請
CAEのライセンス費用、年間サポート費用などをCAE取り扱い業者から提示してもらいます。またCAEに対応できるスペックのPCがなければ、そちらを購入する費用の見積もりも入手しなければなりません。
CAEによる試作回数低減などの費用効果が、CAEを導入する費用を十分回収できることが予測できれば、CAEが会社の事業にどれだけ貢献するかという点を踏まえて、決済者の承認を経て予算を確保します。
そしていよいよCAEを導入することになるのですが、まだ安心はできません。
導入後は継続的に効果が出ないと、CAEの体制がなくなることも考えられるからです。
(6)セミナーに参加しCAE従事者を育成する
CAE従事者は積極的にセミナーに参加し操作方法を効率的に習得しましょう。セミナーでは単にCAEが使えるようになるだけではなく、他社の事例を聞いて業界のレベルを把握する機会でもあります。セミナーに参加することはCAE従事者のモチベーションアップにも繋がります。
7.CAEの効果は長期的な目線で!
以上、設計者CAEを導入して製品開発で効果を出すためのさまざまなハードルと、それを乗り越えるための手順について紹介しました。
CAE導入後も、効果が出るまでには年単位で時間がかかる例も少なくありませんが、長期的な目線でCAEの効果を狙って行きましょう。
(アイアール技術者教育研究所 R・O)