【自動車部品と制御を学ぶ】制御とヒステリシスの考え方/ヒステリシス設定のポイント
ヒステリシス(Hysteresis、履歴現象)は、小さい方が良い場合も、大きい方が良い場合もありますが、制御の安定性のために、あえてヒステリシスを設定する場合があります。
1.ヒステリシスとは?
まずはヒステリシスとは何かから説明を始めたいと思います。
ヒステリシス特性として代表的なものに、B-H曲線(磁化曲線)があります。
以下図(A)に示すように、最初磁化されていない磁性体に磁界HをH0→H1のように加えると、磁束密度Bは①のように変化しますが、そこから磁界を減らしたとき、磁束密度は赤破線のようにはもどらず、②のように変化し、その後の磁束変化→H2→H1に対して、③→④→⑤のように変化します。
このような特性を示す場合、「ヒステリシスがある」と言います。
ヒステリシスとは、厳密に言えば「現在の変化が過去の変化履歴の影響を受ける現象」ですが、簡単に言えば「変化を与えるものの変化状態がもとに戻っても、変化を与えられるものは同じ状態にもどらずに別の変化を示すような特性」となります。
制御で「制御ヒステリシスを設ける」という場合には、「変数の異なる変化方向に対して、異なる制御設定を行うこと」を意味します。
2.制御を切り替えるときの挙動
制御ヒステリシス設定の有効性の理解のため、制御切り替え時の挙動を例にして説明します。
以下図(B)は、制御への入力変数Xに対して、しきい値Xtにより制御を制御Aから制御Bに切り替える制御を表しています。
(*しきい値:制御上の判断を行うための基準値)
制御Aと制御Bの切り替えには、次のような例があります。
- ① ある制御をON(OFF)にする制御からOFF(ON)にする制御に切り替える
- ② 全く別の二つの制御を切り替える
- ③ PID定数など制御定数を切り替える
- ④ トータルエネルギマネージメントのために、複数のうち、ある制御をOFF(ON)にする
- ⑤ フェイルセーフ判定を行い、バックアップモードに切り替える
(*フェイルセーフ:装置あるいはシステムが故障した場合に、安全サイドに作動を移行させる)
図(B1)、(B2)の上図は、コントローラで、制御Aと制御Bを切り替えている状態を示しています。
図(B1)に対して、図(B2)のようにしきい値の近くで入力変動がある場合には制御Aと制御Bの切り替えが激しく行われます。
このような場合、切り替え制御により、制御不安定、異音、あるいは振動などが発生する可能性があります。
3.制御ヒステリシスの設定
図(B2)のような状態への対応策として、図(C)のようにして、制御ヒステリシスが設定されます。
制御入力Xが増加して、しきい値Xt-upを越えるときに、制御AからBに切り替わりますが、制御BからAに戻るのは、Xが減少して、より小さい別のしきい値Xt-downを越えるときとなります。
これにより、Xがしきい値の近くで変動しても、制御がその影響で頻繁に切り替わることを回避することができます。
制御切り替えの事例⑤(フェイルセーフ制御)においては、しきい値近くの制御入力変動への対応以外に、もう一つの狙いがある場合があります。
それは切り替えられたバックアップ制御を通常にもどすときに、もとに戻しても安全かどうかを判定するために、二つ目の別のより低いしきい値を用いるというものです。
通常制御をバックアップ制御に切り替える条件設定として、一度のしきい値越えではなく、しきい値越えの回数をカウントして、ある回数になったらバックアップ制御に切り替えるという設定もあります。
この場合、逆にバックアップ制御から通常制御へ復帰する条件として、正常入力値検出の要求回数をバックアップ制御への切り替えの時の回数より多くするということも行われます。
4.ノイズとバラツキの影響
二つのしきい値を用いて、制御ヒステリシスをもたせる場合には、制御入力のノイズやバラツキに注意しなければなりません。
ノイズやバラツキが大きく、図(D)のような状態になった場合には、二つのしきい値を用いてヒステリシスを設定した効果が無くなる可能性があるからです。
制御入力値がセンサの出力値である場合、よりS/N比(信号出力/ノイズ出力比)が大きく、個体および繰り返しバラツキの小さいセンサを用いると、制御設定と評価における負荷が軽減できます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)