【中国特許分析】熾烈な開発競争が進む「自動運転技術」の出願動向をチェック

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自動運転

2019年10月にトヨタとBMWが、特定条件下で全ての運転タスクをシステムが行う「レベル4の自動運転」について、相次いでアナウンスを行いました。世界の自動車メーカーは、このレベルの自動運転の実現に精力的に取り組んでいます。自動運転に関する研究開発の凄まじい勢いは、特許を検索すれば一目瞭然です。

中国を代表する特許検索データベースの一つである“Incopat”を利用して、自動運転関連のキーワードとIPC分類で簡易的に検索してみたところ、世界の特許公開件数が急増していることが分かります。

1.世界各国における出願件数の推移

図1に示したように2010年以降から件数の増加傾向が進み、そして2015年頃からは驚異なスピードで件数が増えています。
振り返れば、グーグル(Google)やアップル(Apple)が自動運転や電気自動車(EV)の事業に本格参入というニュースが増えてきたのも、2010年頃からでした。

これを出願国(機関)別にみてみると、ここ数年にわたり中国が自動運転分野で急速に存在感を強めていることがわかります(図1)。
2019年の数値が見た目上少なくなりそうでうすが、2019年出願のものは、今回の検索時点では未公開のものが多いですので、後ほどこの統計数字は上がるでしょう。

世界各国の出願推移(図1)から見ると、中国(CN)と米国(US)以外では、WOの出願の増加も目立っています。自国出願だけではなくて、PCTルートにより色々な国に保護を求められているのがこの分野の特徴とも言えます。世界中で注目される自動運転技術に関して、グローバルな特許出願戦略をとる企業は多いようです。
 

図1:自動運転に関する世界特許出願の傾向(件数)
【図1:自動運転に関する世界特許出願の傾向(件数)】

 

自動運転に関する中国特許・実用新案の出願状況

特許出願が増加しているのが当然だと思いますが、中国では実用新案の件数も無視できないレベルに拡大しています。(図2)
2019年度の出願では、自動運転に関する実用新案出願が2448件ありました。

図2:自動運転に関するCN出願の状況(件数)
【図2:自動運転に関するCN出願の状況(件数)】

 

自動運転に関する中国特許・実用新案の出願状況

また、特許出願の法律状態(図3)を見ると、年度ごとの登録件数が年々増えています。
出願の「量」の増加が顕著ですが、それらが実態審査を経て登録されているという点では、ある程度の「質」も満たしている出願が多いことが推察されます。

新しい発明や改良技術が、中国では次々と出願されています。
2017年~2019年の出願については現時点では登録件数や有効件数(*)が少ないですが、その原因はこの時期の出願はまだ審査中のものが多いためです。時間の経過とともに、これらの数値はさらに上がっていきます。

(*)有効:ここでは、登録されており、かつ、生存中の特許を指しています。

図3:自動運転に関する中国特許出願の法律状態(件数)
【図3:自動運転に関する中国特許出願の法律状態(件数)】

 

中国出願の7割以上が中国現地の出願人!日本勢の比率は?

自動運転関連の中国特許出願の総件数から統計する(図4)と、7割以上の出願主体が中国現地出願人であることは想到通りです。
外国籍出願人の中には、米国出願人が一番多く9.80%で、次は日本出願人の8.30%となっていました(図4)。

図4:中国特許出願人の国別割合
【図4:中国特許出願人の国別割合】

 

2.IPC付与状況

中国特許出願の技術内容を特許分類(IPC分類)から見てみましょう。
よく付与されている分類(サブクラス単位)を上位10個抜粋しました。(表1)

出願全体のうちで付与している割合は以下の表の通りです。
車両の運転制御や安全性に関する制御システムの開発が進み、数多くの技術成果を権利化しているようです。

IPC 付与状況
B60W(異なる種類または異なる機能の車両用サブユニットの関連制御;ハイブリッド車両に特に適した制御システム;特定の単一のサブユニットの制御に関するものではない、特定の目的のための道路走行用車両の運動制御システム) 11.4%
G05D(非電気的変量の制御または調整系) 10.4%
H04W(無線通信ネットワーク) 10.3%
G06K(データの認識、データの表示、記録担体、記録担体の取扱い) 9.6%
G01S(無線による方位測定;無線による航行;電波の使用による距離または速度の決定;電波の反射または再輻射を用いる位置測定または存在探知;その他の波を用いる類似の装置) 9.1%
G08G(交通制御システム) 8.6%
B60R(他に分類されない車両,車両付属具,または車両部品) 8.5%
H04L(デジタル情報の伝送,例.電信通信) 8.1%
G01C(距離,水準または方位の測定;測量;航行;ジャイロ計器;写真計量または映像計量) 7.5%
G06F(イメージデータ処理または発生一般) 6.9%

【表1:IPC分類(サブクラス)付与状況】

従来の車両の分類B60以外、H04(電気通信技術)とG05(制御調整)もよく作れています(図5)。
また、G06K(データの認識、データの表示、記録担体、記録担体の取扱い) とG01S(無線による方位測定等)の件数増加が速い点も注目です(図6)。

図5:出願年度ごとのIPC分類付与件数
【図5:出願年度ごとのIPC分類付与件数】

 

図6:IPC分類付与傾向
【図6:IPC分類付与傾向】

中国特許調査する際の一つの注意点としては、IPC分類の付与数が少ないことです。1つだけしか分類が付与されていない公報も散見されます。(表2)

特にIT関連の特許は、先端技術のために分類改定も多く検索が難しいと言われるG分類が中心となることもあり、伝統的な自動車分野の検索で用いられてきた分類以外も十分にケアする必要があります。
中国特許調査では、検索対象とする分類の検討・選定が不十分だと検索漏れが生じやすく、致命的な調査ミスに繋がってしまう可能性もあるので注意しましょう。

No. タイトル 出願人 公開(公告)番号 IPC
1 车辆故障处理方法、装置、设备及存储介质 バイドゥ CN109358592B G05B23/02
2 无人驾驶汽车底盘控制方法、装置、设备及存储介质 バイドゥ CN109334590B B60R16/023
3 基于自动驾驶车辆的物品派送方法、装置及系统 バイドゥ CN110400111A G06Q10/08
4 自动驾驶车辆的控制装置 トヨタ CN110370955A B60L50/61
5 显示自动驾驶车辆行驶行为的方法和装置 バイドゥ CN109808493A B60K35/00
6 用于无人驾驶车辆的数据获取方法和装置 バイドゥ CN107819799B H04L29/08

【表2:IPC分類が1つだけしか付与されていなかった公報の例】

 

3.自動運転の技術効果・課題として多いのは?

では、自動運転に関する中国特許の内容についてみてみます。
中国特許情報から読み取れる内容として、具体的にどのような技術効果や課題について注力されているのでしょうか?

incoPatによる機械的データベースから抽出したキーワードに基づく統計結果を示しました。(図7,8)

図7は特定のキーワードに基づき検出された件数です。
図8は原文の単語のままキーワードとして検出された件数です。

本来は多角度で比較して分析することも重要ですが、[自動車 × IT・通信]となると、やはり分野的に広くなり過ぎてしまいます。また、技術内容も細分化されており、機械的なスクリーニング・分析だけでは、なかなか有意義な情報を得ることは出来ません。
下記2つの図からは、自動化・知能化の向上、安全性、コスト削減などが多いことなど、概ね想定通りの情報だけが把握されます。
自社の具体的な事業戦略・技術開発戦略の立案・推進のために特許情報を活用するのであれば、特定のテーマに絞ったうえで詳細な分析をすることが必要です。

図7:技術効果ごと出願件数-レベル1
【図7:技術効果ごと出願件数-レベル1】

図8:技術効果ごと出願件数-レベル2
【図8:技術効果ごと出願件数-レベル2】

 

4.自動運転技術に関する中国特許の出願人分析

出願人の分布に関する分析も行いました(表3)。
大手グローバル自動車メーカーが出願件数ランキングの上位に入るのは当然ですが、中国ではIT・通信企業による出願件数が多いことが特徴です。

ランキングをみると、中国最大のスマホメーカ/通信会社であるファーウェイ(華為)と、最大の検索エンジンを提供している百度(バイドゥ、Baidu)が目立っています(表3)。

順位 出願人 出願件数 国別
1 ファーウェイ(華為) 1882 中国
2 フォード 1664 米国
3 バイドゥ(百度) 1648 中国
4 ゼネラルモーターズ 1284 米国
5 トヨタ 1203 日本
6 ホンダ 998 日本
7 サムスン 921 韓国
8 ボッシュ 592 ドイツ
9 吉林大学 530 中国
10 DJI (大疆创新、SZ DJI Technology Co., Ltd.) 505 中国
(2006年設立)

(※上記件数は特許公開と特許登録の重複を排除した件数となっています。)

【表3:自動運転分野に関する中国特許の出願人ランキング】

 
百度は実際、2017年、自動運転技術のプラットフォーマーとして、自動運転車を共同開発する世界最大の企業連合「アポロ計画」を設立し、翌年の2018年7月には、金龍客車と共同開発を進めてきた世界初の高度自動運転バス(レベル4)「アポロン」の量産を開始しました。さらに、2019年9月に湖南省長沙でV2Xシステムを配備する自動運転タクシーRobotaxiの路上テストを始め、2020年9月から北京で自動運転タクシーサービスApollo Goを提供し始め、ユーザが予約要らなくアプリ発注により直接乗れるになりました。

ファーウェイは数多くの標準必須特許(Standard Essential Patents,SEPs)を保有していると言われています。自動運転技術に特化する百度に対し、ファーウェイは自動運転を含むIoT分野における汎用できる技術に関する出願が多いようです。

また、2006年深圳に設立した「深圳市大疆创新科技有限公司」といった民営会社はもともとドローンメーカーとして起業したんですが、今は自動運転を含む人工知能分野のいろいろな技術開発を進んでいるようです。

そして、中国の吉林大学といった中国の重点大学による出願も目立ちます。中国では大学による出願件数が多いことも特徴です。”知能汽車”のコンテストには、中国の名門大学によるチームが数多く見られます。

図9:中国現地上位出願人の出願推移
【図9:中国現地上位出願人の出願推移】

 

さらに、出願の法律状態を見ると、登録かつ生存中(有効)ものが多いです(表4)。

特に企業出願人の3社はいずれも7割以上の有効率があり、なかなか質の良い特許出願がされていることが推察されます。

出願件数 法律状態 主なIPC
特許公開 特許登録 実用新案 有効 審査中 失効
ファーウェイ 1895 155 1 84.7% 14.9% 0.4% H04W
H04L
H04B
バイドゥ 1610 227 50 70.7% 26.7% 2.6% G06K
G06F
G06T
吉林大学 401 116 130 38.8% 41.9% 19.3% B60W
B60T
B62D
DJI

(大疆创新)

438 32 64 75.3% 23.8% 0.9% G05D
H04N
G01S

(注:上記件数は特許公開と特許登録の重複が含まれています。)

【表4:上位中国籍出願人の特許法律状態】

日系自動車メーカーでは、トヨタとホンダも上位です。
他には、米国系の自動車メーカーであるフォード(Ford)やゼネラルモーターズ(GM)、韓国のサムスン(Samsung)、ドイツの自動車部品メーカー・ボッシュ(Bosch)が上位に入っていました。(表3)

なお、アップル(Apple)や、ニュース上によく話題になるテスラ(Tesla)、中国の大手自動車メーカーは今回の調査では上位に入りませんでした。

 

5.参考:検索式

今回の調査は、中国における大まかな特許出願状況を俯瞰することを目的としているため、粗めのキーワードとIPC検索を中心とした簡易的な検索による分析結果に過ぎません。

より精度の高い特許情報を確認するには、対象分類と中国語キーワード(技術用語の網羅とシソーラス[類義語]の確認)をしっかりと精査したうえでの、本格的な検索が必要となります。

式の意味 No. 検索式 件数
名称要約=(自動運転 or 知能車両 or V2X)
※ノイズとしては、AGV等無人作業車、ドローン等があります。
1 TIAB=(“无人驾驶” OR “自动驾驶”  OR “自动化驾驶” OR “自动导航” OR “无人车” OR “自主化驾驶” OR “自主车” OR “自主驾驶” OR “智能驾驶” OR “自主导航” OR “自主避障” OR “智能车辆” OR “智能汽车” OR “半自动驾驶” OR “自适应辅助驾驶” OR “自适应驾驶” OR “自适应巡航” OR “自动巡航” OR “V2X”) 22264
全文=(自動運転 or 知能車両 or V2X) 2 FULL=(“无人驾驶” OR “自动驾驶”  OR “自动化驾驶” OR “自动导航” OR “无人车” OR “自主化驾驶” OR “自主车”  OR “自主驾驶” OR “智能驾驶” OR “自主导航” OR “自主避障” OR “智能车辆” OR “智能汽车” OR “自适应辅助驾驶” OR “自适应驾驶” OR “自适应巡航” OR “自动巡航” OR “V2X”)
全文=(自動運転 or 知能車両 or V2X)
and
IPC分類
3 IPC=(G05D OR B60 OR G08G OR G06K OR G01C OR G01S or H04W or B62D or G06 or G05B or G01M17 or G06Q or H04L or H04N) and FULL=(“无人驾驶” OR “自动驾驶”  OR “自动化驾驶” OR “自动导航” OR “无人车” OR “自主化驾驶” OR “自主车”  OR “自主驾驶” OR “智能驾驶” OR “自主导航” OR “自主避障” OR “智能车辆” OR “智能汽车” OR “自适应辅助驾驶” OR “自适应驾驶” OR “自适应巡航” OR “自动巡航” OR “V2X”) 73363
全文=車
※車用ではない船用や飛行機用のものを除外する目的
4 FULL=(车 or 车辆 or 汽车 or 车载)
5 1+3 77045
(名称要約=(自動運転 or 知能車両 or V2X) or (全文=(自動運転 or 知能車両 or V2X) and  IPC分類))
and 全文=車
6 (1+3)*4 63399

 
ということで今回は、特許情報からみた中国の自動運転技術の動向について簡単にまとめてみました。

熾烈な開発競争が、グローバルに繰り広げられている自動運転技術。
今後もその特許情報には要注目です!

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L / X・W)


中国の技術情報調査、特許調査・分析サービスは日本アイアールまでお気軽にお問い合わせください。


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