欧米の化学物質規制とリスク評価の概要(REACH,TSCA等)

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米国・欧州の化学物質規制

現在、Chemical Abstract Service (CAS)に登録されている化学物質の数1億以上に上ります。

しかし、各国で「人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境の汚染を防止することを目的とする法律」に登録されている化学物質のリストは、万単位に留まっています。

  • 日本化審法:約3万
  • 米国TSCA(Toxic Substances Control Act): 約8~9万
  • 欧州REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals):約11万

従来の化学物質規制の枠組みでは、既存化学物質への対応は不十分と言えるでしょう。
私たちの健康だけでなく、生物の、そして地球の環境保全のために化学物質対策が重要です。

今回は、化学物質規制の国際動向、更に「欧米の化学物質規制」の概要を見てみましょう。
 

1.化学物質規制の国際動向

2002年に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(World Summit on Sustainable Development:WSSD)において合意された「2020年までに化学物質の製造・使用に伴う人及び環境への著しい悪影響を最小化する」という目標(WSSD2020年目標)の達成に向けて、化学物質管理の強化に向けた取組みが各国で進められてきました。

欧州(EU)では、2006年12月に化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals:REACH)が成立し、2007年6月以降段階的に施行されました。

アメリカでは2009年に「有害物質規制法」(Toxic Substances Control Act:TSCA)改正のための基本原則が公表され、TSCAの改正について引き続き議論されています。カナダでも2006年に新たな化学物質管理計画(Chemicals Management Plan:CMP)が発表されました。

東アジアにおいては、中国では「新規化学物質環境管理弁法」が2010年に改正され、続いて、「危険化学品環境管理登記弁法」が2012年10月に公布、2013年3月に施行されています。また、韓国では「化学物質の登録及び評価等に関する法律」が2013年5月に公布され、2015年1月に施行されました。

日本の化学物質審査規制法に相当する新規化学物質の事前審査規制制度は、世界で約10の国又は地域で導入されています。
EU、アメリカ、中国、韓国、そして日本の法令の概要を確認してみましょう。
 

《化学物質管理に関する各国の主な法令》

法令 目的
EU REACH 労働者保護、消費者保護、環境保全
アメリカ TSCA 労働者保護、消費者保護、環境保全
中国 新規化学物質環境管理弁法 新規化学物質の体系的管理、環境保全
危険化学品安全管理条例 危険化学品安全労働者保護、環境保全、化学事故の予防
韓国 化学物質管理法 有害化学物質の体系的管理、化学事故の予防
化学物質登録・評価法 労働者保護、消費者保護、環境保全
産業安全保健法 労働者保護
日本 化審法 人の健康または動植物の生育を損なう環境汚染の防止
安衛法 職場における労働者の安全と健康の確保
 

EUの化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則である「REACH規則」、米国の新規化学物質登録制度、有害物質規制法「TSCA」と、日本の「化審法」の概要を比較してみます。

項目 日本(化審法) 米国(有害物質規制法,TSCA) EU(REACH)
所管省庁 厚生労働省、経済産業省、環境省 環境保護庁(EPA) 欧州委員会 環境総局、企業総局
制定 1973年 1976年 2006年
規制等を実施する組織 厚生労働省、経済産業省、環境省、 NITE EPA 化学物質庁(ECHA)、EU加盟各国の関 係部署
職員数 100名程度(NITE含む) 300名程度 500名程度(ECHAのみ)
暴露経路 環境経由 環境経由
職業暴露(吸入、経皮)
消費者暴露(吸入、経皮)
環境経由、
職業暴露(吸入、経口、経皮)
消費者暴露(吸入、経皮)
対象物質 【規制対象】

  • 化合物

 

【規制外】

  • 元素
  • 成型品中の化学物質
  • 天然物
【規制対象】

  • 元素及び化合物
  • ナノ物質
  • 成型品中の化学物質(意図的に放散されるもののみ対象)
  • 微生物

※ナノ及び成形品(*)中の化学物質については、現実に規制されているものは限定的。

【規制対象】

  • 元素(天然物は除く)
  • 化合物
  • ナノ物質
  • 成形品中の化学物質(意図的に放散されるもののみ対象)

(*)成形品:生産時に与えられる特定な形状、表面又はデザインがその化学組成よりも大きく機能を決定する物体をいいます。
 

2.欧米におけるリスク評価

欧米の化学物質審査規制法 欧州 REACHおよび 米国 TSCAにおけるリスク評価を紹介します。

  • 全ての化学物質について事業者がリスク評価の実施義務を負ってきた欧州
  • 米国環局保護庁 (EPA)がリスク評価を実施してきた米国

欧州では現場の事業者による評価と管理が、米国では EPAの専門家による詳細な評価と管理命令が行われており、ともに目的は行政規制上の化学品管理ですが、それぞれのとり得る手段や体制は異なります。
 

(1)欧州におけるリスク評価

欧州 REACHでは新規・既存物質の安全性データとリスク評価の結果を事業者が当局へ提出する必要があります。このため、事業者がリスク評価を簡便に行うためのツール、“ECETOCTRA” が 開発・改良され、広く活用されています。

そのほか高次ツールの改良も進められつつあります。特にREACHはこれまで当局が行っていたリスク評価の実施と管理措置の導入を、事業者へ移管しているため、現場で実用可能なツールが開発されてきました。

リスク評価の実施と管理措置の導入を法律で義務付けるほか、リスク評価のツールやモデルを簡素化し、ウェブアプリケーションやエクセルシートとしてマニュアルとともに提供するなど、ユーザーフレンドリーにすることで、化学物質を取り扱う事業者によるリスクの評価と管理の意識がさらに促進され、今後の進展も期待されます。

しかしながら、収集した情報の量と質、評価者の専門性やツールの理解度によってリスク評価の質が異なるという課題や、評価結果が現場でのリスク管理に十分に反映されていないという課題が指摘されています。
 

(2)米国におけるリスク評価

米国 TSCAでは、当局 EPAの専門家による新規物質の審査、および既存物質の安全性点検のためのリスク評価が、段階的アプローチを用いて行われています。

スクリーニング段階では作業環境及び作業環境から一般環境への排出を評価する ChemSTEER、および、環境と消費者に対する曝露量の概算に E-FASTが用いられ、これらは新規物質の申請前に事業者が審査結果を事前に予測するための評価モデルとしても推奨されています。

欧州との違いは、事業者に代わり当局の専門家が対象物質の性状や用途に応じた方法で精綴なリスク評価を実施し、評価に使用される情報を提供する事業者の裁量、すなわち、その情報の量や質がリスク評価の結果とその後の上市の制限を左右する点です。さらに TSCA法改正の動きに合わせて、事業者による事前リスク評価を推奨するプログラム、”P2 Sustainable Future“のもとで簡易モデル・ツールの改良が進められています。

 

TSCA規制、REACH規制の前文、本文をはじめ、規制対応に関する情報を環境省のHPで見ることができます。
関連実務に携わる方は、ぜひ詳しい内容をチェックしてみてください。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・I)
 


≪引用文献、参考文献≫


 

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