【炭素鋼 vs ステンレス鋼】特徴の違いを比較解説!選び方のポイントがわかる
本コラムでは、機械部品用の材料として広く使われる鉄鋼材料の代表格である炭素鋼とステンレス鋼、および両者の違いについて解説します。
目次
1.炭素鋼とステンレス鋼の基本《前提知識》
(1)炭素鋼の概要
純鉄(Fe)は軟らかくて強度が低いことから、機械部品として使用するには少量の合金元素を添加して強度等を改善することが必要です。純鉄に炭素などの合金元素を添加したものを「鋼」と呼び、特に0.02~2.0[%](重量比)の範囲内で炭素(C)を含有させたものを「炭素鋼(Carbon Steel)」といいます。炭素鋼は強度が高く機械構造部品として広く使用されています。
炭素鋼には炭素(C)の他に、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)が含まれます。これらを鋼の5大元素といいます。
5大元素のなかで、PとSは鋼の機械的性質を劣化させる有害な成分(不純物)ですが、ある程度の混入は避けることが出来ず、製鋼過程で極力少なくなるように管理することで鋼の品質維持を図っています。
一方、C、Mn、Siは鋼の機械的性質を向上させるうえで有用な役割を果たします。例えば、鋼の引張強さは主に炭素含有量(C量)によって決まります。
炭素鋼は、炭素(C)含有量の違いにより分類され、C量0.02%~0.3%のものを「軟鋼」、0.3%~2.1%のものを「硬鋼」といいます。一般的に、C量を増やすほど強度が高くなり(引張強さが向上)、硬度も上がります。
[※関連記事:《機械材料の基礎》主な炭素鋼の特徴と使い分けのポイント [SPC材/SS材/S-C材] ]
(2)ステンレス鋼の概要
「ステンレス鋼」(Stainless Steel)は、鉄(Fe)をベース(50%以上)として、クロム(Cr)を10.5%以上含有し、炭素(C)含有率を1.2%以下としたものと定義されています。
炭素量の上限を規定する理由は、炭素が多いと、クロムと反応して炭化クロムを形成して、有効なクロムの量が減ってしまうためです。Crを10.5%以上含有することにより、表面が不働態被膜と呼ばれる非常に薄い(厚さ数nm)酸化クロム層で覆われ、この被膜は透明であるため金属光沢を維持した外観を保ちます。
ステンレス鋼は、20世紀初頭に開発、実用化されて以来、日本のJIS規格だけでも100種類以上の鋼種が制定されており、鋼材メーカーで独自に開発された鋼種も含めて、用途ごとに使い分けられています。
ステンレス鋼の種類は、アルファベット記号「SUS」の後に、300番台、400番台、600番台の数字をつけて表します。
- 300番台・・・Fe-Cr-Ni系(オーステナイト系ステンレス鋼など)
- 400番台・・・Fe-Cr系(マルテンサイト系ステンレス鋼など)
- 600番台・・・析出硬化系
このなかで600番台の析出硬化系は特殊な鋼材であり、一般的なステンレス鋼は300番系と400番系になります。(304、403など個々のステンレス鋼の比較については、別コラムで解説します。)
[※関連記事:ステンレス鋼とは?種類・特徴・用途等を解説|Fe-Cr系/Fe-Cr-Ni系/析出硬化系 ]
2.炭素鋼とステンレス鋼の違い
上述の通りステンレス鋼には様々な種類があるため、ここではステンレス鋼の中で最も汎用的に使用されている「オーステナイト系ステンレス鋼」(300番台)と炭素鋼の違いについて見ていきます。両者の特徴(メリット・デメリット)を比較しながら解説します。
(※「オーステナイト系ステンレス鋼」以外のステンレス鋼の種類については、下記の説明とは特徴が異なる場合もありますのでご了承ください。)
(1)耐食性(塗装の要否)
炭素鋼は、空気中では表面に「ヘマタイト」という赤色の酸化鉄(Fe2O3)の被膜が形成され、いわゆる錆びた状態(赤さび)となります。この酸化皮膜は、水分が介在しない限りは安定していますが、水溶液の中では、簡単に言えば「金属原子の溶出」が起きて、金属腐食が進行します。空気中であっても、雨水など水分の影響により腐食が発生します。
ステンレス鋼の場合、空気中では、酸化クロムの不働態被膜は部分的に破れてもすぐ修復する機能を有するので長期間にわたり安定した耐食性を有します。中性水溶液中では、流れが速い環境下でも不働態被膜は安定して高い耐食性を有します。
炭素鋼は、酸化鉄被膜(赤さび)の発生を防止するために、防錆剤を塗った後に塗装を施すのが一般的です。
これに対してステンレス鋼は、表面に透明で自己修復機能を有する酸化クロム層が形成されるため、防錆塗装を必要としません。
[※関連記事:海水など水溶液中での金属腐食メカニズム ]
(2)強度
一般的に、炭素鋼の方がステンレス鋼よりも強度に優れているというイメージを持たれることが多いようです。しかし、炭素鋼の炭素量やステンレス鋼の各合金成分量の違いなどにより、鋼種によってはステンレス鋼の方が、炭素鋼よりも強度が高い場合もあります。一概に両者の強度を比較することは困難と言えます。
(3)磁性
炭素鋼は磁性を有しているので磁石に付きます。
一方、ステンレス鋼のうちオーステナイト系ステンレス鋼については非磁性であり、磁石に付きません。
[※関連記事:3分でわかる 電磁ステンレス鋼の基礎知識[フェライト系/オーステナイト系] ]
(4)熱伝導率
オーステナイト系ステンレス鋼の熱伝導率は、炭素鋼の約5分の1で、金属の中では熱を通しにくい性質を有しています。
(5)線膨張係数
炭素鋼の線膨張係数は 11.8×10-6/℃ です。
一方、オーステナイト系ステンレス鋼の線膨張係数は 17.3×10-6/℃ です。
つまり、オーステナイト系ステンレス鋼は、炭素鋼に比較すると、温度変化に対して約1.5倍伸び縮み量が大きいということになります。
(6)加工性
炭素鋼のうち、炭素量0.3%以下の「軟鋼」は切削性や溶接性に優れています。ただし炭素量が増えるにつれて硬度が上がるので切削性は低下します。炭素量が0.3%を超える「硬鋼」については、溶接熱影響部に割れが発生しやすくなり、一般的に溶接構造には適していません。
オーステナイト系ステンレス鋼は、熱伝導率が低いために切削加工時の熱が工具に集中し、工具寿命を短くすることがあります。また、「加工硬化」という加工中に硬度が急に上昇する性質を有しており、炭素鋼に比較して切削加工の難度が高い材料であるといえます。溶接についても炭素鋼に比較すると、特別な注意が必要となります。
炭素鋼とステンレス鋼の特徴比較(まとめ)
炭素鋼とステンレス鋼(オーステナイト系ステンレス鋼)の主な相違点についてまとめると、下表のようになります。
【表1 炭素鋼とオーステナイト系ステンレス鋼の特徴比較】
炭素鋼 |
オーステナイト系ステンレス鋼 |
|
耐食性 |
|
|
磁性 | 有り(磁石に付く) | 非磁性(磁石に付かない) |
熱伝導 | 80 熱を通しやすい |
17(炭素鋼の約5分の1) 熱を通しにくい |
線膨張 | 11.8×10-6/℃ 温度変化に対し伸縮が小さい |
17.3×10-6/℃ 温度変化に対し伸縮が大きい |
加工性 | 軟鋼は切削性、溶接性ともに優 硬綱は切削性可、溶接性難 |
低熱伝導度のため工具寿命に影響 加工硬化のため、切削性に劣る 溶接可(ただし注意が必要) |
以上、炭素鋼とステンレス鋼(オーステナイト系ステンレス鋼)の違いについて簡単に解説しました。
両者の特性を理解した上で、機械部品の用途に応じて適切に使い分けることが重要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)