押さえておきたい農薬取締法の基礎知識《要点解説》
農薬というと、悪いイメージを持っておられる方が多いと思います。
ですが、農薬には多くの利点があります。
例えば、農作業の軽減(重労働からの開放、人件費の削減)、安定した収穫量・収穫物の品質の確保(生産効率の向上、農作物の価格への影響)、農業経営の安定化等々があげられます。
実際、農薬を使わないと、水稲ではいもち病や雑草の害で収量が20~30%減ったり、害虫による品質低下があったなど多くの報告がされています。
日本で使用されている農薬は、農薬取締法という法律によって、効果だけでなく、人や環境への影響(毒性等)の試験が行われており、より安全なものとなってきています。
今回は、日本の農業に大きくかかわっている「農薬取締法」の基礎知識を解説します。
目次
1.農薬取締法の経緯
農薬取締法は、第二次世界大戦後に制定されました。
大戦直後は、食糧難で農作物を増産させることが必要な時期でしたが、不良農薬が使用されたため農家が損害を受けることが多発したことなどから、農薬の品質の保持と向上を図るために農薬取締法が制定されました。
その後幾度となく改正が行われていますが、平成30年の改正では、農薬の安全性の一層の向上を目的として、再評価制度の導入や、登録審査の見直し(農薬の安全性に関する審査の充実、ジェネリック農薬の申請の簡素化)が行われました。
2.農薬取締法の目的
第1条にこの法律の目的が記載されています。
第1条 この法律は、農薬について登録の制度を設け、販売及び使用の規制等を行なうことにより、農薬の品質の適正化とその安全かつ適正な使用の確保を図り、もつて農業生産の安定と国民の健康の保護に資するとともに、国民の生活環境の保全に寄与することを目的とする。
第1条は、「農業生産の安定」、「国民の健康の保護」、「国民の生活環境の保全」に寄与することが目的とされています。
農薬は環境中に直接散布される生理活性を有する化学物質であるため、化学物質を規制する法律の中でも特に厳しく規制することによって、「農薬の品質の適正化」と「安全かつ適正な使用の確保」をすることによって、法目的を達成することとしています。
3.農薬の定義
第2条に農薬の定義がされています。
農薬には、殺虫剤、殺菌剤、殺ダニ剤、殺線虫剤のほか、わい化剤や成長促進剤などが挙げられていますが、天敵も農薬とみなされています。
一方で、農作物に害を与えない衛生害虫などを駆除する殺虫剤や非農耕地でのみ使用される除草剤は、農薬に該当しないこととされています。
また、農薬取締法でいう農薬は、製剤を指していますので、同じ有効成分であっても、剤型、含有量または製造者が異なるとそれぞれ別の登録を必要とします。
4.農薬取締法の内容
農薬取締法は上記目的の他、登録、表示、取締等による規制等が定められています。
登録
日本国内において農薬を製造、加工、輸入するためには、農林水産大臣の登録が必要となります(第3条)。
登録を受けるためには、製造者または輸入者は、農薬登録申請書や薬効・毒性等の試験成績を農林水産大臣に提出する必要があります。
農薬の品質および安全性の検査は、農林水産消費安全技術センターで行われます(第3条5項)。
登録の有効期間は3年で、再登録申請により更新されます。
農業者個人の輸入・製造(調合など)も登録手続きを必要とします。
表示
製造、加工、輸入した農薬を販売するときには、製造者または輸入者は、容器または包装に必要事項を表示しなければならないことになっています(第16条)。
主な表示項目としては下記が挙げられています。
- 登録番号
- 農薬の種類、名称、物理的化学的性状、有効成分や補助成分の種類と含有量
- 内容量
- 適用病害虫・雑草の範囲、使用方法
- 人畜への有毒性と解毒方法
- 水産動植物への有毒性
- 貯蔵上または使用上の注意事項
- 引火性、爆発性、皮膚を害する危険性 等々
容器等に表示のある農薬のみが販売できる(第18条)ことになっており、違反した場合は罰則(第47条)の対象となります。
また、大臣は販売者に対して回収命令(第19条)を出すことができることになっています。
届出
販売者は、販売の開始前までに、氏名および住所、販売所を販売所ごとに、その販売所の所在地を管轄する都道府県知事あてに届け出る必要があります(第17条)。
また、届出内容を変更、販売所の廃止等の場合は2週間以内に届け出る必要があります。
届出も罰則対象(第48条)となりますので注意が必要です。
なお、販売者には個人も含まれます。
また、インターネット上の店舗やオークションで出品を行う場合も届け出が必要となります。
帳簿作成・報告
製造者、輸入者及び販売者は、帳簿を備え付け、これに農薬の種類別に、製造量、販売量、輸入数量等を、記載し、3年間その帳簿を保存しなければならない(第10条)ことになっています。
そして、農林水産大臣又は環境大臣は製造者、輸入者、販売者又は農薬使用者に対し、都道府県知事は販売者に対し、農薬の製造、加工、輸入、販売若しくは使用に関し報告を命じることができます(第13条)。
農薬の使用禁止
容器に表示のある農薬と特定農薬以外の農薬および販売が禁止されている農薬(下記POPs条約で説明)の使用が禁止されています(第11条)。
水質汚濁性農薬の使用規制(第12条の2)
水産動植物に被害を及ぼすか、公共用水域の水質を汚濁して人畜に被害を及ぼすおそれがある農薬(水質汚濁性農薬)は、都道府県知事が指定した区域内で使用する場合は事前に許可をとる必要があります。
現在、CAT(シマジン)が水質汚濁性農薬に該当しています。
農薬の使用基準
「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」に、農薬の使用基準が定められています。
使用基準には、遵守義務と努力義務があります。
① 遵守義務
農作物等に害を及ぼさないようにすること、人畜に被害が生じないようにすることなど(省令1条)が定められていますが、より具体的には2条に挙げられています。
- 適用農作物等の範囲外の作物等に使用しないこと。
- 算出される量を超えて当該農薬を使用しないこと。
- 希釈倍数の最低限度を下回る希釈倍数で当該農薬を使用しないこと。
- 規定する使用時期以外の時期に当該農薬を使用しないこと。
- 規定する生育期間において、既定の回数を超えて農薬を使用しないこと。
② 努力義務(省令6条~9条)
- 農薬を使用した年月日、場所、作物、種類、使用量等を帳簿に記録する。
- 水田で使用する場合、農薬が流出することを防止する措置を講じる。
- 土壌くん蒸剤の場合、農薬が揮散することを防止する措置を講じる。 等々
なお、くん蒸による農薬の使用、航空機を用いた農薬の使用、ゴルフ場における農薬の使用は、農薬使用計画書を農林水産大臣及び環境大臣に提出しなければならない(省令3条~5条)ことになっています。
5.農薬取締法の関連法律
POPs条約について
本条約の対象となる残留性有機汚染物質(POPs)とは、毒性が強く、残留性、生物蓄積性、長距離にわたる環境における移動の可能性、人の健康又は環境への悪影響を有する化学物質とされています。
追加が決定しているPCN、HCBD、PCP を加えた26 物質があり、農薬・殺虫剤、工業製品、非意図的生成物に分類されることがあります。
[※POPs条約に関する解説ページはこちらをご参照ください。]
《残留性有機汚染物質の農薬・殺虫剤》
残留性有機汚染物質のうち農薬に関するもののうち、アルドリン、クロルデン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロル、DDTは、日本では既に農薬としての登録が失効していますので、販売はできないことになっています。また、HCB、マイレックス及びトキサフェンについては登録実績がないことから、日本では製造・使用されていない状況です。
① DDTについて
DDTは、農薬、シラミなどの伝染病を引き起こす衛生害虫の駆除剤等として第二次世界大戦後に広く使用されていました。
なお、一部の国ではマラリア対策の目的で殺虫剤として現在も使用されているようです。発がん性があるとされており、生体濃縮されます。
② ディルドリン(Dieldrin)
ディルドリンは、過去に農薬、(家庭用)殺虫剤、シロアリ駆除剤等として使用されていました。
DDTもディルドリンも化審法によって製造等が禁止されています。
化学物質別の法規制について
ダイオキシンやPCBについては、「ダイオキシン類対策特別措置法」、「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理に関する特別措置法」などによって対策が講じられています。
6.農薬取締法関連情報(資料など)
農薬取締法に関する詳細を知りたい方は下記のサイト・資料をご覧ください。
- 農林水産省HP
- 農薬コーナー:https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/index.html
- 農薬取締法について:https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_kaisei/
- 農薬工業会HP
- 農薬取締法の目的と改正の歴史について:https://www.jcpa.or.jp/qa/a6_25.html
- 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)HP
以上、今回は農薬取締法について知っておきたい基礎知識を解説しました。
(日本アイアール株式会社 S・T)