3分でわかる技術の超キホン 合成燃料e-fuelとは?合成方法や課題など要点解説
目次
1.e-fuelとは
「e-fuel(イーフューエル)」とは、二酸化炭素CO2と再エネ由来の水素H2から製造される合成燃料のことです。CO2を資源化して利用する「CCUS」の手段の一つです(図1)。
e-fuelとして合成された軽油、ガソリンなどを利用することで、既存のインフラと、内燃機関など既存の機器を継続使用しながらもCO2排出量を削減できます。
e-fuelは本来、気体合成燃料と液体合成燃料を含みますが2)、液体合成燃料をe-fuelと呼ぶことが一般的です。
【図1 CCUS におけるe-fuelの位置づけ】
(経済産業省カーボンリサイクル技術ロードマップ1)から引用)
2.e-fuelの合成方法
e-fuelの基本的な合成方法は、化石燃料から合成ガス(CO,H2)を経由して各種工業原料を生成する方法と同じで、すでに実用化された技術です。
(1)メタノール経由での合成
CO2とH2からメタノールを合成し、メタノールからジメチルエーテル(DME)やガソリンなどを合成することができます(図2)。
【図2 メタノール経由でのe-fuel合成 ※参考資料1)】
メタノールを燃料として使うこともできますが、メタノールからDMEやガソリンを合成することで、幅広い用途に利用できます。DMEはディーゼル燃料として利用可能で、常温常圧下では気体ですが、LPガスと同様に加圧することで液体として貯蔵が可能です。
オキシメチレンエーテル(OME)もディーゼル燃料として利用可能で、かつ常温常圧下で液体として貯蔵可能な燃料です。OMEの合成方法は様々な方法が研究されています3)。
(2)フィッシャー・トロプシュ合成(FT合成)
FT合成は、1920年代にドイツで発見、開発された反応です(図3)。
触媒種と温度、合成ガスの組成(H2/CO比)などの条件を制御することで、軽油、ガソリンなどの液体燃料から、メタン、プロパンなどの気体燃料まで、幅広い燃料を合成できます。
FT反応では目的物質以外の副生成物の割合を減らすことが技術課題となります。
【図3 FT合成でのe-fuel合成 ※参考資料1)】
[※関連コラム:3分でわかる技術の超キホン 「FT合成」とは?はこちら]
3.e-fuelの主な課題
(1)エネルギー変換効率の向上
再エネ電力からPEEC(Polymer Electrolyte Electrolysis Cell 固体高分子水電解セル)でH2を製造した場合、e-fuel製造のエネルギー変換効率は約32%と低い試算結果が報告されています4)。
変換効率を高めるために、CO2とH2Oの共電解で合成ガスを生成する方法や、合成ガスを経由しないCO2からの直接FT合成など、革新的なe-fuel合成技術の研究開発が始まっています5)。
(2)水素の価格/再エネ電力の価格
e-fuelの価格は、原料となる再エネ由来のH2価格に強く依存します6)。
また再エネを用いた水電解でH2を製造する際のコストの大半は再エネ電力価格が占めます7)。
そのため、海外の豊富な再エネを用いて製造したH2を輸入する、あるいは海外でe-fuelを製造して輸入することも検討されています。
しかしH2製造を完全に海外に頼ることは、エネルギーセキュリティー上好ましくはありません。
国内での再エネ電源比率の向上と、再エネ余剰電力でのH2製造能力向上に向けた取組が期待されます。
(3)CO2の回収技術
e-fuelのCO2排出量削減量は、原料となるCO2をどこから回収するかに依存します(図4)。
発電所や工業プロセスから排出される化石燃料由来のCO2を回収することでCO2排出量を削減できます。
さらにCO2を大気中から回収する(Direct Air Capture 略称DAC)場合や、バイオマスからCO2を回収する場合はカーボンニュートラル化を実現できます。
将来のカーボンニュートラル社会でのe-fuel利用を目指す場合、バイオマスから得られるCO2量には限界があるため、DACによるCO2回収が必要です。
しかし、大気中から約410ppmと低濃度なCO2を回収するDACの技術ハードルは高く、現在は国のムーンショット型研究プロジェクトなどでDACの研究が進められている段階です9)。
【図4 e-fuelによるCO2排出量削減イメージ ※参考資料8)】
(4)CO2排出量カウント方法
図4-(c)から(b)に移行した場合に排出されるCO2の排出責任を、CO2を回収しe-fuelを製造した化石燃料利用者が負うのか、最終的にCO2を排出したe-fuel利用者が負うのかという、CO2排出量カウントの問題があります8)。これはCO2の分離回収とe-fuel利用のメリットに関わる重要な問題です。
CO2排出量カウントについては、e-gas(合成メタン)を対象に国内議論が始まっています10)。早期の国内ルール制定、さらには国際間でのルール合意が期待されます。
4.e-fuelの今後の動向に注目
図5は畜電池と各種e-fuelのエネルギー密度を比較したものです。
【図5 蓄電池とe-fuelのエネルギー密度比較】
e-fuelは、内燃機関等の変換効率が蓄電池の充放電効率に比べて低いことを考慮にいれても、蓄電池の数倍のエネルギー密度を有します。
e-fuelには、製造時のエネルギー変換効率が低い等の課題が残存していますが、長距離バスやトラックなど液体燃料が必要な用途におけるCO2排出量削減の有力な手段になると考えられます。
2022年9月にはe-fuelの導入促進に向けた官民協議会が設立されました11)。
e-fuelの研究開発と、関連ルール整備の加速が期待されます。
(アイアール技術者教育研究所 技術士(機械部門) T・I)
【併せて読みたい関連記事】
《引用文献・参考文献》
- 1)経済産業省 カーボンリサイクル技術ロードマップ改訂版 2021年7月
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210726007/20210726007.pdf - 2)日本機械学会 機械工学辞典「e-fuel」
https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/e-fuel - 3)細野 他「CO2原料メタノール, DME, OME合成技術」日本エネルギー学会誌えねるみくす 99(2020),344-352
- 4)石油エネルギー技術センター JPECレポートNo.220302
「CO2を原料とした液体合成燃料の開発への取り組み」2022年3月
https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2022/03/JPEC_report_No.220302.pdf - 5)国立研究開発法人産業技術総合研究所「産業技術総合研究所における合成燃料技術開発に関する取組」
第1回合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 資料12 2022年9月16日https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/pdf/001_12_00.pdf - 6)合成燃料研究会「中間取りまとめ」2021年4月22日
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/gosei_nenryo/pdf/20210422_1.pdf - 7)日本エネルギー研究所 「国内再生可能エネルギーからの水素製造の展望と課題」
水素・燃料電池戦略協議会 第2回CO2フリー水素ワーキンググループ 資料4 2016年6月22日
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy/suiso_nenryodenchi/co2free/pdf/002_04_00.pdf - 8)丸田「すれ違う日本と欧州のE-Fuel:日本のとるべき戦略」
京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座コラムNo.248(2021年6月3日)
https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0248.html - 9)内閣府 ムーンショット目標4
プロジェクト(1)温室効果ガスを回収、資源転換、無害化する技術の開発
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/project.html#a4 - 10)メタネーション推進官民協議会 CO2カウントに関するタスクフォース
「合成メタン燃焼時のCO2カウントに関する中間整理」 2022年3月
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/co2_tf/pdf/20220322_1.pdf - 11)経済産業省 合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/index.html