3分でわかる技術の超キホン ジメチルエーテル(DME)の基礎知識《特異な抽出能力に注目!》

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DME(ジメチルエーテル)の基礎知識

ジメチルエーテルDME)という化合物をご存じでしょうか?
今回のコラムでは、この化合物が持つ特異な機能を中心に解説します。

 

1.ジメチルエーテルとは?

エーテル」と言うと通常は「ジエチルエーテル」のことを指します。
そのエチル基をメチル基に置き換えた構造式を持つのが「ジメチルエーテル」(DME)です。

ジメチルエーテル(DME)は、常温・常圧では気体ですが、加圧すると容易に液化します。その点ではプロパンガスに似ています。

 

ジメチルエーテル(DME)の用途

ジメチルエーテルは主に中国で生産され、燃料として使用されています1)
また、燃料以外ではエアゾール噴射剤として使用されています2)。スプレー缶に成分として記載されているのをご覧になった方もおられると思います。

本稿で紹介するのは抽出溶剤としてのジメチルエーテルの特異な機能です。

 

2.抽出溶剤としてのジメチルエーテル(DME)の特長

本稿での「抽出」とは、内部に油分を含んでいる固形分から油分を回収することを意味します。大豆から油脂を回収する操作などが該当します。

その際の溶剤としては通常「ヘキサン」が使用されます。ヘキサンは油分溶解能が高いことに加え、抽出後に蒸留によって分離するのが容易という特性を持つ好都合な溶剤です。ただし、ヘキサンは水分を含む固形分からの抽出は不得手であるため、固形分中の水分を減らす乾燥工程が抽出の前に必要になります。

ジメチルエーテル(DME)・ジエチルエーテル・ヘキサンの3つの溶剤はいずれも油分を溶解する能力は十分な水準にありますが、水との親和性に大きな差があります。表1は沸点および水との親和性に関して3者を比較したものです。

まず、ジメチルエーテルは沸点が-25℃と低く分離が容易であることが分かります。
溶剤と水との親和性は、①水への溶剤の溶解度(水に溶ける量)、②溶剤の飽和水分量の2点で評価しています。ジメチルエーテルもジエチルエーテルも水との親和性がヘキサンよりも格段に高い水準にあります。

 

【表1 溶剤の比較(DME/ジエチルエーテル/ヘキサン)】
溶剤の比較(DME/ジエチルエーテル/ヘキサン)_沸点、水への溶解度、飽和水分量

 

さらに、ジメチルエーテルは飽和水分量が5g/100gに達しジエチルエーテルよりも高いことも分かります。

ジメチルエーテルのこの特性は、抽出においてどんな意味を持つでしょうか?

図1をご覧ください。油分と同時に水分も大量に含んでいる固形分を想定しています。
ジメチルエーテルでの抽出(以下、DME抽出)では、ヘキサンでの抽出時に必要となる乾燥という工程無しで、油と水を同時に抽出することができます。

 

ヘキサン抽出とDME抽出を比較したイメージ図
【図1 ヘキサン抽出とDME抽出を比較したイメージ図】

 

3.DME抽出の現状(報告事例など)

ジメチルエーテルを抽出溶剤として利用する技術は日本の(一財)電力中央研究所(以下、電中研)が世界に先駆けて開発したものです。重油などで汚染されていて水分が含まれる土壌から重油と水を同時に抽出することが出来る技術として報告されました3)

その後、他機関でも微細藻類等のバイオマスから未乾燥で油脂を抽出するための技術として、精力的に検討が進められています4)。図2はそのプロセスの代表的なスキームを示したものです。

 

DME抽出プロセスの代表的スキーム
【図2 DME抽出プロセスの代表的スキーム ※引用4)

 

このジメチルエーテルを用いた溶剤抽出に関しては、油分の収率がヘキサンと同等なのか、ヘキサンで抽出できる成分を全量抽出できるのかとの疑問を持たれる方もおられるかしれません。

この点については、微細藻類であるユーグレナで、A: 未乾燥(水分95%)でのDME抽出とB:乾燥後のヘキサン抽出とを比較した例があります。油分回収率は同一であり、得られた油分の分子量分布も、図3に示すように、差がなかったと報告されています5)

 

得られた油分の分子量分布の比較
【図3 得られた油分の分子量分布の比較 ※引用5)

 

4.DME抽出の技術動向・用途に注目

電中研では、10L/バッチの試作装置での検証も既に実施済みです6)
現時点ではDME抽出はまだ実用化されていませんが、その特性を十分に活かせる用途で今後採用される可能性があります。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 
★併せて読みたい関連コラム:
DME車の可能性と技術課題とは|DME燃料を自動車に使うメリット・デメリットを整理はこちら
 


《引用文献、参考文献》

  • 1) 東洋エンジニアリング株式会社(WEBサイト)
    https://www.toyo-eng.com/jp/ja/solution/dme/
  • 2) 三菱ガス化学株式会社(WEBサイト), ジメチルエーテル
    https://www.mgc.co.jp/products/nc/dimethyl-ether.html
  • 3) 一般財団法人電力中央研究所,「液化ジメチルエーテル(DME)によりさまざまな物質から効率的に油を除去する技術を開発」
    https://criepi.denken.or.jp/press/pressrelease/2008/06_04.pdf
  • 4) Qingxin Zheng etc., Advances in low-temperature extraction of natural resources using liquefied dimethyl ether, Resources Chemicals and Materials 1, 16–26 (2022)
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2772443322000010
  • 5) Kiyoshi Sakuragi etc., Oil recovery from wet Euglena gracilis by shaking with liquefied dimethyl ether, Fuel Processing Technology, 148, 184-187(2016)
  • 6) 電力中央研究所ニュース445号, 「ジメチルエーテル(DME)を用いた脱水技術を開発」
    https://criepi.denken.or.jp/koho/news/den445.pdf

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