e-fuel車の優位性と課題は?FCEV・水素エンジン車などとの比較で考える

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e-fuel車

今回のコラムでは、e-fuel車(Electrofuels:イーフューエル、再エネ利用の合成燃料)の特徴や課題について、他の環境対応車と比較しながら考えてみたいと思います。

※「e-fuel」の基礎知識については、別コラム「3分でわかる技術の超キホン 合成燃料e-fuelとは?合成方法や課題など要点解説」を併せてご参照ください。

1.環境対応車におけるLCAの考え方

地球温度化低減など、地球環境に優しい製品やシステムを評価する場合には、図1に示すように、製品やシステムのLCA(Life Cycle Assessment、ライフサイクルアセスメント)が必要です。

 

LCA(ライフサイクルアセスメント)
【図1 LCA(ライフサイクルアセスメント)】

 

e-fuel車のようにCO2低減を行う環境対応車のLCAでは、図2に示すように、大きく分けて二つの領域を評価しなければなりません。
すなわち、①車両の走行において発生するCO2の発生だけでなく、②エネルギーが車両に充填されるまでのCO2の発生の評価です。

CO2発生の二つの領域
【図2 CO2発生の二つの領域】

 

2.e-fuelの特徴・メリット

かつて、将来の石油(化石燃料)の枯渇に対応すべく代替燃料の一つとして、石油以外の様々な原料を用いた合成燃料(Synthetic fuel、シンセティックフューエル)の開発が進みました。

現在、「e-fuel」(イーフューエル)と呼ばれているのは合成燃料の一つであり、特に原料として水素と二酸化炭素を用いて生成した合成燃料です。

水素については、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電力を用いて、水を電気分解して生成した水素を用います。このような水素は「グリーン水素*1)と呼ばれています。

一方、二酸化炭素については、工場などから排出する二酸化炭素を用いる場合と、大気中から分離した二酸化炭素を用いる場合があります。

e-fuel車は、燃料の生成において、CO2を低減できますが、図2の第2領域、すなわち車両で動力を発生する際、すなわち燃焼過程では、炭化水素化合物の燃料を燃焼させCO2を発生しますので、カーボンニュートラルとされています。

 
*1)グリーン水素:グリーン水素に対して、化石燃料を用いて生成した水素はグレー水素、水素の生成は同じですが、発生する二酸化炭素の大気放出を防ぐ回収・貯留・利用機構と組み合わせたものは、ブルー水素と呼ばれます。

 

バイオ燃料のような制約が無い

カーボンニュートラルの車というと、バイオ燃料を用いた車があります。
バイオ燃料車では、光合成時にCO2を吸収した植物を原料とし、燃焼ではCO2を発生し、第1領域と第2領域のトータルでカーボンニュートラルとなります。

参考にバイオ燃料の原料と処理工程を図3に示します。

 

バイオ燃料の原料と処理工程
【図3 バイオ燃料の原料と処理工程】

 

バイオ燃料の場合には、食糧供給への影響配慮や、原料植物の可能作付け地からくる制約がありますが、e-fuelではそのような課題が有りません。

 

「硫黄分ゼロ」というメリット

e-fuelの製造過程は石油由来の燃料と異なりますが、使用過程では、従来の石油由来のガソリンや軽油と同様の燃焼を行います。ただし、原料と製造方法からくる差があります。
それは石油由来の燃料に対して硫黄分が無いことです。

従来燃料でも脱硫工程により硫黄分を低減しますが、ゼロにはできません。硫黄酸化物SOxやサルフェートなどの燃焼生成物は、腐食、触媒被毒をもたらし、PM(排出微粒子)の原因物質にもなります。
e-fuelに硫黄分が無いことは、e-fuel車の耐久信頼性設計、環境配慮設計に関して有利となります。

 

3.e-fuel車とFCEV・水素エンジン車との比較

e-fuel車の他に、水素を利用する車両としては、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle、燃料電池自動車)と水素エンジン車があります。

e-fuel車では、燃料の製造過程(図2の第1領域)で水素を使います
一方、FCEVと水素エンジン車では、車両の使用過程(図2の第2領域)で水素を使います

FCEVでは、車両タンクに充填された水素と空気中の酸素を用いて、水の電気分解の逆反応(e-fuelの原料水素の製造時と逆の反応)をさせて、発電を行い電気動力を得ます。
また、水素エンジン車では、水素を燃料として空気との混合気を燃焼させることにより動力を得ます。

e-fuel車は、車両自体が水素を直接使うわけではないので、エネルギー(燃料)が無くなった場合には、FCEVや水素エンジン車と異なり、ガソリン車など液体燃料を使う車両と同様に、e-fuelをポリタンクで車両に届けることができます。

 

4.環境対応車のCO2低減の比較

EVやFCEVも含めて、e-fuel車のCO2低減における位置付けを、CO2発生の第1領域と第2領域について、EVやFCEVなどの環境対応車と比較すると図4のようになります。

e-fuel車でのカーボンニュートラルは、燃料原料となる水素を、再生可能エネルギー(太陽光、風力)を用いた電気を使用した電気分解で生成するということを前提条件としています。

EVにおいて電気の生成過程で火力発電を用いた場合(ⅱ)、あるいはFECVや水素エンジン車において充填するための水素の生成に電気を使い、その電気を火力発電で生成している場合(ⅳ、ⅵ)には、領域1でCO2を発生しています。

 

環境対応車のCO2発生/低減比較
【図4 環境対応車のCO2発生/低減比較】

 

5.「e-fuel車」の課題《EVとの共存は出来るのか?》

e-fuel車では、水素エンジン車と同様、エンジンや後処理関係の技術の利用が可能です。
図5は、e-fuel車が、従来のエンジン車や他の環境対応車と、どのような共通技術を持っているかを示したものです。

 

技術の適用
【図5 技術の適用】

 

共通技術があるということは、これらの技術に関係する産業が継続維持できること意味します。
e-fuel車では、EVやFCEVと異なり、ガソリンスタンドはじめ液体燃料を扱う設備や、装置として従来のエンジン車に対応するものが利用できます。e-fuel車の普及のための課題は、燃料製造コスト低減の見通しです。

一方、e-fuel車を増加させることは、工場、インフラを含めEV化に大きく動くための計画に対しては逆行するものです。うまく共存するための工夫が必要になります。

ちなみにEUでは、2035年以降のエンジン車の販売を事実上禁止するという法案に対して、e-Fuel車を例外にするという提案と、それに反対する提案があり議論がされましたが、例外扱いとすることが決まりました。
EV化の動きは大きいですが、実際のEVの世界的な数量動向を考えると、どのくらいの期間がかかるは分かりません。従来エンジンを使うハイブリッド車が活躍する地域が継続すると思います。

車両の動力源の多様化を考えた時に、これまでバイオ燃料やアルコール燃料に対応してきた国々ではe-fuelという解が大きい存在価値を持つと思われます。加えて、航空機の燃料としてe-Fuelが存在感を増すようになった時には、e-fuelのコストも下がり、e-fuel車の普及も進むことが考えられます。

図6に、e-fuelを含めた、循環型水素社会の構成を示します。

 

水素社会とe-fuel
【図6 水素社会とe-fuel】

 

ある時期の多様化というのは避けて通れない道かもしれません。ただ、どのように多様化させるのか、あるいは一時的多様化なのか継続的多様化なのか等については様々な要因が絡み合うこともあり、予測するのは難しいといえるでしょう。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
 


☆e-fuelやFCV・燃料電池技術に関する特許調査・技術情報調査は日本アイアールまでご相談ください。


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