【センサのお話】磁性材料を用いたセンサを材料別に整理!《仕組み・用途など》
本コラムは磁性材料を用いたセンサに関するお話です。
磁性材料は、外部から磁場を印加すると磁化され、印加された物質の磁化のされやすさを表す比透磁率が1よりはるかに大きく、外部からの磁場をゼロにしても磁化を保持する材料です。
今回は、磁性材料を用いたセンサにおける磁性材料の役割とその仕組みを、「硬磁性材料」「軟磁性材料」「磁歪材料」「磁気抵抗材料」に分けてご紹介します。
目次
1.「硬磁性材料」を用いたセンサ
「硬磁性材料」は磁場を取り去った状態の残留磁化が大きく、その残留磁化をゼロにする磁場の大きさ、いわゆる保持力が大きい磁性材料です。
(1)方位磁石
お馴染みの「方位磁石」は、地球の磁場(地磁気)を検知し方位を示すセンサです。
地球の自転により地球内部の液体が流動し、磁場(地磁気)が発生していると考えられ、地球は北極がS極、南極がN極の大きな磁石であるといえます。
方位磁石の磁針は、磁化された「硬磁性材料(磁石)」で、当初中国で使用されていた羅針盤では天然磁石(磁気を帯びた磁鉄鉱)を針状に加工したものでした。
近世では、磁針はKS鋼(コバルト・タングステン・クロム・炭素を含む鉄の合金磁石鋼)に代わり、現代ではフェライト磁石やネオジム(Ne-Fe-B)磁石なども使用されています。
(2)磁気式エンコーダ
「エンコーダ」は、回転角や直線変位を検出するセンサです。
磁気式エンコーダで使用される「硬磁性材料」の代表的な形状は円板型(コイン型)で、円板の径方向または面方向に磁化されています。
エンコーダとして動作するために必要な磁束密度の条件を満たす「硬磁性材料」の素材を選択します。一般的には、温度特性が良好なサマコバ(SmCo)磁石、小型軽量化に向くネオジム(Ne-Fe-B)磁石、軽量なフェライト磁石が使用されます。
図1は円板の径方向に磁化された「硬磁性材料」を使用した例で、モーター軸が回転すると、軸の先端に取り付けられた「硬磁性材料」が作り出す磁場(磁力線)が回転します。
このとき、回転軸の中心付近の領域では磁場の強さが一定のまま回転するので、この磁場の変化をホールセンサ(*1)などで検知し電気信号に変換します。
(*1)ホールセンサとは:
磁場を印加すると、磁場と垂直の方向に起電力が発生する「ホール効果」を利用したセンサです。
フレミング左手の法則から、磁力線の向きによって電圧の向きが変わります。
ホール素子の材料は、インジウムアンチモン(InSb)、インジウムヒ素(InAs)、ガリウムヒ素(GaAs)など化合物半導体で磁性材料ではありません。
【図1 磁気式エンコーダ】
[※関連コラム:ホール素子の基礎知識は「ホール素子とは?」のページをご参照ください。]
2.「軟磁性材料」を用いたセンサ
「軟磁性材料」は、磁場を印加したときに磁化しやすく、磁場を取り去った状態の磁化(残留磁化)をゼロにする磁場の大きさ、保持力が小さい磁性材料です。
リードスイッチ(reed switch)
リードスイッチは、図2に示すように左右から伸びるリード(金属片)が、その先端部分がオーバーラップする位置で隙間を空けて設置され、不活性ガスが充填されたガラス管に封入されています。
リードに沿った磁場の印加がないときは(図2(a))は、電気的にオフ(開放状態)ですが、外部からリードに沿った磁場が印加されると(図2(b))、リードが磁化されオーバーラップしているリード同士が引き寄せられ接触し、電気的にオン(導通状態)になります。
リードはプレス加工されたパーマロイ(Fe-Ni合金)、Fe-Co合金などの「軟磁性材料」で、ガラス管の熱膨張係数と極力一致するように選定されています。
構造が簡単で、機械的摩擦が少なく長寿命なので、多くの分野で使用されています。
【図2 リードスイッチ】
3.「磁歪材料」を用いたセンサ
「磁歪材料」は、消磁状態から磁場を印加して磁化したときに、磁化の方向に伸縮する磁気ひずみ効果を示す材料です。
磁気ひずみ効果とは逆に、張力や圧力を加えることによって磁化の状態が変化することを「ビラリ現象」(逆磁気ひずみ効果)と呼びます。
磁気ひずみの度合いを示す磁歪定数と「磁歪材料」の寸法の関係は、次にようになります。
λs =(L-L0)/L0
ここで、λsは磁歪定数、Lは飽和磁化状態の寸法、L0は消磁状態の寸法です。
Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)などの磁歪定数は、1万分の1から100万分の1(0.01~0.0001%)です。
磁気ひずみは「磁歪材料」の原子の形状が球形でなく、ラグビーボールのような回転楕円体で、その回転軸が磁気モーメントの方向と一致しているため、磁場を印加すると結晶全体で同じ方向に伸縮して発生すると考えられています。
応力測定
図3(a)は、磁歪材料の被測定部材に作用する応力を測定する構成です。
「磁歪材料」(被測定部材)の表面にコイルを巻いたコの字形のヨークを接触させ、閉じた磁気回路を作ります。「磁歪材料」(被測定部材)に応力が加わると、逆磁気ひずみ効果により磁化状態の「磁歪材料」(被測定部材)の透磁率が変化し、磁気回路の磁気抵抗が変化しますので、これをコイルのインピーダンス変化として検出します。
例えば、被測定部材の鋼材に引張応力が作用すると、透磁率が大きくなり、コイルのインピーダンスが大きくなります。
図3(b)は、一般材料の被測定部材に作用する応力を測定する構成です。
応力センサとしての「磁歪材料」をスパッタ、蒸着法などにより非磁性基板に成膜し、被測定部材に接合し、図3(a)と同様な応力検知手段により、被測定部材に作用する応力を測定します。
「磁歪材料」の代表例は、Ni-Co合金、Ni-Fe合金、Fe-Co合金、Ni系フェライトです。
「磁歪材料」を使用した応力センサは、建築物や配管の鋼材・鋼管、各種の機械やロボットの駆動部などの応力測定に使用されています。
【図3 磁歪材料を用いた応力測定】
4.「磁気抵抗材料」を用いたセンサ
「磁気抵抗材料」は、磁場を印加すると電気抵抗が変化する「磁気抵抗効果」を示す材料です。
磁気抵抗効果には、正常磁気抵抗効果(OMR:Ordinary Magneto Resistive)、異方性磁気抵抗効果(AMR:Anisotropic Magneto Resistive)などがあります。
正常磁気抵抗効果(OMR)は、磁場の増加に伴い電気抵抗が増加する現象ですが、材料はMgなどの非磁性体ですので、今回は取り上げません。
異方性磁気抵抗効果(AMR)は、電気抵抗が磁場の印加による強磁性体の磁化の向きに依存する現象です。
異方性磁気抵抗効果の効率を表すAMR比は下式で表されます。
AMR比=(ρ//−ρ⊥)/ρ⊥
ここで、ρ// は磁化の向きが電流の方向と平行なときの抵抗率、ρ⊥は 磁化の向きが電流の方向と垂直なときの抵抗率です。
代表的な「磁気抵抗材料」は、磁場を印加した状態で固化させたパーマロイ(Fe-Ni合金)、もしくはスパッタリング、蒸着法によるパーマロイ薄膜で、そのAMR比は通常約5%程度です。
図4(a)のように磁場(磁化)の向きが電流の向きと垂直の場合、「磁気抵抗材料」の電気抵抗(ρ⊥)は小さくなり電流は流れ易くなります。
一方、図4(b)のように磁場(磁化)の向きが電流の向きと平行の場合、「磁気抵抗材料」の電気抵抗(ρ//)が大きくなり電流は流れ難くなります。
【図4 異方性磁気抵抗素子】
異方性磁気抵抗効果に関する説明は諸説あるようですが、一例として次のように考えられています。
「磁気抵抗材料」の磁化方向が電流に対して垂直な図4(a)の場合は、電子の電子軌道が電流に対して水平になり、スピンによる散乱が減少します。その結果、s軌道からd軌道へのs-d散乱(遷移)が減少し、伝導電子であるs電子の数の減少量が小さくなり電気抵抗が小さくなります。
一方、「磁気抵抗材料」の磁化方向が電流に対して平行な図4(b)場合は、電子の電子軌道が電流に対して垂直になり、スピンによる散乱が増加します。その結果、s軌道からd軌道へのs-d散乱(遷移)が増加し、伝導電子であるs電子の数の減少量が大きくなり電気抵抗が大きくなります。
異方性磁気抵抗効果(AMR)センサは、ホール素子と比較して検知範囲が広く、水平磁場を検知できるなどの特徴を活かし、移動部材の位置、回転の検知などに使用されています。
かつてハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッドに使用されていました。
5.各磁性材料を用いたセンサのまとめ(組成・用途)
今回紹介しましたセンサに使用される磁性材料の特徴、代表組成例および用途例を表1に示します。
1 | 硬磁性材料 | 保磁力が大きく永久磁石として用いられる材料 [サマコバ(SmCo)磁石、ネオジム(Ne-Fe-B)磁石、フェライト磁石] 用途例:方位磁石、磁気式エンコーダ |
2 | 軟磁性材料 | 透磁率が大きく保磁力が小さい材料 [パーマロイ(Fe-Ni合金)、Fe-Co合金] 用途例:リードスイッチ |
3 | 磁歪材料 | 磁場の印加により変形する材料 [Ni-Co合金、Ni-Fe合金、Fe-Co合金、Ni系フェライト] 用途例:応力センサ |
4 | 磁気抵抗材料 | 磁場の印加により電気抵抗が変化する材料 [パーマロイ(Fe-Ni合金)、パーマロイ薄膜] 用途例:異方性磁気抵抗効果(AMR)センサ |
【表1 磁性材料】
磁性材料を用いたセンサは低消費電力で使用することが可能で、省エネルギの観点でも注目されてきました。
今後も新たなアイデアにより、さらに高精度化・小型化が進み、より多くの分野で使用されることが期待されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)