希土類金属(レアアース) 磁性のメカニズム:強力な磁力を生む不対電子の挙動

希土類金属は、現代のハイテクノロジーに不可欠な「最強の磁石」を生み出す源泉です。なぜ希土類元素を用いると、これほどまでに強力な磁力が得られるのか。その秘密は、第1部で解説した「内側に隠れた4f軌道」と、そこに存在する「不対電子」にあります。
磁石はモーターの性能を大きく左右する中核部品で、電気自動車、飛行機、ロボットなどの産業機器から携帯電話、エアコンなどの家電用品まで幅広く利用されていますが、高性能なネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石は中国が高いシェアを占めています1)。
目次
1.磁力の源泉:4f軌道内の「不対電子」
(1) 磁性の基礎知識
磁性といえば、「鉄」を思い出す方が多いかもしれません。
実は常温で強磁性を示す元素はFe以外に、Co、Niがあります。
では、これらの元素はなぜ磁性を示すのでしょうか?
反磁性体と磁性体の違いはどこにあるのでしょうか?
電子は「スピン」(回転)という性質を持っています。
このスピンによって電子そのものが磁石としての性質を帯びています。
一般的にはスピン磁気モーメントこそが、磁性の主な源だと考えられます。
電子が回転(スピン)すると、電流の磁気作用と同じく周囲に磁場が発生します。
しかし、多くの原子では、電子対によって磁場が打ち消し合っています。
例えば、代表的な磁性体のFeと反磁性体のCuを見比べると、そのどちらも3d電子殻の収容可能電子数に達する前に4s殻に電子が入っています。
Feの場合、スピンの向きが逆符号同士の3d電子対は1組であり、残りの4個の3d電子は孤立した不対電子となって、電子の回転による磁場が発生します。ところがCuの3d軌道に不対電子がなく、逆符号同士の3d電子対が5組となって、磁場は打ち消されてしまいます(図1)。

【図1 鉄と銅のd軌道電子配置と磁性の関係】
図1と表1に示したように、ランタノイド元素の4f殻電子と5s、6s殻電子の間に同様な配置関係にあるため、不対電子が存在することになります。この4f不対電子は磁性を担う電子です。
この不対電子は、スピンの向きが同じで且つ孤立しているためにスピン磁気モーメントが生じ、近隣原子との交換相互作用および外殻電子によってある程度保護されていることとのバランスにより、強磁性を生み出しています。
(2) 多量の不対電子
ランタノイドは、4f軌道にペアを作らない「不対電子」を多く持つことができます。これら一つひとつが微小な磁石として機能するため、原子全体として非常に大きな「磁気モーメント(磁力のもと)」を発生させます。
表1に示したM3+イオン外殻の4f電子数に関して、赤色表示したのは不対電子がゼロ、あるいは完全にペアを組んで安定しているため、磁力が発生しません。
(3) 「産業のビタミン」
なぜ「ビタミン」と呼ばれるのでしょうか?
少量添加するだけで劇的に特性が変わるためです。例えば、鉄(Fe)やコバルト(Co)といった遷移金属も磁性を持ちますが、希土類元素を添加することで、その磁気特性を飛躍的に向上させることができます。
【表1 希土類元素の電子配置、原子価及び半径と色。赤:非磁性】
| 原子番号 | 元素記号 | 原子量 | 原子の電子配置 | M3+イオンの電子配置 | 原子価 | 原子半径(pm) | M3+半径(6配位)(pm) | M3+塩の水溶液の色 |
| 21 | Sc | 44.97 | 3d14s2 | 3d0 | +3 | 163 | 088 | 無色 |
| 39 | Y | 88.92 | 4d15s2 | 4d0 | +3 | 178 | 104 | 無色 |
| 57 | La | 138.92 | 5d16s2 | 4f0 | +3 | 187 | 117 | 無色 |
| 58 | Ce | 140.13 | 4f15d16s2 | 4f1 | +3, +4 | 183 | 115 | 無色 |
| 59 | Pr | 140.92 | 4f36s2 | 4f2 | +3, +4 | 182 | 113 | 緑 |
| 60 | Nd | 144.27 | 4f46s2 | 4f3 | +2, +3, +4 | 181 | 112 | 赤紫 |
| 61 | Pm | 147.00 | 4f56s2 | 4f4 | +3 | 180 | 111 | 淡赤 |
| 62 | Sm | 150.35 | 4f66s2 | 4f5 | +2, +3 | 179 | 110 | 淡黄 |
| 63 | Eu | 152.00 | 4f76s2 | 4f6 | +2, +3 | 198 | 109 | 無色 |
| 64 | Gd | 157.26 | 4f75d16s2 | 4f7 | +3 | 179 | 108 | 無色 |
| 65 | Tb | 158.93 | 4f96s2 | 4f8 | +3, +4 | 176 | 106 | 無色 |
| 66 | Dy | 162.51 | 4f106s2 | 4f9 | +2, +3, +4 | 175 | 105 | 黄 |
| 67 | Ho | 164.94 | 4f116s2 | 4f10 | +3 | 174 | 104 | 淡黄 |
| 68 | Er | 167.27 | 4f126s2 | 4f11 | +3 | 173 | 103 | 桃色 |
| 69 | Tm | 168.94 | 4f136s2 | 4f12 | +2, +3 | 172 | 102 | 淡緑 |
| 70 | Yb | 173.04 | 4f146s2 | 4f13 | +2, +3 | 194 | 101 | 無色 |
| 71 | Lu | 174.99 | 4f145d16s2 | 4f14 | +3 | 172 | 100 | 無色 |
2.強力な保持力の秘密:4f遮蔽効果と結晶場
希土類磁石(ネオジム磁石など)が「最強」とされる最大の理由は、磁力の強さだけでなく、「磁化の向きにくさ(高い保磁力)」にあります。
(1) 4f軌道の遮蔽効果
4f軌道は外側の5s、5p軌道によって遮蔽されているため、外部の電磁気的な干渉を受けにくく、特定の方向に磁気の向きを固定する力が非常に強くなります。これを「大きな結晶磁気異方性」と呼びます。
(2) 高温下での安定性
重希土類であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を添加するのは、この保磁力を高め、EVのモーターなどの高温環境下でも磁力が失われないようにするためです。
3.磁性体の種類
磁性体は、外部磁場に対してどのように反応するか、また内部のスピン(電子の回転に由来する微小な磁石)がどのように並ぶかによって、主に以下の5つのタイプに分類されます(表2、図2))。
【表2 磁性体の主要な分類】
| 分類 | スピンの状態 (外部磁場なし) |
外部磁場への反応 | 代表的な物質 |
| 強磁性体 | 同じ方向に揃っている | 強く引きつけられ、磁場を除いても磁化が残る(永久磁石) | 鉄 (Fe)、コバルト (Co)、ニッケル (Ni) |
| 常磁性体 | バラバラな方向を向いている | 磁場と同じ方向に弱く磁化されるが、磁場を除くと磁化が消える | アルミニウム、酸素、希土類イオンの一部 |
| 反磁性体 | スピンが打ち消し合っている | 磁場と逆方向に極めて弱く磁化され、磁石にわずかに反発する | 銅 (Cu) 、水、金 |
| 反強磁性体 | 隣り合うスピンが逆向きに並ぶ | 全体として磁気モーメントが打ち消され、磁性を示さない | 酸化マンガン、酸化ニッケル |
| フェリ磁性体 | 逆向きのスピンが交互に並ぶが、大きさが異なる | 打ち消しきれない磁気が残り、強磁性と似た性質を示す | フェライト(酸化鉄系磁性体) |

【図2 物質の磁気双極子の並び方:a) 強磁性体 b)反強磁性体】
希土類(レアアース)を用いた磁石は、この分類の中で「強磁性」の性質を極限まで高めたものです。
- 最強の磁石の仕組み
希土類元素は4f軌道に多くの「不対電子」を持っており、これらが強力な磁気モーメントの源泉となります。 - 保磁力の向上
特にネオジム磁石(Nd-Fe-B)は、4f軌道の遮蔽効果により外部干渉を受けにくく、磁化の向きを固定する力(保磁力)が非常に強いのが特徴です 。 - 添加剤としての役割
ジスプロシウム (Dy) やテルビウム (Tb) などの重希土類を添加することで、高温環境下でもこの強磁性を維持できるようになります。
4.希土類永久磁石
永久磁石は、まったくエネルギーを消費することなく安定した磁界を発生し続けることができる不思議な材料です。電化製品をはじめ、あらゆる方面に幅広く使用されています。
最強の磁石:ネオジム磁石(Nd-Fe-B)の構造
- ネオジム磁石(Nd-Fe-B): ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする、現時点で世界最強の磁石です。小型で強力なため、スマホのバイブレーターからEVの駆動モーターまで幅広く採用されています。
- 「サマリウムコバルト(サマコバ)磁石」(Sm-Co): サマリウムとコバルトを使用。ネオジム磁石より磁力はやや劣りますが、耐熱性と耐食性に優れ、宇宙航空分野や軍事技術で重宝されます。
- 重希土類(Dy, Tb)の重要性:ネオジム磁石に少量のジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を添加することで、高温時の「保磁力」を劇的に向上させます。これらは第1部で触れた「希少価値の高い重希土類」の代表格です。
[※関連記事:主な希土類磁石と金属合金磁石 [サマコバ磁石,ネオジム磁石,アルニコ磁石] はこちら]
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
《参考文献》
- 1) 経済産業省 「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」

































