CFD(Computational Fluid Dynamics)ってどんなもの?《実例でわかりやすく解説》

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構造計画研究所流体力学入門セミナー

製造業の現場でもDXが叫ばれる昨今、皆さまは設計にどのようにコンピューターシミュレーションを取り入れていらっしゃいますか?

シミュレーションは、高い性能のソフトもPCの能力向上で気軽に使えるようになった分、便利で製品安全を担保するため欠かせないものとなった反面、慣れないと陥りがちな落とし穴もたくさんあります。職場で実践経験豊富な先輩がいればヒントを聞くこともできるかもしれませんが、たいていそういう方は忙しいもの。

今回は、株式会社構造計画研究所様のご協力をいただき、シミュレーションを使った設計の経験が浅い方、なかなか職場で指導を得ることが難しい方に向けて、SBD(Simulation Based Design、シミュレーションに基づく設計)、とくにCFDComputational Fluid Dynamics数値流体力学)の実例の一コマを切り取ってみました。

シミュレーションソフトのチュートリアルだけでは身につかないシミュレーションのカンやコツ、プロの視点を紹介しますので、どんどん技を盗んで使いこなしてみてください!
 

ファンの実物や正確なスペックが手元にないとき、ファンの気流モデルをどう作る?

ファンの気流

あなたが上図のイメージようなファンをメーカーから購入し、ある装置に組み入れて冷却を行うシステムを設計していると仮定します。
しかし、装置内の気流を可視化することで冷却の効率を考えたいので、CFDでファンを含む装置の3Dモデルを作ってシミュレートすることにしました。

このとき、ファンの気流はどのように定義すればよいのでしょうか?

ファンにかき回された気流は渦を巻くので、システム上では簡易的に、ファンを設置する部分に旋回流が生じていると考えます
シミュレーターの画面では、境界条件(シミュレーションモデル上、流体が流入してくる条件、流出していく条件など)にこの旋回流の動きを設定することになります。今回の例で使用しているシミュレーターでは、旋回流は気流の円周速度と半径方向速度として設定することになっていると仮定します。

 

《カタログに掲載された値から算出してみる》

ファン実物はまだ手元になく、すぐに三次元測定機を使ったリバースエンジニアリングができるような状態ではありません。また、ファンの翼角度などは一種の企業秘密なので、実物の3Dデータをオンラインで入手することも絶望的です。
しかし、カタログ値から考えられるおおよその値を使って、このファンの生み出す気流の円周速度と半径方向速度の当たりをつけ、それらしい風量のモデルを作りたいところです。

ファンのメーカーが出しているカタログ(下表、抜粋)の中のどれかを使えば算出できるのでしょうか?
回転速度が記載されていたので、この値を使えばよいのでしょうか?
 

[ある製品のカタログに記載されていた値]
ファン外形 40mm☓40mm☓28mm
回転速度(r/min) 定格8700 (3000~20000)
最大風量(m^3/min) 0.74
最大静圧(Pa) 652

試しにこの「回転速度8700RPM」を、回転するファンの羽根先端の回転速度(周速18.2m/s)に換算して円周方向速度として入力してみると、思ったよりも強い流れになってしまいました。

本当は、このカタログ値に加え、羽根車の翼の角度が分かっていれば、今回展開する方法とは異なる確立した方法 でより正確な流速を計算することもできるのですが、その場合でも得られる値は軸分速度と旋回成分で、半径方向速度は無視できるくらい小さくなってしまい、そもそも円周方向速度は求めることができません。

実物がない、3Dデータもとれない、計算法もない、あるのはカタログ値のみの状態で、ファンの簡易モデルを作るため、既存のソフトに必要な気流の円周速度と半径方向速度はどのように設定したらよいのでしょうか?

皆さんが同じような条件でファンの気流のCFDを行うときに、境界条件として使える値を求めるためにどのような考え方をしたらよいのでしょうか?

 

ファンの羽根車の回転速度と気流の円周速度の関係をCFDで考えてみた

ここでは、せっかくあるCFDという道具を使って、ありあわせの手段でもっともらしい値を導ける筋道を作ってみるべきかもしれません。
CFDによる解析の現場では、既存の理論の組み合わせで、自分で道を開くことも重要になってきます。
まずは、気流の回転速度をどのように求めたらよいか、考えてみましょう。

物体が移動すると、それに接する流体も一緒に移動します。
一般的に、物体の移動方向に平行な面の近くでは、流体は移動する物体と同じ速度で動きます。
しかし、物体から離れるにつれ、流体の粘性等の問題で速度が遅くなり、さらに離れた位置では速度が0になります(クエット流)。

物体表面付近における流体の速度分布(クエット流の場合)
[物体表面付近における流体の速度分布(クエット流の場合)]

 

ファンの羽根車の回転の場合は、カーブした羽(翼)の面と移動方向は平行ではなく角度がついていますので、厳密にはこれと全く同じではありませんが、ある程度これと似た状況になります。つまり、羽の回転速度(円周速度)よりも、羽が動かす気流の円周速度が、はるかに小さくなるはずです。

ファンの羽先端における気流の円周速度分布イメージ
[ファンの羽先端における気流の円周速度分布イメージ]

 

《羽が動かす気流の円周速度を解析してみる》

この考えに基づいて、羽が動かす気流の円周速度がどの程度まで小さくなるかを解析してみました。
なお、ここで示す結果は1つのモデルによる結果ですので、一般的な方法(*)で求められる値と全く同じではありませんのでご注意ください。あくまでも確立した式を利用できない場合に、解析の現場でとられる1つの例としてお考えください。

[(*)ファンに関する解説は「軸流ファンの基本を理解してCFDを徹底活用!」のページもご参照ください。]
 

まずは3次元CADデータをファンメーカー様のWebからダウンロードしました。
これで翼角度もわかればなおさらよかったのですが、そこはさすがに企業秘密です。
羽の形状は平たく変更されていたのですが、あくまでも例として、このファンとファンケースの3DデータをCFD中で配置したモデルを作成し、ファンケースの中でこのファンを回転させ、気流の円周速度を測定してみることにしました。

この羽の3Dデータは実物と異なり、回転軸と並行な方向に羽が並ぶ、まるで歯車のような形になっていたものの 、羽の近傍(羽端面から5mm離れた位置)と、より羽端面から離れたファンケース前面近傍(羽端面から15mm離れた位置、ファンケースから2.7mm)で評価しました。

結果として 、羽の端面近傍では気流の円周速度が羽の円周速度の1/2程度、ファンケース前面の近くでは1/7程度になることが分かりました。
つまり、この場合のCFDの境界条件に使用する気流の円周速度としては、カタログから計算してわかる羽の回転速度(円周速度)の1/2~1/7程度の値を入力すればよいのです。

評価に用いた羽端面からの距離のイメージ
[評価に用いた羽端面からの距離のイメージ]

 

当然ながら、ファンは回転数を変更して運転することもできます。
ですから、先ほど導いた1/2~1/7という比が、ファンの回転数が変化しても適用できるものであるかも評価することにしました。

結果は以下のグラフのようになりました。

ファンの羽端面から特定の距離にある気流の円周方向速度と、ファンの回転数の関係
[ファンの羽端面から特定の距離にある気流の円周方向速度とファンの回転数との関係]

 

このように、回転数を変化させた場合でも気流の円周速度は線形で変化し、ファンの羽の円周速度との比率は変化しませんでした。
したがって、この気流の円周速度が1/2~1/7という結果は、同じファンであれば回転数を変えて使用しても適用することができそうです。
 

気流の半径方向速度もどのようにCFDで導けばよいのか?

旋回流の境界条件設定のために明らかにすべき、残る1つのパラメータは半径方向速度です。
これも先ほどと同じファンのモデルを使って評価することにしました。
ここで求める半径方向速度とは、下図中、ある点での気流が広がる速度を示す青色ベクトルを、ファンの回転半径方向に分解してできる、黒色ベクトルの大きさを求めるということです。

ファンから出る気流の広がる速度と半径方向速度の関係
[ファンから出る気流の広がる速度と半径方向速度の関係]

 

結果は以下のグラフのようになりました。
ここに示したように、ある点における半径方向速度についても、ファンの回転数に対して線形関係になっていました。
また、青色ベクトルで示される気流の広がりの角度は、軸方向に対して10~20度となっていました。


[ファンの回転数と半径方向速度]

 

ファンの3Dデータを使ったモデルで、ファンの気流の円周速度も半径方向速度も推定することができました。また、これらはファンの回転数に応じて変化することもできました。
どうしてもファン実物が入手できない場合、CFDの境界条件設定には、さしあたってはこうして得られる円周速度と半径方向速度を用いればよいでしょう。

また、今回は平面のファンとそのファンケースを使いましたが、もし実物のファンとファンケースの精密な3Dデータを使えれば、より正確な値を得られることはいうまでもありません。

 

「これがないからできない」ではなく「どうしたらそれができるか」を考える!

今回は、ないないづくしの条件の中で、わずかな手がかりをもとに、CFDの境界条件を設定する方法を考えました。その解決方法は、本来ならば別の計算式を使って解くべきかもしれませんが、ここでは独自モデルによって導きました。
「どうしたらそのようにできるか」を考えていくプロセスは、機械設計のプロセスにも似たエキサイティングなものともいえるでしょう。

このように、CFDを十分に使いこなすには、流体力学の知識を用いた創意工夫が必要です。

流体力学の知識を少しずつ身につけていくことはもちろん、それらをどのように応用したらよいのかというセンスを、経験者から少しずつ学び取っていくということも大事かもしれませんね。
 

(株式会社構造計画研究所)
[編集:アイアール技術者教育研究所]
 

構造計画研究所

 

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