【CFD 流体解析を学ぶ】軸流ファンの基本を理解してCFDを徹底活用!

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軸流ファン

近年、PCの高スペック化に伴い、装置内部の流体の流れをコンピュータで解析する「CFD」(Computational Fluid Dynamics、数値流体力学)が手軽に行えるようになってきました。

このページをご覧の方にも、自社内でCFDソフトを使用されている方、またはこれからCFDソフトを導入しようという方が多いのではないでしょうか。
また、そんな皆さんの中には、購入品のファンが作り出す気流が設計中の装置内でどのような挙動をするかをCFDで調べたい、という目的の方もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回は、活躍の場が多いにもかかわらず、意外に専門的なことを習うチャンスの少ない購入品のファン、特に電子機器への採用で主流と考えられる軸流ファンをCFDで初めて扱う方向けに、そもそもファンとはいかなるものなのか、ということから軸流ファンへの理解を深めて頂きます。

1.流体機械の分類

水、油、空気、ガスなどの流体を扱う流体機械には、外部から仕事を加えて中を流れる流体にエネルギーを与えるものと、中を流れる流体のエネルギーを外部へ仕事として取り出す働きをするものとがあります。
前者には、ポンプ、送風機、圧縮機(コンプレッサ)などがあります。
後者には、水車、タービンなどがあります。
 

2.空気機械の分類(ターボ形/容積形)

ファン、送風機、圧縮機、は空気や各種ガス、つまり気体を扱う機械ですが、取扱気体を空気に代表させて「空気機械」と呼びます。以降、流れる流体をすべて「空気」と表現することにします。
空気機械は大きく分けて、「ターボ形」と「容積形」に分類されます。

「ターボ形」は、軸に取り付けられた羽根車の回転による遠心力または揚力を利用し空気にエネルギーを与えるものです。したがって、今回の主役である軸流ファンはターボ形に分類されます。

「容積形」は、空間体積の減少による圧縮作用により空気に圧力エネルギーを与えるもので、往復運動を利用する「往復式」と、回転運動を利用する「回転式」とがあります。
往復式はシリンダの中をピストンが往復することで連続的に空気を押して圧力を高めて送り出します。回転式は、まゆ型ロータ(ルーツ)やネジ(スクリュー)の回転により空間体積を減少させることで、連続的に空気を押して圧力を高めて送り出す構造のものです。
 

3.圧力による空気機械の区分(ファン/ブロア/圧縮機)

空気機械は、作り出す圧力によって、次のように呼び名が分類されます。

  • ファン(Fan): 圧力上昇 10kPa以下(圧縮比1.1以下)
  • ブロア(Blower): 圧力上昇 10kPa~100kPa(圧縮比1.1~2.0)
  • 圧縮機(Compressor): 圧力上昇 100kPa以上(圧縮比2以上)

ファンとブロアを総じて「送風機」といいます。

圧縮比が高いブロアや圧縮機の場合には、圧縮性の影響(圧縮により同一の質量流量に対して体積流量は入口から出口にかけて変化します)を考慮する必要があります。
ファンの場合には圧縮性を考慮する必要はありません。
 

4.ターボ形空気機械の分類(遠心/軸流)

ターボ形空気機械には、羽根車の形状により「遠心」と「軸流」の2つがあります。
ファンであれば、それぞれ「遠心ファン」「軸流ファン」と呼びます。

遠心ファンは、回転軸方向から吸い込んだ空気を軸直角方向(遠心方向)に吐き出す形式のものです。

遠心ファン
[遠心ファンの例]

 

軸流ファンは、吸込み、吐出しともに空気の流れは回転軸の方向と平行で、円筒状のケーシングの中を空気が流れていきます。

軸流ファン
[軸流ファンの例]

PCなどの電子機器に内蔵されているファンは、コンパクトでも比較的大きな流量を作り出せるこの軸流ファンが主流です。
軸流ファンの羽根車を模式的に表すと図1のようになります。

軸流ファンの構造
【図1 軸流ファンの構造模式図】

軸流ファンの羽根車は、軸とともに回転する羽根車(動翼)と、ケーシングに固定されていて回転しない静翼との組合せからなります。
動翼から出た空気の流れは、羽根車の回転方向に旋回していて、かつ余分な速度エネルギーを有しています。
静翼を通すことにより、軸に平行な流れに戻すとともに、流れを減速させることにより速度エネルギーの一部を圧力エネルギーに変換します。

したがって、風量のみを要求する扇風機や換気扇を除き、軸流ファンには静翼が必要になります。

CFDも動翼と静翼の組合せで行うことで、より正確なシミュレーションを行うことができます
 

5.ターボ式空気機械の昇圧原理

ターボ式空気機械は、配管やフィルタ、ダンパなどを通して空気を流す際に生じる圧力損失に見合うだけの圧力上昇を空気に与えるものです。下図を見ながら羽根車の昇圧原理について考えてみます。

ターボ形流体機械の羽根車
【図2 ターボ形流体機械の羽根車】

 

速度三角形

羽根車出口半径をr2、角速度をω(オメガ)とすれば、羽根車翼出口端で、周方向速度成分(周速) u2=r2ω を持ちます。
羽根車の翼(図中緑色の羽根翼)を正面から見たとき、翼曲線の出口が周方向接線となす角度を羽根翼角度βと定義します。羽根車を通過する流体は翼曲面に沿って流れ、β方向の速度成分を持ちます。これを相対速度w2と定義します。

羽根車自体は出口周速u2で回転しているので、実際の出口流れ速度(絶対速度)をv2とすれば、v2は、u2ベクトルとu2に対してβの角度をなすw2ベクトルとの合成となり、図3のような三角形が構成されます。これを「速度三角形」といいます。

速度三角形
【図3 速度三角形】

 

オイラーの式

羽根車出口に2、入口に1の添字をつけて表すことにします。

相対速度と周速のなす角を出口側β2、入口側β1とします。
絶対速度と周速のなす角を出口側、入口側でそれぞれα2,α1とします。
絶対速度の周方向成分に添字uをつけて表すことにします。

角運動量の法則より、空気が羽根車を通過する間の角運動量の変化は、空気に与えられたトルクTに等しくなります。

流体の密度をρ、流量をQとすれば
 T=ρQ(r2v2cosα2-r1v1cosα1)= ρQ(r2vu2-r1vu1)  ・・・(1)
角速度ωとすれば周速 u=rω ですから、(1)式より
 P=Tω=ρQ(u2vu2-u1vu1)  ・・・(2)
(2)式は、流量Qの空気に与えられる仕事を表します。単位質量当りで表せば、次のようになります。
 Hth =Tω/ρgQ=1/g x (u2vu2-u1vu1)   ・・・(3)

(3)式は、損失が全くないとした場合に羽根車が出し得る理論揚程(圧力を長さの単位に換算した値)を表し「オイラーの式」と呼ばれます。 Hthを「オイラーヘッド」といいます。

ここで、速度三角形から、余弦定理によって
 uvu=uvcosα=(u2+v2-w2)/2  ・・・(4)
の関係が成り立ちます。

(4)式を用いて、オイラーの式を書き替えると
 Hth =(v22-v12)/2g+(u22-u12)/2g+(w12-w22)/2g  ・・・(5)
となります。

(5)式の第1項は、速度エネルギーの増加(絶対速度の増加)を、第2項と第3項は、圧力エネルギーの増加を表しています。圧力エネルギーのうち第2項は、遠心力による効果、第3項は減速効果(デイフューザ)による圧力増加ということになります。3つの速度成分のうち、相対速度のみは、羽根入口側の方が、羽根出口側より大きくなります。
 

軸流ファンの周速と絶対速度

軸流ファンの場合は、羽根車入口、出口で羽根車半径が等しいので u2=u1
したがって、(5)式は
Hth =(v22-v12)/2g+(w12-w22)/2g  ・・・(6)
 となります。

すなわち、軸流ファンは遠心力ではなく、相対速度の減速によって生じる揚力により空気に圧力エネルギーを与えるものです。
(6)式右辺の第1項は、絶対速度が増加することを示していますが、増加した速度は、静翼を通過することで減速して速度エネルギーの一部が圧力(静圧)に回復します。

速度三角形で、周速u2は羽根車の回転速度に依存する翼の円周方向の移動速度のことです。
例えば、カタログに羽根車直径を250[mm]、回転速度を2800[min-1]と記載されていたとすると、この軸流ファンの翼先端(チップといいます)周速u2=36.7[m/s] となります。

ここで、羽根車を通過する気流の速度、すなわち絶対速度は、流量と羽根車翼間の通過面積で決まってきます。翼間通過面積は、軸流ファンの設計により決定されます。
もしCFDに入力するパラメータとして絶対速度を求めるには、流量と翼形状データが必要となります。このとき気流の速度(絶対速度)は、羽根車回転速度(周速)とは異なりますので注意が必要です。
また、上述した値の関係性から、通常、周速よりも絶対速度はかなり小さな値となります。
 

揚力と抗力

羽根車の入口から出口にかけて相対速度を減速させるため、一般に羽根翼角度は出口側β2が入り口側β1より大きくなります。
このような形の羽根車が回転して空気に圧力を与えることで、羽根車の翼にはある力が働きます。
下図のように、物体が相対流速Uで流体中に置かれるとき、物体には力Rが作用します。Rを流れの方向成分のDと、流れに垂直な方向成分Lに分解したときはたらく力のうち、Dを抗力Lを揚力といいます。主流中の相対速度をU,流体の密度をρ、物体の代表面積をAとしたとき、抗力、揚力は次式で与えられます。
 抗力D=CDAρU2/2   ・・・(7)
 揚力L= CLAρU2/2  ・・・(8)
CD, CLは、それぞれ抗力係数、揚力係数とよばれる無次元数です。

揚力と抗力
【図4 揚力と抗力のイメージ】

 

なるべく少ない動力で大きな圧力(揚程)を得られる(高効率)ようにするためには、揚力が大きく、抗力が小さくなるように、羽根車の翼型および配列を設計する必要があります。
配列とは翼の傾き角(迎え角)、ピッチ(翼枚数)、ソリディテイ(翼の長さℓとピッチsの比)などの諸元(スペック)のことを指します。翼角度やこれらの諸元は流体機械メーカの重要なノウハウですから、カタログなどで値が公開されていないことが一般的です。
 

CFDを活用して最適な翼形状を求める

図5のように、軸流ファンの羽根車の翼は、正面から見たとき回転軸側の付根部(ボス)から先端(チップ)まで展開しています。ボスからチップにかけて、周速、絶対速度は半径の関数となって変化しますので、翼の断面形状もボスからチップにかけて変化する3次元形状になります。
かつては経験に基づく係数から翼形状を設計していましたが、近年は、CFD技術の発達により、効率の良い(効揚比が小さい)最適な翼形状を解析で求めることが可能となってきています。

軸流ファンの羽根車

また既存の羽根車の形状を3次元計測して翼型形状を読み取ることにより、性能解析を行うことも可能となってきています(リバースエンジニアリング。ただし商品としてのコピー品を作るなどの目的でリバースエンジニアリングを行うと違法となることがありますのでご注意ください)。
 

6.ファン設計とCFD

ここまでは購入品のファンの性能を見るうえでのポイントを解説しましたが、最後に自分がファンを設計する立場という方にとってのポイントについて触れます。

流体機械に求められる基本機能は、流量とヘッドです。
ヘッドとは流体機械が作り出す圧力を、圧力計の液柱の高さに換算した値です。
流体機械の精密なCFDを行う際は、羽根車の諸元や回転速度の他に、この流量とヘッドという2つの基本機能が重要となります。
同じ流量とヘッドを生み出すために損失が少ないほど有利(高効率)となります。

翼間の2次流れや渦による損失が最も少なくなるような形状となるように、流れをCFDで可視化して性能評価するようにすることも重要です。
今回は軸流ファンですから、高効率化のためにケーシング側で重要となる要素は静翼の形状です。
遠心ファンの場合には、さらにケーシング流路形状も重要な要素となってきます。

解析対象となる流体機械の形式に応じて、性能を左右する要素を適切に取り入れて解析する必要があります。

 

ということで、今回はCFDソフトを正しく使いこなすための前提知識の解説として、軸流ファンをとり上げてみました。流体機械に関する基本的な原理について理解した上で、CFD技術を活用することが重要です!

次回は、軸流ファンを使った系でCFD解析をするまでの準備の流れを中心に解説いたします。

 

(アイアール技術者教育研究所 S・Y)
 


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