開発評価時の知見を設計図面に反映することを忘れるべからず(技術者べからず集)
製品の製造において使用する各種ドキュメントの中に、設計図と工程図があります。
どのような内容を、設計図に、どのような内容を工程図に書くべきでしょうか?
‘仕様’は設計図へ、‘作り方’は工程図へ、でしょうか?
工程図面では、生産技術者が、品質、コストに対して最適な機械、工具、及び工法を考え、工程を検討して作成します。結果的に同じ形状、特性になるならば、どのように作るかは、生産技術者のテリトリーです。
しかしながら、単純に、作り方(工法&工程)は工程図へというわけにはいきません。
設計図は、‘ここに記載した内容以外は、自由にして良いですよ’という、自由度を工程設計者に与えるものです。逆に言えば、自由にしてはならない内容は、全て設計図に記載しなければなりません。
場合によっては、工法、工程、検査方法までに踏み込まなければならない場合もあります。
事例1:加工面粗さ
金属接触部の振動や摺動に対する耐摩耗性は、接触面の粗さの大きさのみではなく、加工模様(ツールマーク)の影響を受けます。
この影響感度が、評価によって無視できないレベルだとわかった場合は設計図に加工方法を規定しておかなければなりません。
粗さが同じRz1でも、平行な加工模様と、綾目の加工模様とでは接触面の油の保持性が異なり、摩耗が異なります。
設計図で、Rz1とだけ規定してあり、試作時は綾目で、量産時または量産後の変更で平行目になってしまった場合には、達成されたはずの開発耐久性が損なわれる可能性が有ります。
事例2:熱処理
通常、浸炭処理に関して、設計図面に記載する場合、”焼き入れ、焼き戻し、浸炭処理、硬度、浸炭深さ”を記載します。記載項目以外は、熱処理工程設計者にお任せとなります。
一方、この熱処理工程における焼き入れ方法が、シングルクエンチングとダブルクエンチングのどちらかであるかによって、硬度は同じでも表面組織が変わります。(例えばマルテンサイト組織の割合)
この差は、耐摩耗性に影響を及ぼします。
製品ライフにおいて、性能劣化を、x%以下にするため、ある機能部品の接触部の摩耗をxミクロン以下にしなければならず、開発時にダブルクエンチング品を使用して、やっと開発目標を満足したのに、いつの間にか熱処理工程がシングルクエンチングに変更されていると、開発時とは異なる信頼性品質になってしまいます。
事例3:製造メーカ変更
コストダウンや海外現地化などの時に、内製品を外製品にしたり、サプライヤの変更を行う場合があります。
この際、新規サプライヤは、設計図面を基準に工程を設計します。当然、コストミニマム、保有設備の最大限利用を考えた工程設計をします。
事例1や事例2において、加工方法やヒートサイクルが設計図で指定されていなければ、開発時と変化し、耐久信頼性も変化する可能性があります。
上記の事例でもわかるように、開発時の評価試作品と評価結果を繋げるための特性に関わる項目には、自由度を与えてはならず、忘れずに設計図面に反映しておかなければなりません。
設計図は、開発者の思いを伝える手段です。心を込めて記載内容を吟味しましょう。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)