【設計開発のツボ】公差計算のやり方
目次
1.公差計算とは
組み合わさった複数の部品からなるAssy品を想定します。個々の部品には決められた寸法ばらつきがあり、これを「寸法公差」といいます。Assy品の寸法は個々の部品のばらつきによりばらつくことになります。Assyの寸法公差を見積る手法が「公差計算」といいます。公差計算は寸法だけでなく品質規格値などにも適用可能です。
2.公差計算の種類
代表的な公差計算には①単純累積 ②二乗公差 ③矩形公差 があげられます。各手法は統計的な考え方により実施されます。
例えば図1のように、AssyがA,B,Cの3点の長さの部品からなり、それぞれの公差が±a,±b,±c であったとき、全長の平均Lと公差±l を求めることとします。
【図1 全長の平均Lと公差±l 】
(1)単純累積
単純累積では 全長L±l としたとき、L =(A+B+C)、 l =±(a+b+c) となります。
部品点数が少ない場合はこれでもいいですが、部品点数が多くなってくると全長の公差は大きくなり、機能を満たすためには逆に各部品の寸法公差を厳しくしなければならなくなります。単純累積で計算した公差をはみ出る不良の確率はゼロですが、過剰品質となりコストアップになりがちです。そこで分布の考え方をします。
(2)二乗公差(正規分布累積法)
二乗公差は各構成部品が正規分布しているものに適用できます(図2)。
各部品が例えば切削で作られるのであれば、狙い値に対し正規分布するばらつきをもっていることが一般的です。部品A、B、Cの正規分布の平均値をxA、xB、xC、分散をV(x)、V(y)、V(z)とするとASSYの平均値x、分散V はともに加法性がありますので、
平均値 x = xA+xB+xC
分散 V= V(x)+V(y)+V(z)
ASSYおよび部品A、B、Cの各標準偏差をσ、σA 、σB、σC 、とすると、分散=標準偏差の2乗であるので
標準偏差 σ2=σA2+σB2+σC2
が成り立ちます。
ASSYおよび部品A、B、Cの上下限公差を3σ(±3σならば片側危険率0.15%、または4σの場合でも同様)ととらえれば標準偏差3σは
(3σ)2=(3σA)2+(3σB)2+(3σC)2
とかけるので
と考えることができます。つまり各部品の公差を守る確率はASSY後も同じ確率で公差を守ることができます。したがって
と計算できます。
この公差を外れる確率は各部品が公差を外れる確率と同じとなります。
【図2 それぞれの正規分布】
(3)矩形公差(矩形分布累積法)
しかし各部品の工程能力がなく検査によって合格品のみ納入されるような場合や切削加工で刃具が摩耗したら研磨し直す、といった場合は正規分布ではなくなります。各公差域での分布確率は一様であると考え、その場合の合計を計算することになります。図3に示すように、矩形公差同士の合計は正規分布にはなりませんがN数が増えれば正規分布に近づいていきます。
【図3 矩形公差の場合】
・関連寸法N個の各寸法公差が±ai(i=1,2,・・・,N)の場合、これらの部品の組付けによる累積公差Tは以下で与えられます。
棄却水準0.3%の修正係数を表1に示します。
【表1 棄却水準0.3%の修正係数】
代表的な公差計算である ①単純累積 ②二乗公差 ③矩形公差を例題で演習してみましょう。
【例題】公差計算 ①単純累積 ②二乗公差 ③矩形公差
《 問題 》
以下の部品を組付けたとき、すき間は確保できるか検討せよ
《 解答 》
《 例題の解説 》
4.最後に・・使用上の注意
単純累積で計算した公差域を超えるのは0%ですが、二乗公差、矩形公差は棄却率確率でNGが発生することになります。NGが発生した場合の影響についてFMEAなどでリスクを検討し、厳しさに応じた処置を決める必要があります。軽微な影響であれば放置でもよいが、重大事故につながる場合は出荷検査でNG流出防止するなどの対処をする必要があります。同時に現物の確認として、初期流動で計算結果の確からしさを確認しておくこと(工程能力指数:Cpkの確認)も大切です。
また矩形公差を使用する場合、各部品の寸法公差のレベルが大きく異なると、矩形分布で求めた公差範囲が単純累積より大きくなることがあります。この場合は単純累積法を使用してください。
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(※この記事は岩瀬技術士事務所 代表 岩瀬 栄一郎 講師からのご寄稿です。)