- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceで学ぶ電子部品の基本特性とSPICEの使いこなし(セミナー)
2024/12/5(木)10:00~16:00
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これまで機械設計に関するコラムの中でも折りにつけ触れてきましたが、今回のコラムであらためて「単位」についてまとめて確認したいと思います。
機械設計では、各種力学の知識をもとに、機械がその機能を発揮し、かつ安全に運転できるための、機械部品寸法をはじめとする諸元を決めていきます。
このとき、設計に必要となる物理量を定量的に数値で表す必要があります。
単位とは、物理量を定量的に(数値で)表す、あるいは測るための指標です。
目次
科学技術の領域では早くからメートル法が多く使われてきましたが、いくつかの学問、技術分野でそれぞれの発展を遂げ、同じメートル法でも異なる単位系を形成していました。
また国・地域によってはメートル法ではなく、ヤードポンド系など他の単位を使用している場合があります。
指標が、国や業界ごとに異なっていたのでは不便です。
1960年、国際度量衡総会(CGPM)において、国際的に共通して使える実用単位系として、国際単位系”SI”が制定されました。わが国では、1990年にJISにおいてSI化が完了し、1992年に計量法が改正されて、SI単位を全面的に採用するようになりました。
SIは、メートル法の絶対単位系を基本として作られた一貫性のある単位系で、国際度量衡局(BIPM)によって管理されています。
SI単位は、7つのSI基本単位と、これらを互いに乗除する形で組合せたSI組立単位とに分けられます。
表1にSI基本単位を示します。
【表1:SI基本単位】
量 | 名称 | 記号 |
時間 | 秒 | s |
長さ | メートル | m |
質量 | キログラム | kg |
温度 | ケルビン | K |
物質量 | モル | mol |
電流 | アンペア | A |
光度 | カンデラ | cd |
SI単位を用いて物理量を表示する場合に、数値の桁数が大きすぎる、あるいは小さすぎる場合は、10の乗数をかけて数値の桁数を整えます。
主なSI接頭語を表2に示します。
接頭語がついた単位記号の指数は接頭語にも及ぶことに注意が必要です。
たとえば、1km2は、1(km)2=1x(103m)2=1×106m2です。
【表2:SI 接頭語】
大数値のとき | 小数値のとき | ||||
乗数 | 接頭語 | 記号 | 乗数 | 接頭語 | 記号 |
1012 | テラ | T | 10-1 | デシ | d |
109 | ギガ | G | 10-2 | センチ | c |
106 | メガ | M | 10-3 | ミリ | m |
103 | キロ | k | 10-6 | マイクロ | μ |
102 | ヘクト | h | 10-9 | ナノ | n |
101 | デカ | da | 10-12 | ピコ | p |
SI組立単位は、表1のSI基本単位を組み合わせてつくられるもので、たとえば速度のメートル毎秒[m/s]、流量の立方メートル毎秒[m3/s]のように一般に基本単位の積や商の形で表されます。
使用するときの便利性を考え、圧力のパスカル[Pa]、エネルギのジュール[J]などのように固有の名称と記号を付与されているものもあります。
表3に機械工学でよく用いられる組立単位を示します。
【表3:機械工学でよく用いるSI組立単位】
量 | 単位の名称 | 記号 | 定義 |
面積 | 平方メートル | m2 | |
体積 | 立方メートル | m3 | |
速度 | メートル毎秒 | m/s | |
加速度 | メートル毎秒毎秒 | m/s2 | |
平面角 | ラジアン | rad | m/m |
周波数 | ヘルツ | Hz | 1/s |
力 | ニュートン | N | m・kg・s-2 |
圧力、応力、弾性係数 | パスカル | Pa | N/m2=m-1・kg・s-2 |
エネルギ、熱量、仕事 | ジュール | J | N・m=m2・kg・s-2 |
仕事率、動力 | ワット | W | J/s=m2・kg・s-3 |
トルク、力のモーメント | ニュートンメートル | N・m | m2・kg・s-2 |
密度 | キログラム毎立方メートル | Kg/m3 | |
流量 | 立方メートル毎秒 | m3/s | |
粘度 | パスカル秒 | Pa・s | m-1・kg・s-1 |
比熱 | ジュール毎キログラム毎ケルビン | J/(kg・K) | m2・s-2・K-1 |
熱伝導率 | ワット毎メートル毎ケルビン | W/(m・K) | m・kg・s-3・K-1 |
物理量を表す記号と単位を区別するため、物理量の記号はイタリック(斜体)で表記し、単位の記号はローマン体(立体)で表記します。
また、原則として単位記号は前後を角括弧[ ]でくくります。
例:流量Q [m3/s]、圧力p [Pa]
積の形の組立単位では、単位の間を中点(・)か間隙で区切ります。
例;Pa・s , N・m
商の形の組立単位では、斜線、水平線、負の指数のいずれかを用います。
斜線を使うとき、分母が2つ以上の単位の積になる場合は、括弧で囲みます。
例;m/s , J(kg・K),
SIの最大の特長である一貫性や、原則である10進法から外れるためにSIに属さない単位であっても、日常生活、科学技術、通商などの領域で今後も広く使われると考えられるものは、SI単位と併用される単位として認められています。
機械工学で用いられる単位で、SIには属さないけれど、併用が認められているものを表4に示します。
【表4:機械工学でよく用いるSIと併用が認められている単位】
量 | 単位の名称 | 記号 | 定義 |
時間 | 分 | min | |
時 | h | ||
日 | d | ||
角度 | 度 | ° | 1°=(π/180)[rad] |
分 | ′ | ||
秒 | ″ | ||
体積 | リットル | l、L | 1L=1dm3=10-3m3 |
質量 | トン | t | 1t=103 kg |
面積 | ヘクタール | ha | 1ha=1hm2=104m2 |
圧力 | バール | bar | 1bar=0.1MPa=100kPa |
一方、メートル法であってもSI単位との併用が認められていない単位も多くあります。
たとえば、粘度P(ポアズ)、動粘度St(ストークス)、圧力Torr(mmHg),atm、熱量calなどです。
古い文献や資料には頻繁に使われており、またSIとの併用が認められていなくても、一部で慣用的に現在も使われることもあるので、これらの単位の意味とSI単位への換算について、理解しておくことが必要です。
SI基本単位の一つである、熱力学温度K(ケルビン)を用います。
これは絶対零度(-273.15℃)を基準として、摂氏と同一の目盛で温度を測る単位です。
しかしながら、実用上の理由でセルシウス(摂氏)温度の単位であるセルシウス度(℃)がSI組立単位として使用することが認められています。
熱力学で用いる温度をT[K],セルシウス温度をt[℃]とすれば、両者には次の関係があります。
t=T-273.15
セルシウス度はケルビンから273.15を引いたものなので、両者の温度刻みは等しくなります。
したがって、温度差を表す場合、ケルビンで表す温度差⊿Tとセルシウス度で表す温度差⊿tとは等しくなります。(⊿T=⊿t)
SIでは認められていませんが、米国などでは現在でもヤード・ポンド系の単位を用いることが多く、温度単位としてファーレンハイト(華氏)温度[°F]を使っています。両者の換算を覚えておくと便利です。
ファーレンハイト(華氏)温度とセルシウス(摂氏)温度の間には次の関係があります。
摂氏温度[℃]=(華氏温度[°F]-32)x5/9
例えば、
122[°F]=(122-32)x5/9=50[℃] (=323.15[K])
となります。
国際単位系SIが普及する前は、工学(重力)単位系が用いられていました。
古い文献や資料には、工学単位系が使われています。
力を表す単位について注意が必要です。
SI単位は「質量」を基本単位とするのに対して、工学単位は「力」を基本単位としていました。
同じkgを用いても根本的に単位の概念が異なります。
“重量”や”重さ”という概念は、工学系単位に基づく用語であって、地上の物体に働く重力の大きさを示したものです。
SI単位では、力を質量m [kg]と加速度a[m/s2]の積で表します。
質量m =1[kg]の物体に作用して加速度a =1[m/s2]を生じさせる力F は、ニュートンの運動の第二法則によって
F =ma =1[kg]x1[m/s2]=1[kg・m/ s2]
質量1[kg]の物体に1[m/s2]の加速度を生じさせる力を1[N]と定義します。
力の単位[N(ニュートン)]=[m・kg・s-2] はSI組立単位であって、固有の名称ニュートンと記号Nが付与されています。
工学単位では、kgは「重量」と「力」の両方に使われていました。
質量1[kg]の物体に働く重力を1[kgf]の力と定義していました。
重力加速度は記号gで表し、g ≒9.8[m/s2] です。(より正確には9.80665)
すなわち 1[kgf]≒1×9.8[kg・m・s-2]=9.8[N] ということです。
古い文献や資料には kgfで表示された値がよく出てきますので上記の換算を覚えておくと便利です。
(工学単位の力をざっくり10倍すると、おおよそのSI単位における力の桁数となります。)
「応力」は、機械部材の単位面積に作用する力のことで、部材の安全性や材料の強さを評価する基準となる値です。
力を面積で割った値で、一般的に面積の単位はmm2を用います。
したがって応力の単位はN/mm2 となります。(SI組立単位)
応力 1[N/mm2]=1×106 [N/ m2](m-1・kg・s-2]=1MPa
(1 [N/ m2](m-1・kg・s-2]=1Pa)
応力を表す単位として、接頭語メガをつけたMPaもよく使うので、上記の関係を覚えておきましょう。
1[kgf/ mm2]≒9.8[N/mm2]=9.8[MPa] 力と同様に、古い文献や資料から換算するとき目安となります。
応力の単位のうち、Pa(接頭語をつけたkPaやMPaを含む)は、流体力学における「圧力」の単位としても使われます。
0.1[MPa]≒1 [kgf/cm2]≒1気圧
1気圧(標準大気圧)は正確には0.1013MPa(1013hPa)となります。
原子や分子などが不規則に運動しているときの運動エネルギの総和が熱です。
したがって、熱はエネルギのひとつの形態であって、これを「熱エネルギ」といいます。
また、気体分子が有する熱エネルギの総量を「熱量」といいます。
熱量の単位は、エネルギや仕事と同一のSI組立単位であって、J(ジュール)という固有名称と記号が付与されています
1J=1[N・m]=1 [kg・m2/s2]
かつては、熱量の単位としてkcal(キロカロリー)を用いました。
水1[kg]を1[℃]温度上昇するのに必要な熱量が1[kcal]です。
両者の間には、1[kJ]=1/4.187 [kcal]の関係があります。
KcalはSIとの併用が認められていませんが、古い文献や資料に使われていますので、上記の換算を覚えておくと便利です。
物体に作用する力F[N]と、物体を運んだ距離h[m]の積を、”仕事の大きさ”または”エネルギ”といいます。
仕事の大きさは、熱量と同じ単位 J(ジュール)を用います。
単位時間当たりの仕事の大きさ、あるいは単位時間当たりの熱量(熱流)のことを「仕事率」といい、熱機関などの性能を表すときには「動力」と呼びます。
物体に作用する力F[N]と、動かす速度v[m/s]の積に等しくなります。
仕事率・動力の単位はSI組立単位であって、W(ワット)という固有名称と記号が付与されています。
1[W]=1[J/s]=1 [kg・m2/s3]
単位は、各種設計計算を行う際の大元となる重要な指標です。
設計計算を行う際には、単位の統一ということも意識してください。
例えば設計に使用する値の中に、長さでmとmmが混在している場合、応力や圧力でPa,kPa,MPaが混在している場合など注意が必要です。
また、力、応力、エネルギなどの組立単位については、その意味するところも理解したうえで、設計に活用するようにしてください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)