3分でわかる技術の超キホン 配糖体の糖尿病治療薬(SGLT2阻害剤とα-グルコシダーゼ阻害薬)
今回は、代表的な配糖体糖尿病治療剤を取り上げたいと思います。
配糖体で、糖尿病に使用されているものとしては、SGLT2阻害剤とα-グルコシダーゼ阻害薬があります。
α-グルコシダーゼ阻害薬は、糖鎖または特殊糖というべきものですが、化学構造として糖を含むものですので、こちらも併せてご紹介いたします。
目次
SGLT2阻害剤とは?
尿に糖を出すことで血糖を下げる薬です。
“SGLT”とは、”sodium glucose cotransporter(sodium glucose transporter)“の略で、「ナトリウム・グルコース共役輸送体」と呼ばれるタンパク質の一種のことです。
このうち、SGLT2は、特に腎臓の糸球体にあって、グルコースを栄養分として再吸収する役割をしています。
SGLT2阻害薬は、SGLT2の働きを阻害し、近位尿細管でのグルコース再吸収を減らし、尿糖の排泄を増やすことにより、高血糖が改善されます。
SGLT2阻害剤は、低血糖の心配が少なく、体重減少効果や血圧低下、脂質改善が期待されます。
① トホグリフロジン(Tofogliflozin)
1980年代に、リンゴやナシの樹皮に含まれる配糖体であるフロリジンが、SGLT を阻害することで、尿糖排泄作用があることが報告されました。
SGLTには、SGLT1とSGLT2が知られていますが、SGLT1は腎臓のみならず消化管にも分布していることから、SGLT1を阻害すると消化管への影響が懸念されました。
そこで、腎臓のみに存在するSGLT2を選択的に阻害する薬剤の開発が行われ、これにより見出されたのがトホグリフロジンです。
なお、SGLT2を阻害しても、一定量のグルコースがSGLT1により再吸収されると考えられるため、低血糖を生じにくいとされています。
② ダパグリフロジン(Dapagliflozin)
ダパグリフロジンも、トホグリフロジン同様の選択的SGLT2阻害剤で、幅広い2型糖尿病患者で血糖降下作用を発揮すると考えられています。
ダパグリフロジンは1型糖尿病についても効能・効果が追加承認されています。
この他にも、カナグリフロジン (Canagliflozin)、エンパグリフロジン (Empagliflozin)、イプラグリフロジン (Ipragliflozin)もほぼ同様な作用を有しています。
いずれもフロリジン誘導体というべき化学構造を有しています。
ただし、フロリジンは、O-グリコシドですが、SGLT2阻害剤は、いずれもC-グリコシドとなっています。
α-グルコシダーゼ阻害薬とは?
炭水化物は、小腸においてα-アミラーゼにより二糖類に分解され、さらにα-グルコシダーゼにより単糖類にまで分解されてから吸収されます。
α-グルコシダーゼ阻害薬は、α-グルコシダーゼの作用を阻害することで、小腸からの糖分の消化・吸収を遅らせ、食後の高血糖を抑えます。
この薬は、糖類と薬が小腸内に同時に存在することを要するため、食直前に服用することが必要とされ、食後では効果がないとされています。
分解されずに残った二糖類は大腸の腸内細菌によって消化・発酵されます。
① アカルボース
放線菌の一種であるActinoplanes属のアミノ糖生産菌の培養液中から分離・精製したα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼの阻害剤です。
アカルボースは腸管内において炭水化物の消化・吸収に関与するα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼ(スクラーゼ、マルターゼ等)の活性を阻害することにより食後の血糖上昇を抑制、また、小腸粘膜微絨毛刷子縁における糖質の消化・吸収を遅延させることにより食後過血糖を改善するとされています。
② ボグリボース(Voglibose)
α−グルコシダーゼを選択的に阻害することにより糖質の消化・吸収を遅延させ、糖尿病にみられる食後の過血糖を改善する経口糖尿病用薬として使用されています。
単剤、スルホニルウレア系薬剤及びインスリン製剤との併用において食後の過血糖を改善することが確認されたとしています。
また、耐糖能常における2 型糖尿病の発症を抑制する薬剤としても承認を受けています。
③ ミグリトール(Miglitol)
グルコース類似構造を有するデオキシノジリマイシンが哺乳類の腸管由来α-グルコシダーゼに対し強力な阻害作用があることが確認され、デオキシノジリマイシンの新規誘導体として一連の探索研究においてミグリトールが見い出されたとされています。
ミグリトールによる食後の血糖上昇抑制、α-グルコシダーゼ(スクラーゼ、イソマルターゼ等)の活性阻害によることが確認され、糖質吸収の遅延作用により食後過血糖を改善することで良好な血糖コントロールが可能であることが認められています。
SGLT2阻害剤とα-グルコシダーゼ阻害薬に関する特許調査
SGLT2阻害剤、α-グルコシダーゼ阻害薬に関する簡易的な特許検索を、特許庁の”j-Platpat”を用いて行ってみました。
(※いずれも2019年11月時点における検索結果です。)
Ⅰ.SGLT2阻害剤に関する特許検索
(1)キーワード検索
「トホグリフロジン」等SGLT2阻害剤の物質名をキーワードで検索すると多数の特許がヒットします。実際の特許調査では、絞り込みやコード検索等が必要になると思われます。
(2)特許分類(FI)
SGLT2阻害剤のFIは、適当なものがないようで、使用するとすれば、例えば下記のようなものが挙げられます。
- A61K31/70 ・炭水化物;糖;その誘導体
- A61K31/7034 ・・・炭素環と結合したもの,例.フロリジン
- A61K31/7042 ・・糖類基と複素環とを持つ化合物
- A61K31/7048 ・・・環構成異種原子として酸素原子を持つもの,例.ロイコグルコサン,へスペリジン,エリスロマイシン,ナイスタチン
- A61P3/10 ・・過血糖症のためのもの,例.糖尿病治療剤
(3)Fターム
SGLT2阻害剤に関連するFタームは、適当なものがないようで、使用するとすれば、例えば下記のようなものが挙げられます。
- 4C057BB02・単糖類
- 4C086EA00 炭水化物、糖類
- 4C086EA01・単糖類,二糖,オリゴ糖(糖類基~6個)
- 4C086EA04・・糖類基の異種原子に炭化水素基、複素環式基直結
《各SGLT2阻害剤の特許》
上記のFI、Fタームなどを用いて各物質の特許を調べてみました。
① トホグリフロジン
- KW(全文) : トホグリフロジン : 155件
- KW(請求範囲): トホグリフロジン : 21件
- FI:A61K31/70 * KW(全文): トホグリフロジン : 25件
- Fターム: 4C086EA01 * KW(全文): トホグリフロジン : 22件
② ダパグリフロジン
- KW(全文) : ダパグリフロジン : 585件
- KW(請求範囲): ダパグリフロジン : 82件
- FI:A61K31/70 * KW(全文): ダパグリフロジン : 80件
- Fターム: 4C086EA01 * KW(全文): ダパグリフロジン : 73件
Ⅱ.α-グルコシダーゼ阻害薬に関する特許検索
上記α-グルコシダーゼ阻害薬3剤は、化学構造的共通点があまりなく、また、α-グルコシダーゼ阻害に関する適当なコードもないことから、α-グルコシダーゼ阻害薬の特許調査はなかなか難しいところがあります。
① アカルボース
- KW(全文) : アカルボース : 5270件
- KW(請求範囲): アカルボース : 392件
- Fターム: 4C086EA04 * KW(全文): アカルボース : 302件
② ボグリボース
- KW(全文) : ボグリボース : 2561件
- KW(請求範囲): ボグリボース : 167件
- Fターム: 4C086EA04 * KW(全文): ボグリボース : 160件
③ ミグリトール
- KW(全文) : ミグリトール : 3592件
- KW(請求範囲): ミグリトール : 256件
- FI:A61K31/445 * KW(全文): ミグリトール : 725件
- Fターム: 4C086BC21 * KW(全文): ミグリトール : 422件
(A61K31/445: ・・・・・非縮合ピペリジン、4C086BC21:ピペリジン)
※今回は、FIはセクションAを、Fタームは4Cを対象に検索をしてみましたが、実際の調査では、上記検索式を組み合わせるだけでなく、調査の目的に応じて他のセクションやFターム、キーワードを用いた検索式を組み立る必要があります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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