3分でわかる技術の超キホン マクロライド系抗生物質・6選(配糖体と医薬品の解説)

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配糖体で、抗生物質・抗菌剤としての活性を持つものとしては、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、ポリエンマクロライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質があり、いずれも医薬品としてよく使われています。

今回は、マクロライド系抗生物質を取り上げます。

マクロライド系抗生物質

マクロライド系抗菌薬は、14~16員環のラクトン環とジメチルアミノ糖がグリコシド結合した構造をした抗生物質をいいます。

エリスロマイシン(erythromycin)に始まり、宿主細胞内への高浸透性、組織への高い移行性という抗菌薬としての優れた特徴から、多くの感染性疾患に対して使用されてきました。
ラクトン環の構造により14員環、15員環、16員環、ケトライドと大別されることもあります。

マクロライド系抗菌薬の作用機序としては、細菌の50sリボソームサブユニットの23SrRNAに結合し、ペプチド転移酵素の機能を阻害することにより蛋白合成阻害を行い、抗菌作用を発揮します。
 

① ロキシスロマイシン(Roxithromycin)

エリスロマイシンAの誘導体であって、従来のマクロライドにみられる酸に対する不安定性を改善したことによって、胃酸に対して安定となり、高い血中濃度を示し、経口吸収性、組織移行性に優れ、持続性の強い生体内抗菌力を示すとされています。

ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌等に抗菌作用があり(in vitro)、咽頭・喉頭炎、肺炎などの呼吸器感染症や副鼻腔炎などの耳鼻科領域感染症に対し優れた臨床効果があるとされています。

ロキシスロマイシン
 

② ジョサマイシン(Josamycin)

高知県長岡郡本山の土壌から分離された放線菌の一新変種Streptomyces narbonensis var.josamyceticus の培養ろ液中に生産される16員環のマクロライド系抗生物質です。

腸管より速やかに吸収され、高い臓器内濃度を示し、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌等のグラム陽性菌やマイコプラズマ属に対して抗菌作用を有するとされています。

なお、ジョサマイシンに対する耐性菌は他のマクロライド系抗生剤にも交差耐性を示すことが確かめられています。
また、ジョサマイシンは、ブドウ球菌のマクロライド耐性を誘導しない耐性非誘導型の抗生物質とされています。

ちなみに、ジョサマイシンは、産生する放線菌が採取された土佐(高知県)に因んで付けられたものだそうです。

ジョサマイシン
 

③ クラリスロマイシン(Clarithromycin)

クラリスロマイシンは、エリスロマイシンのラクトン環の6位水酸基をO-メチル化した半合成マクロライド系抗生物質です。

酸に対して安定で、胃酸に対する安定性に優れ、良好な吸収と高い血中濃度を示し、グラム陽性菌のみならず、インフルエンザ菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、マイコプラズマ属、クラミジア属をカバーする広い抗菌スペクトルを有するとされています。

プロトンポンプ阻害剤などともに、ヘリコバクターピロリ感染症に用いられます。

クラリスロマイシン
 

④ エリスロマイシン(Erythromycin)

Streptomyces erythreus の生産する14員環マクロライド系抗生物質です。

抗菌スペクトルは広く、グラム陽性菌、一部のグラム陰性菌、マイコプラズマ、トレポネーマ、レプトスピラ、リケッチア、クラミジア、赤痢アメーバなどに抗菌力を示すとされています。

塩基性物質で水に溶けにくく、胃酸に不安定で、吸収性がよくないのが欠点です。
頻回な服用により、胃腸障害や肝障害の副作用もみられる場合があります。

14員環マクロライドは、「マクロライド長期少量投与療法」として、びまん性汎細気管支炎(DPB)、気管支拡張症、慢性副鼻腔炎や滲出性中耳炎などの治療も試みられています。

エリスロマイシン
 

⑤ アジスロマイシン(Azithromycin)

世界初の15員環マクロライド系抗生物質製剤です。

エリスロマイシンの基本骨格に窒素原子を導入することにより、感染病巣への優れた薬剤移行性と長い半減期を獲得し、主な使用対象となる軽症から中等症の急性呼吸器感染症に対して1日1回3日間の投与で優れた臨床効果を示すとされています。

アジスロマイシン

クラリスロマイシン、 アジスロマイシンはアミノ配糖を持つため、アミノ配糖の水酸基の極性により、アミノ基が分子態となった後、つまりpKa以上のpHにおいても一定の水溶性を維持しているものと予想されるとの報告がされています。

なお、マクロライド系抗菌薬については、耐性菌の増加、抗炎症作用、少量長期投与などが話題として挙げられますが、臨床の現場では「長引く咳に対してついつい出してしまう」、「漫然と処方されている例をよくみる」という現状があるようです。
無駄と思われる薬をできるだけ省くこと(省薬)による適正使用をお願いしたいものです。
 

⑥ スピラマイシン(Spiramycin)

抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性を有する16員環のマクロライド系抗生物質であり、3種の有機塩基(スピラマイシンI、スピラマイシンⅡ及びスピラマイシンⅢ)の混合物からなっています。

作用機序についてはまだよくわからないようですが、トキソプラズマのタンパク合成阻害、特に、細胞小器官であるアピコプラストでのタンパク合成阻害によるものと推察されています。

先天性トキソプラズマ症の発症抑制を効能効果としています。

スピラマイシン
 

マクロライド系抗生物質について特許検索をしてみると?

マクロライド系抗生物質の特許調査を、j-Platpatを用いて行ってみました。
(※いずれも2019年11月時点における検索結果です。)

Ⅰ.マクロライド系抗生物質の検索

(1)キーワード検索

「ロキシスロマイシン」等マクロライド系抗生物質の物質名をキーワードで検索すると多数の特許がヒットします。
例えば、ロキシスロマイシンは1658件、ジョサマイシンは1238件など、それぞれのヒット件数は軽く1000件を超えますので、実際の特許調査では、絞り込みやコード検索等が必要になると思われます。
 

(2)特許分類(FI)による検索

マクロライド系抗生物質のFIはありませんが、関係しそうな下記のFIが使えそうです。

  • A61K31/7028・・グリコシド結合により,糖類でない化合物と結合した糖類基を持つ化合物
  • A61K31/7042・・糖類基と複素環とを持つ化合物
  • A61K31/7048・・・環構成異種原子として酸素原子を持つもの,例.ロイコグルコサン・・

FIもそれぞれのヒット件数は数1000件を超えます。
 

(3)Fタームによる検索

Fタームには、マクロライドに関するコードがありました。

  • 4C086EA12・・・・マクロライド系配糖体
  • 4C086EA13・・・・・14員環の
  • 4C086EA14・・・・・16員環の
  • 4C086EA15・・・・・ポリエン系マクロライド

また、4C086GA02・・環構成に酸素原子のみを含む複素環 や 4C086ZB35・・・抗菌剤等 を場合によっては使うことも考えられます。

以上の中で、4C086EA12を用いて公開年度推移を見てみました。(縦:件数、横:年)

配糖体公開年度
2012年以降は、概ね年40-60件程度で推移しているようです。
 

Ⅱ.各物質の特許検索

上記のFI、Fタームなどを用いて、各物質の特許を簡易的に調べてみました。

 

①ロキシスロマイシン

  • KW(全文) : ロキシスロマイシン : 1658件
  • KW(請求範囲): ロキシスロマイシン : 201件
  • FI:A61K31/7042 * KW(全文): ロキシスロマイシン : 287件
  • FI:A61K31/7048 * KW(全文): ロキシスロマイシン : 178件
  • Fターム:4C086EA13 * KW(全文): ロキシスロマイシン : 154件

 

②ジョサマイシン

  • KW(全文) :ジョサマイシン : 1238件
  • KW(請求範囲):ジョサマイシン : 108件
  • FI:A61K31/7042 * KW(全文):ジョサマイシン : 206件
  • FI:A61K31/7048 * KW(全文):ジョサマイシン : 167件
  • Fターム:4C086EA12 * KW(全文):ジョサマイシン : 198件

ジョサマイシンは、15員環ですのでFタームは上位の4C086EA12を用いました。
 

③クラリスロマイシン

  • KW(全文) :クラリスロマイシン : 4725件
  • KW(請求範囲):クラリスロマイシン : 545件
  • FI:A61K31/7042 * KW(全文):クラリスロマイシン : 615件
  • FI:A61K31/7048 * KW(全文):クラリスロマイシン : 430件
  • Fターム:4C086EA13 * KW(全文): クラリスロマイシン : 361件

 

④エリスロマイシン

  • KW(全文) : エリスロマイシン : 13988件
  • KW(請求範囲): エリスロマイシン : 1401件
  • FI:A61K31/7042 * KW(全文): エリスロマイシン : 1324件
  • FI:A61K31/7048 * KW(全文): エリスロマイシン : 925件
  • Fターム:4C086EA13 * KW(全文): エリスロマイシン : 817件

 

⑤アジスロマイシン

  • KW(全文) : アジスロマイシン : 4222件
  • KW(請求範囲): アジスロマイシン : 580件
  • FI:A61K31/7042 * KW(全文): アジスロマイシン : 613件
  • FI:A61K31/7048 * KW(全文): アジスロマイシン : 352件
  • Fターム:4C086EA12 * KW(全文): アジスロマイシン : 476件

アジスロマイシンは、15員環ですのでFタームは上位の4C086EA12を用いました。
 

⑥スピラマイシン

  • KW(全文) : スピラマイシン : 1793件
  • KW(請求範囲): スピラマイシン : 155件
  • FI:A61K31/7042 * KW(全文): スピラマイシン : 217件
  • FI:A61K31/7048 * KW(全文): スピラマイシン : 157件
  • Fターム:4C086EA14 * KW(全文): スピラマイシン : 102件

 
※今回は、FIはセクションAを、Fタームは4Cを対象に検索をしてみましたが、実際の調査では、上記検索式を組み合わせるだけでなく、調査の目的に応じて他のセクションやFターム、キーワードを用いた検索式を組み立る必要があります。
 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 


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