乾燥の3要素と数式化《Roll To Rollフィルム乾燥のツボ①》
フィルムの開発や製造に携わっている皆様、塗工や乾燥の基礎知識不足に悩まされていませんか?
筆者自身、就職してから塗工開発とフィルム製造に従事しましたが、課題解決のために情報を漁るにも、論文は学術的すぎ、現場情報はノウハウ的で、勘所を掴むのに苦労しました。
この連載コラムでは、Roll To Roll製造における塗工乾燥に関わる方々のために、イメージ作りを重視してとめました。概ねの現象を図やグラフでイメージできれば、数式を追う必要はありません。(更に詳しく知りたい方にはセミナーでも解説します。)
皆で乾燥工程の理解を深めて、共にフィルム業界を発展させましょう!
1.フィルムが利用されている製品は?
世の中は塗工フィルム製品で溢れています(図1)。
工業的にRoll To Roll生産が始まったのは19世紀の映画フィルム、戦後の高度成長期には感熱紙やトイレットペーパーのようなロール紙、電子化が進むとMLCC、1980年代にはデジタル時代が幕明け、ノートPC、リチウムイオン電池、今世紀には液晶TVやスマホが出現し、各製品の要所でフィルム部材が利用されるようになりました。
【図1 塗工フィルムの用途】
2.塗工と乾燥(開発とパイロットと量産)
フィルム製品の開発段階で、サンプルを作製する時は、実験室でバー塗工やスピン塗工で、名刺~A4程度をバッチで作りますが、量産時には帯状のフィルムに連続塗工する「Roll To Roll」(RTR、ロールtoロール)と称される方式にスケールアップします。
このスケールアップを成功させるには、サンプル作製と量産の両方の塗工方式を把握してることが重要です(図2)。
【図2 実験室とRoll To Rollの違い】
身近な「乾燥」でイメージする
フィルム乾燥の教科書や文献は数式だらけだったり、装置や素材の物理化学的な描写が多過ぎて難解なものばかりですが、我々は日々の生活で乾燥現象に関わっています(図3、図4)。
洗濯物の乾燥、ヘアドライヤー、アルコール消毒や料理などと絡めてイメージすると、実際はシンプルな現象です。
【図3 生活の中の乾燥】
【図4 実は乾燥】
4.フィルム製造における乾燥の3要素
フィルム製造において乾燥現象を支配しているのは、①温度、②風、③ガス濃度、の3要素です(図5)。
これらを完全に再現できれば同じ条件で乾かすことができます。しかし、実験室では多くの場合、温度は気にしても風やガス濃度まで気にしないか、気にしても制御しきれません。
これらが実験と量産とで乾燥状態が合いにくい最大の原因です。
【図5 フィルム製造における乾燥の3要素】
乾燥を数式にしてみると?
これらの要素は移動現象として次のように定式化されます(図6、文献1)。
【図6 乾燥の数式化】
当連載では、各々の因子の見積もり方法や考え方を解説していきます。
次回は、フィルム製造における乾燥方式(吹き出し方式)と乾燥能力・乾燥効率についてご説明します。
(※この記事は AndanTEC代表 浜本伸夫 講師からのご寄稿です。)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)浜本伸夫、「理論と現場の融合で RTR プロセスの改善を目指す 第3回 乾燥性と溶媒種」, コンバーテック2022年6月号、pp20-24
- 第1回: 実験室からRoll To Rollへ|塗れる条件と塗工・乾燥のポイント
- 第2回: 薄く塗るか?厚く塗るか?適正なダイ構造と条件
- 第3回: スケールアップの注意点を解説|狭幅パイロットから広幅の量産へ
- 第4回: 同時重層のポイントを解説|粘度と流量のバランスは?
- 第5回: バックアップしない塗工方式 TWOSD (Tensioned Web Over Slot Die)