DME車の可能性と技術課題とは|DME燃料を自動車に使うメリット・デメリットを整理
地球温暖化対策として自動車の進むべき方向は、電気自動車、あるいはカーボンニュートラル車が中心になっていくことは明らかですが、ある移行期間、あるいは地域や車種を考えた場合には、多様性を持った進め方が現実的で、実際の温暖化低減に対しても有効です。
例えば、電気自動車は、走行時だけでなく電気の製造過程も含めてCO2の発生を低減できるようになるまでの期間が必要となります。
今回のコラムでは、特に大型トラックなどへの適用を考え、DME車(DME[ジメチルエーテル] を燃料として使用する自動車)の可能性を考えてみたいと思います。
目次
1.DME(ジメチルエーテル)とは?
「DME」とは、ジメチルエーテル(Di-Methyl Ether)のことで、図1に示すように、炭素、水素と酸素からなる化学組成をもちます。
【図1 DMEの構造(組成)】
燃料としてのDMEの特性
DMEを燃料として使用する場合に関係するDMEの主な特性を図2に示します。
【図2 燃料としてのDMEの特性】
ディーゼル燃焼のための着火性を示す「セタン価」では、軽油が40~55程度であるのに対して、DMEでは55以上で、軽油より圧縮着火性が高いです。
また図1の化学組成から分かるように、酸素(O)を含み、硫黄(S)を含みません。
DMEの沸点は-25℃で、常温では気体ですが、5気圧程度の圧力を加えることで液化します。
[※関連記事:3分でわかる技術の超キホン ジメチルエーテル(DME)の基礎知識 はこちら]
2.DMEの燃料特性が車両適用に与えるメリット
図2に挙げたDMEの燃料特性が車両への適用に与えるインパクト(メリット)を図3に示します。
【図3 DME燃料を車両に適用することの利点】
軽油と同様に圧縮着火が可能で、ガソリン車に比べCO2排出の少ない高効率な燃焼が可能です。
また酸素を含む燃料のため、燃焼による「すす」(スート)の発生を少なくすることが可能です。
さらに、車両から排出されるPM(微粒子)の主成分には、ドライスートや硫黄由来のサルフェート(sulfate、硫酸塩)があり、DMEではこれら両方を低減できますので、PM低減に有利です。軽油では、PM対策のために、燃料製造時の脱硫工程により硫黄(サルファ)の含有量を低減していますが、DMEは元々サルファフリーの燃料ですので脱硫工程を必要としません。
現在の車両においては、最終的な車両排出物をクリーンにするため、フィルタや触媒を用いますが、サルファはこれらを劣化させる原因成分にもなりますので、サルファフリー燃料は後処理の負担を軽減し、装置コストの低減と耐久信頼性寿命向上をもたらします。
燃料の車両搭載に関しては、搭載容量を小さくするために液体状態での搭載が望まれますが、5気圧程度で液化できることより、タンクの耐圧設計上のコスト上昇を低減できます。
長距離を走り、車両コストが高いことよりより長い使用寿命が必要とされる大型トラックでは特に、一度のエネルギー充填で走れる航続距離と、耐久信頼性寿命は、特に重要なファクタです。積載量6.5t以上の大型トラックが平均寿命で走行する距離は約70万kmと言われています。
3.DME燃料の製造過程
DMEは、図4に示すように、主に三種類の原料をベースにして、水素と一酸化炭素の合成ガスとして生成され、燃料はじめ様々な用途で使われています。
【図4 DMEの製造と利用】
DMEを車両で使用して、カーボンニュートラルに貢献するためには原料としてバイオマスを使用することが望まれます。
現在多くのタクシーで使用されているLPGへのブレンド用としてDMEは既に利用されています。そのような用途を含め、燃料用途以外の使用量が増加することにより、DMEの燃料としてのコストも低下します。
4.他の動力源の車両との比較(メリット・デメリット)
車両動力源の多様化におけるDME車の可能性を考えるために、他の車両との比較を簡単にしてみました。
(1)電気自動車(BEV)との比較
- BEVは走行中のCO2発生は無いが、電気エネルギー製造過程でのCO2発生対応が課題。一方DME車では、走行中のCO2発生はあって、エネルギー製造過程を含めてカーボンニュートラル車としてのポテンシャルをもつ
- 航続距離についてはDME車が有利
(2)燃料電池自動車(FCEV)との比較
- FCEVは走行中のCO2発生は無いが、水素エネルギー製造過程でのCO2発生対応が課題
- 車両搭載タンクの耐圧設計はDME用タンクの方が容易
(3)ディーゼル車(軽油)との比較
- DME燃料ではサルファフリーのため、PM対策に有利で、PM対策とトレードオフの関係にあるNOx対策でも有利
- 潤滑系の対策で、DME車の方が燃料噴射システムのコストが高い
- 燃料単位重量あたりのエネルギーがDMEの方が低く、航続距離ではDME車の方が不利
(4)天然ガス(CNG)車との比較
- CNG車に対してDME車では液体状態で車載タンクに充填が可能で、一回の充填あたりの航続距離で有利
(5)LPG(液化石油ガス)車との比較
- LPG車、DME車とも液体の状態で燃料の車載が可能
- 走行時のCO2の排出はDME車の方が少ない
- 燃料単位重量あたりのエネルギーがDMEの方が低く、航続距離ではDME車の方が不利
(6)水素エンジン車との比較
- 水素エンジン車は走行中のCO2発生は無いが、水素エネルギー製造過程でのCO2発生対応が課題
- 水素エンジンとDME車は燃焼に空気を使うため、NOxが発生するが、両方ともサルファフリー燃料のためNOx対策は比較的容易
(7)バイオマス燃料車との比較
- バイオマス燃料車のバイオマスから生成する燃料が軽油に近い場合は、バイオマス車の走行時、排気特性はディーゼル車とほぼ同様で、バイオマスから化学合成を経てDME燃料として使用する場合には、DME車と同等となる
(8)e-fuel車との比較
- 再生可能エネルギー(太陽光、風力など)により発電した電力を用いて水を電気分解して生成した水素と、二酸化炭素を用いて生成した合成燃料を用いる車両がe-fuel車で、カーボンニュートラル車として位置付けられている
- e-fuelを用いたガソリン車と比較すると、圧縮着火燃焼のDME車では火花点火燃焼よりも燃焼効率が高くCO2低減に有利
[※関連記事:e-fuel車の優位性と課題は?FCEV・水素エンジン車などとの比較で考える はこちら]
5.DME自動車の技術課題
DME車の普及のためには、コストパフォーマンスの高い方法やシステムで、技術課題に対応しなければなりません。主な技術課題項目を挙げると以下があります。
- 低粘性に関して、部品摺動に燃料が関係する部分での潤滑性向上対応と、耐燃料リーク対応
- 燃料供給経路において、液状化を保持するための燃料の冷却
- 車両運転休止中の、燃料の配管からの残留DME排除への対応
- 軽油に対して体積当たりエネルギーが低いことに対応する、倍程度の噴射ができる噴射システム
6.DME自動車の今後の見通し
車両の多様性の中での、DME車の実際の普及の可能性には、中国巨大市場の動向、各国のエネルギー資源状況も含めたCO2低減とインフラ戦略にも影響を受けると考えられます。
DMEは水素への改質も可能で、水素社会のエレメントとしての可能性もあります。
普及に影響を与えるDMEのインフラと燃料コストの動向に関しては、先に述べたように、DMEの燃料用途以外の需要動向も影響を与えます。
技術面では、EV用の全固体電池の開発が進み低コスト・軽量・小型化を実現でき、より大型の車両にも普及できる時期がいつになるのかがキーになると考えられます。その影響を受けるのは、他の様々なな動力源も同様です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)