3分でわかる技術の超キホン 食品と界面活性剤|マヨネーズはなぜ水と油が混ざり合ってる?
当連載の「界面活性剤とは?」の回では、洗剤の例で界面活性剤の基礎知識をご説明しましたが、界面活性剤は洗剤以外にも様々な場面で活躍しています。
そこで今回は、食品と界面活性剤についてご紹介します。
1.水と油はなぜ混ざらないのか?「界面張力」の基本
食品というと、水と油は切り離せない存在です。
皆さんご存知の通り水と油は混ざることがなく、静置すると二層に分けられます。
では、水と油はなぜ混ざらないのでしょうか?
その理由の説明には、まず界面張力(表面張力)についての理解することが必要です。
界面には、境界面をできるだけ小さくし、安定しようとする力(界面張力)が働いています。
自然の状態では、水と油はこの界面張力が強く、水は水同士、油は油同士でまとまり、界面でそれぞれ内側に引っ張られて、界面の面積を最小にしようとします。そのため、混ざりあうことがないのです。(図1a)
界面張力の本質は、分子間力の水素結合です。水分子全体では電気的に中性です。
しかし、酸素原子の強い電子吸引性と水素原子の電子供与性によって、酸素水素原子間の共有結合は酸素原子側に電子雲が偏っており、水素原子はややプラス、酸素原子はややマイナスに帯電して分子内に極性が生じます。(図1b)
水分子間に、水素原子と酸素原子は新たな水素結合によって縛られます。
これが表面張力の源です。この力が強く働くほど表面張力は強くなります。
水がモノを溶かすときには、水分子の極性にもとづく静電的な作用が大きな働きをします。
極性のあるものが水によく溶けるものの、有機物で分子内に極性がないもの(油の分子の大半をしめるC-H結合は極性がありません)は水には溶けないのです。
油が水に溶けないのはこのためです。水に油を加えると水は水同士、油は油同士に分かれてしまいます。
【図1 a.界面張力の力相互作用 b.水分子の極性及び水素結合】
2.ポイントは「乳化」
しかし、世の中には牛乳やマヨネーズみたいな水と油が混ざりあった製品が数多く出回っています。
では、これらはどのように作られたのでしょうか?
この理由には、界面活性剤の乳化が関わります。
界面活性剤の食品への応用を語るうえで外せないことの一つに「乳化」が挙げられます。
乳化に関しては、上記の洗剤を例にしたコラムでも少し触れました。
汚れをはがして、水溶液中に分散させることは乳化の過程です。
乳化目的に使われる界面活性剤を「乳化剤」と呼びます。
乳化剤は、界面張力を弱めることで、界面面積が広いままでも安定し、水中に油が粒子として混ざり合った状態で存在することができるようにします。
そして、油を均一で細かい分散粒子にするとともに、表面に取り付いた乳化剤が保護膜となって、粒子同士が吸着、合一することを防ぎ、乳化状態を安定化します。(図2)
【図2 乳化剤の働き】
3.乳化・乳化剤の種類
食品中で水と油が乳化している時、水の中に油が粒子となっている場合を「水中油型」すなわち「O/W型」(Oil in Water)と言い、反対に油の中に水が粒子となっている場合を「油中水型」すなわち「W/O型」(Water in Oil)と呼びます。
「O/W型」乳化の例として牛乳、アイスクリーム、マヨネーズなどがあり、「W/O型」の例としてはバター、マーガリンなどが挙げられます。O/W型とW/O型にはそれぞれ適した乳化剤があります。
《よく使われる乳化剤の種類(例)》
- グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド)
- ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンエステル)
- 有機酸モノグリセリド
- ソルビタン脂肪酸エステル(ソルビタンエステル)
- プロピレングリコール脂肪酸エステル(PGエステル)
- ショ糖脂肪酸エステル(シュガーエステル)
- レシチン(植物、卵黄)
- 酵素分解レシチン
今後、スーパーで食品の買い物をされるときは、ぜひ成分表を見てみましょう。
乳化剤は現代生活中で必要不可欠な存在ということがわかると思います。
次回は、化粧品と界面活性剤について解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)