3分でわかる技術の超キホン 酪酸菌・酪酸の基礎知識を解説《機能・効果・生理活性など》

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酪酸菌・酪酸の解説

酪酸菌は、多量の酪酸を生成する細菌で、近年、長寿や免疫に関連して注目されています。
また、最近では新型コロナとの関連でも注目されています。
今回のコラムでは、酪酸菌・酪酸の基礎知識を解説します。

 

1.酪酸菌とは

酪酸菌」とは、酪酸を産生する細菌の総称で、比較的多量の酪酸をつくる、クロストリジウム(Clostridium)属(バチルス科)を酪酸菌と呼称することも多いようですが、クロストリジウム属以外にも酪酸をつくる他の細菌[例:Eubacterium(ユウバクテリウム)属、Butyrivibrio(ブチリビブリオ)属、Faecalibacterium(フィーカリバクテリウム)属(大便桿菌)、Anaerostipes(アナエロスティペス)属、Agathobacter(アガトバクター)属、Anaerobutyricum(アナエロブチリカム)属、Roseburia(ロゼブリア)属、Coprococcus(コプロコッカス)属、Butyricimonas(ブチリシモナス)属など]も酪酸菌と呼ばれます。

酪酸菌は芽胞を形成するのが特徴ですが、芽胞を持つことによって、比較的高い温度や光が当たるような厳しい環境下でも変質しにくい性質を有しています。
なお、酪酸菌は酪酸だけでなく、酢酸やプロピオン酸など他の短鎖脂肪酸も産生します。

酪酸菌として代表的なクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)は、偏性嫌気性芽胞形成グラム陽性桿菌で、動物の消化管内常在菌として知られている腸内細菌です。日本では「宮入菌」と呼ばれる株が有用菌株として知られています。
宮入菌は、千葉医科大学の宮入近治博士により、1933年に報告された菌株で、腐敗菌をはじめとした種々の消化管病原体に対して拮抗作用を有し、腸内有益菌と共生することにより、整腸効果を発揮します。

 

2.酪酸菌の機能・効果

酪酸菌は、大腸まで届いた食物繊維やオリゴ糖、レジスタントスターチなどの難消化性炭水化物(食物繊維)を分解して、短鎖脂肪酸である酪酸を産生します。短鎖脂肪酸は、大腸での腸管の蠕動運動の促進、水分・ミネラルの吸収、粘液分泌などの生理作用が知られています。

また、酪酸菌によって産生される酪酸は、ブドウ球菌や大腸菌など有害菌(悪玉菌)、通性嫌気性細菌の発育を抑制します。その一方、大腸内をビフィズス菌や他の有用菌(善玉菌)、偏性嫌気性細菌が棲みやすい環境に整えます。つまり、酪酸菌が増殖し酪酸を作り出すと、大腸の上皮細胞が酪酸と酸素を使ってエネルギーを作り出し、大腸はより酸素の少ない状態になり、有用菌(善玉菌)が棲みやすい環境になります*1)

 

3.酪酸の生理活性(主な機能)

酪酸は腸内細菌よって腸管内で産生される主要な最終代謝産物である短鎖脂肪酸の一つであり、以下の構造の1価カルボン酸です。なお、酪酸はおならの成分のひとつで、強烈な異臭を発します。

酪酸

 

酪酸の機能をもう少し見てみましょう。代表的な機能は以下の通りです。

  • (1) 制御性T細胞の分化誘導作用
  • (2) アポトーシス促進作用
  • (3) 抗炎症作用
  • (4) 大腸上皮細胞のエネルギー源
  • (5) 恒常性維持
  • (6) 腸の蠕動運動促進

 
上記作用のうち(1)の「制御性T細胞の分化誘導作用」が近年注目されています。
腸内細菌が作る酪酸が体内に取り込まれて免疫系に作用し、炎症やアレルギーなどを抑制する制御性T細胞(Treg)という免疫細胞を増やす働きがあることが明らかにされています。

理化学研究所、東京大学、慶應義塾大学先端生命科学研究所は、マウスに食物繊維が多い食事(高繊維食)を与えると、腸内細菌の活動が高まり、その結果多量の酪酸が作られ、炎症抑制作用のある制御性T細胞への分化誘導が起こることを共同研究により見出しました*2),3)
高繊維食を与えたマウスでは低繊維食を与えたマウスに比べて腸内細菌の活動が高まっており、代謝産物のひとつである酪酸の生産量が多くなり、この酪酸が制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3遺伝子の発現を高めていることも明らかにしています。
難治性疾患である炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)は消化管の慢性炎症ですが、炎症性腸疾患の患者の腸内では、酪酸を作る腸内細菌が少ないことが知られています。今回の研究によって、腸内細菌が作る酪酸には炎症性腸疾患の発症を防ぐ役割があることが示唆されました。

(4)の「大腸上皮細胞のエネルギー源」については、酪酸は大腸の主要なエネルギー源として利用され、その残りが血流に移行し、さまざまな組織に存在する短鎖脂肪酸受容体(GPR41、GPR43、GPR109A)に結合して活性化させることが知られています。これらを介して、エネルギー代謝系や免疫系の制御、恒常性維持などに役立っています。

また、(5)「恒常性維持」について、脳と腸は双方向的に影響を及ぼすことが明らかになりつつあり、そのような関係は「脳腸相関」(brain-gut interaction)や「脳-腸軸」(brain-gut axis)と呼ばれます。血液脳関門を通過する能力がある酪酸は、脳腸相関を介して作用することにより、例えば迷走神経と視床下部を活性化し、宿主の食欲と摂食行動に間接的に影響を及ぼします。

 
ということで今回は、近年注目を集めている酪酸菌・酪酸の基礎知識を簡単にご紹介しました。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・A)
 


《参考文献・サイト》


 

 

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