【半導体製造プロセス入門】ダイオードとトランジスタから半導体デバイスの基本を学ぶ

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半導体部品(ダイオードとトランジスタ)

前回のコラムでは「そもそも半導体とは何か?」という、最も基本的な前提知識を中心にご説明しました。

今回は続きとして、半導体デバイスの代表例であるダイオードトランジスタを取り上げて解説します。

1.ダイオードの基礎知識

P型半導体とN型半導体を組み合わせた基本的なデバイスに「ダイオード」があります。
ダイオードはPN接合面の構造や、使用する半導体の種類を工夫することで様々な種類がありますが、ここでは基本的なものを解説します。なお、発光ダイオード(LED)もダイオードの一種です。

まず、ダイオードの図記号を見てみましょう。
図1を見てください。縦線に矢印が刺さっています。
この矢印の先端側を「カソード」といいます。そして矢印の根本側を「アノード」といいます。
 

ダイオードの図記号とPN接合
[図1 ダイオードの図記号とPN接合]

 

ダイオードは、アノードからカソードへは電気を流しますが、カソードからアノードへは電気を流しません
つまり、矢印の方向にしか電気を流さないという特性を持っています。

そして、電気が流れる方向に電圧を加えることを「順方向」、逆を「逆方向」と呼びます。
この一方通行の特性は、P型とN型の半導体をくっつけて実現されています。これを「PN接合」といいます。アノード側がP型で、カソード側がN型となります。
 

(1)順方向に電圧をかけたときの動き

ここで、順方向に電圧をかけた場合を考えてみましょう。図2を見てください。

電圧を加えると、P型半導体中のホールはマイナスの電極に、N型半導体中の自由電子はプラスの電極に向かいます。そのため、順方向に接続すると、ホールと自由電子は反対側の電極に向かうようになります。
この結果、移動してきた電子とホールはpn接合面付近でお互いにくっついて消えます(再結合と言います)が、キャリアが移動するので、ダイオードの中で電気が移動することになり、電気が流れるということになります。

順方向の時のホールと自由電子の動き
[図2 順方向の時のホールと自由電子の動き]

 

(2)逆方向に電圧をかけたときの動き

では、逆方向に電圧をかけた場合はどうなるでしょうか?図3を見てください。
この場合、P型半導体中のホールはマイナスの電極に、N型半導体中の自由電子はプラスの電極に引き寄せられるため、それぞれの半導体間でキャリアの移動が行われず、電気は流れません。

逆方向の時のホールと自由電子の動き
[図3 逆方向の時のホールと自由電子の動き]

 

ちなみに電圧をかけていない場合は、PN接合面では、自由電子とホールがお互いに引き寄せられるため、キャリアの移動がおきますが、すぐに自由電子とホールが打ち消し合って中和が起こります。したがって、PN接合面を挟んだところではキャリアが存在しないということになります。この領域を「空乏層」といいます。
 

2.トランジスタの基礎知識

つぎに、トランジスタについてその種類別に解説します。
 

(1)接合型トランジスタ

図4を見てください。
接合型トランジスタは3つの電極で構成されています。エミッタベースコレクタです。
 

NPN型トランジスタ
[図4 NPN型トランジスタ]

 

接合型トランジスタには2種類あります。PNP型NPN型です。
「NPNトランジスタ」は、エミッタがN型半導体、ベースがP型半導体、コレクタがN型半導体で構成されています。また、「PNPトランジスタ」は、エミッタがP型半導体、ベースがN型半導体、コレクタがP型半導体で構成されています。
なお、PNP型とNPN型は電気の流れる方向が逆なだけで、基本的な動作は同じであるため、ここではNPN型だけを説明します。
 

《NPN型トランジスタの動作》

NPN型トランジスタの基本的な動作について説明します。図5を見てください。

NPN型トランジスタの電流の流れかた
[図5 NPN型トランジスタの電流の流れかた]

 

NPN型トランジスタのエミッタ、ベース、コレクタに適切な極性の電圧を加えると、トランジスタに電流が流れるようになります。 

例えば、ベースとエミッタの間に、ベースがプラス電圧、エミッタがマイナス電圧となるように電圧を印加し、コレクタとエミッタの間に、コレクタがプラス電圧(ベースよりも高いプラス電圧)でエミッタにマイナス電圧となるように電圧を加えます。

すると、N型半導体のエミッタからキャリアである自由電子がベースに流れ込みます。自由電子の一部はP型半導体であるベースのホールに捉えられますが、残りの大半はコレクタに達します。(自由電子の進む方向と電流の方向は逆です)。ベースが非常に薄いので 、エミッタからベースに流れ込む自由電子のほとんどは、ベースのホールに捕まえられずにベースを突き抜けます。

キャリアではなく電流で考えると、エミッタを流れる電流(エミッタ電流)は、ベース電流とコレクタ電流の合計値となります。実際には、ベース電流は無視できるほど小さいので、エミッタ電流とコレクタ電流はほぼ同じ電流値となります。

ここで、エミッタとベースとの間の電圧を変化させると、ベース電流はほとんど増えないのに対し、コレクタ電流は大幅に変化するという接合型トランジスタ特有の特性があります。
これはベース電流を入力電流、コレクタ電流を出力電流と考えれば、入力電流の変化が増幅されて出力電流の大きな変化になっていることになります。

なお、接合型トランジスタの内部では、自由電子とホールの2種類のキャリアが移動しています。
そこで、接合型トランジスタを「バイポーラトランジスタ」と呼びます。「バイポーラ」とは「双極性」という意味です。

[※関連記事:バイポーラトランジスタの原理と構造がわかる [要点解説] はこちら]
 

(2)電界効果トランジスタ(FET)

電界効果トランジスタ(FET)は、図6のような構造をしています。
FETも3電極で、それぞれソースゲートドレインと呼ばれます。

また、Nチャネル型Pチャネル型があります。
チャネルとは「運河」「通り道」という意味で、キャリアの通り道という意味です。
このチャネルの幅を狭めたり広げたりして、電流を制御します。
 

電界効果トランジスタ
[図6 電界効果トランジスタ]

 

ここではNチャネル型のFETについて説明します。
Pチャネル型は自由電子の代わりにホールがキャリアとなっているだけで基本的な動作は同じです。

ドレインからソースに電流が流れるように電圧が加えられているとき、ゲートにマイナス電圧が印加されると、チャネルはN型なのでゲート側にホール、ソース側に自由電子が引き寄せ合って、チャネルに空乏層が現れます。そしてプラス電圧を増加させていくと、空乏層が広がり、チャネルが狭くなります。逆にゲートのマイナス電圧を小さくすると、空乏層が狭くなります。

チャネルにはソースからの電子が流れているので、ゲート-ソース間の電圧を変化させると、ソース-ドレイン間の電流を変化させることができます。

なお、FETは自由電子もしくはホールのどちらか一方だけがキャリアとなります。
そのため、次にご説明するMOS型FETと合わせて「ユニポーラ」と呼ばれます。ユニポーラとは「単極性」という意味です。
 

《MOS型FET》

最後にMOS型FETについて説明します。実際の集積回路では、ほとんどMOS型FETが使われます。
なぜかというと、接合型のトランジスタに比べ構造が簡単で、集積回路の集積度をあげやすくなるからです。

MOS型FETはゲートの構造に特徴があります。
図7のようにチャネルの上にゲートがありますが、ゲートとチャネルとの間に絶縁体があります。
ゲート電極は金属、絶縁体は酸化シリコン(酸化膜)、チャネルは半導体です。
そのため、金属(Metal)-酸化膜(Oxide)-半導体(Semiconductor)の略で「MOS型」と呼ばれます。
 

MOS型電界効果トランジスタ
[図7 MOS型電界効果トランジスタ]

Nチャンネル型のMOSFETについて説明します。Pチャネル型は自由電子の代わりにホールがキャリアとなっているだけで基本的な動作は同じです

今、ドレインからソースに電流を流し、かつゲートにプラス電圧、ソースにマイナス電圧を加えると、電源からの電子(マイナスの電気)がソースからゲートに向かって流れようとします。

しかし、ゲートとアースの間には絶縁体があるために電気は流れません。さらに、元々ゲートが形成されているところはP型なので、電圧が低い間はチャネル内のホールと打ち消し合って電子は消えてしまいます。

一方、ゲート電圧が高くなり電子の量がチャネル内のホールの量より多くなると、絶縁体のすぐ下に電子が溜まり、溜まったところはN型のような状態になります(この状態を「反転層」と呼びます)。すると、ソースとドレインの間が通電し電気が流れます。
つまり、ゲートとソースの間の電圧によって、ソースとドレインの間の電流を制御できることになります。

MOS型FETの弱点は、高速化がしにくいことです。
ゲートとチャネルの間に絶縁体があるために、ゲートとチャネルでコンデンサを形成します。
コンデンサは電気をためるように働きますが、電気をためる量(これを「静電容量」といいます。)が多いほど高速化には向いていません。
MOS型FETでは、ゲートの大きさを小さくすると、この静電容量を下げることができるので、できるだけゲートは小さくする努力がなされています。
つまり、より微細な集積回路を作ることは、静電容量を下げることに繋がり、高速化も実現できるのです。

 

以上、2回にわたって半導体の前提知識をご紹介しました。
ここで述べた知識はあくまで基本的なもので、現場の技術者と話が通じる最低限の知識です。
実際にはもっと複雑で多くの知識が必要ですが、勉強する姿勢を忘れなければついていけると思います。頑張りましょう。

なお、ここでは「プラスの電気」「マイナスの電気」という言葉を使いましたが、現場では、より専門的に「プラスの電荷」「マイナスの電荷」という言い方をします。覚えておきましょう。
 

次回は、集積回路(CMOS)の基本構造について解説します。
 

(アイアール技術者教育研究所 F・S)
 

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