【半導体製造プロセス入門】そもそも「半導体」とは何か?[初心者にもわかりやすく解説]

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半導体とは

半導体」という言葉はよく耳にします。
実際、半導体は目に見えない形で、ありとあらゆるところで使われています。また、近年は「ICタグ」などを利用して決済を一瞬で行うなど、より生活により密着した形で使われています。
そして、半導体製造装置について知るうえで、半導体そのものを理解することは大変重要です。

そこで、今回は半導体製造装置を説明するまえに半導体とは何か?、歴史、そして実際の素子について説明したいと思います。

1.半導体とは?

半導体とは「半」導体つまり電気を半分通す物質のことです。

これだけではよくわからないので詳しい説明をします。
物質の電気的な特性は導体・半導体・絶縁体に分かれます。導体は銅やアルミなどの金属一般、絶縁体はゴムや紙などです。つまり、半導体は導体と絶縁体の中間的な性質を持ち、絶縁体よりは電気を通し、導体よりは電気が流れにくい物質をいいます。

なぜ、半導体が注目されるかというと、外部から操作を加えることで半導体の電気的性質を人工的に変えることができるからです。
この技術を「半導体製造プロセス技術」、その製造プロセスを実現する装置・装置群を「半導体製造装置」といいます。

そして、半導体の性質をうまくコントロールするには「量子力学」の知識が必要ですが、大変難解な数式がたくさん出てきますので、ここではあまり深入りせず、簡単に半導体の歴史、基本的性質についてご説明したいと思います。
 

2.半導体の歴史

半導体以前の真空管の時代

半導体の歴史を見ていきましょう。

半導体素子登場前に電気信号を処理するデバイス(素子)として、「真空管」というものがありました。
これは、ガラス管の内部を真空にしてそこに電極を設けたもので、2極真空管や3極真空管がありました。
真空管は交流を直流に変換する整流や、弱った信号を増幅する増幅器などに使われていました。
また、電気的なスイッチ動作が可能なため、最初のコンピュータ(ENIAC)に使用されていました。

しかし、次に述べる問題があり、現在は半導体のデバイスに置き換えられ、ほとんど使われなくなってしまいました。(ちなみに、オーディオマニアなどは今でも真空管のアンプを好んで用いています。)
 

真空管の問題点

真空管では、熱した金属(フィラメント)から飛び出した電気(電子)を利用して増幅作用を行います。
そのため、加熱が必要になり、電力を消費します。また、真空状態でないと増幅作用が起こらないので、ガラス管の内部を真空にする必要があり、製造が難しいという問題がありました。さらに寿命が短く信頼性が低いという懸念もありました。
このため、より動作が安定している固体素子(半導体素子)の開発が強く望まれるようになったのです。
 

点接触トランジスタの開発

1947年、アメリカのベル研究所にいた3人の研究者によって、最初のトランジスタが開発されました。
これは「点接触型トランジスタ」と呼ばれますが、あまり実用的なものではありませんでした。
点接触型トランジスタは、ベース電極の上にゲルマニウム(これも半導体です)が載っており、さらに2つの電極がわずかに離れて、そのゲルマニウムの表面に接触しているという構造になっています。そして、2つの電極とゲルマニウムとの間で増幅作用がおこなわれる仕組みになっています。
 

接合型トランジスタと電界効果トランジスタ

点接触型トランジスタの開発から1年後、「接合型トランジスタ」が発表されます。
これが現在のトランジスタの原型となったタイプのトランジスタです。

トランジスタにはもう1つタイプがあり、「電界効果トランジスタ」(FET:Field Effect Transistor)と呼ばれます。

また、接合型トランジスタは「バイポーラ」、電界効果トランジスタは「ユニポーラ」と呼ばれます。その理由も含めて構造や動作は後述します。

[※関連コラム:FET(電界効果トランジスタ)とは?原理・特徴・用途の要点解説 はこちら]
 

集積回路(IC・LSI)

トランジスタやその他の素子(抵抗やコンデンサ)の動きは、原子レベルの話なので、素子そのものを極めて小さくすることができます。
そして、小さくした電子回路を一枚の半導体基板のうえにまとめると小型化ができ大変便利です。
このような回路を「集積回路」と呼びます。集積回路の発明は1959年ごろです。そしてこれが現在の半導体技術の基礎となっています。
現在では、集積回路の集積度が飛躍的に増加しており、ナノメートルの単位で製造が行われるようになっています。
 

3.半導体の基本的性質

短周期律表と原子構造

半導体を理解するうえで欠かせないのが、「短周期律表」です。
ここでは。一部を載せておきます。
高校の化学の教科書の最初か最後に「周期律表」として載っている場合が多いです。

Ⅲ族 Ⅳ属 Ⅴ族
B(ボロン) C(炭素) N(窒素)
Al(アルミニウム) Si(シリコン) P(リン)

原子は原子核と、原子核の周りをまわっている複数の電子とで構成されています。
複数の電子は同心円状の複数の軌道を回っており、それぞれの軌道での回れる電子の数は決まっています。
そして一番外側の軌道を回っている電子を「価電子」と呼びます。

例えば、実際の半導体製造で最も使用されるシリコンの原子1個で考えた場合、価電子は理論上8つですが、実際は4つ空きがあります。(図1を見てください)

なぜかというと、シリコン結晶で考えた場合、隣り合っている4つの原子と結合しているからです。
この隣り合っている原子から1個ずつ価電子を共有して結晶構造が成立しています。つまり、「結合の手」は4つということになります。
そして、この「結合の手」の数はⅢ族で3つ、Ⅳ族で4つ、Ⅴ族で5つです。
 

シリコンの原子と価電子
[図1 シリコンの原子と価電子]

 

ドーピングとP型半導体・N型半導体

シリコンは不純物のない純シリコン(これを「真性半導体」といいます)では、あまり電気を流しません。
電気を流すことは流すので一応「半導体」ですが、電気抵抗が大きすぎて実用に耐えません。(ちなみに自然界に存在している酸化シリコンは完全に絶縁体です。この酸化シリコンを精製してシリコンウエハーが作られています。)

そこで、実用に耐え得るように研究者たちが考えたのが「ドーピング」と呼ばれる方法です。
ドーピングとは、例えば、シリコンの真性半導体の結晶の中に、少しだけⅢ族またはⅤ族の物質を混ぜることです。

図2を見てください。シリコンの真性半導体にⅤ族をドーピングした場合を考えてみましょう。
上述したようにシリコンの「結合の手」は4つです。そして、Ⅴ族の「結合の手」は5つです。したがって価電子が1つ余ることになります。
非常に低温の場合、余った価電子はクーロン力という弱い力によって原子核の周りを回りますが、温度が高くなり常温になると、クーロン力を断ち切って結晶内を自由に動くことができるようになります(この電子を「自由電子」と呼びます)。この場合、電子はマイナスの電気を持っているので「N型半導体」といいます。(N型の”N”はNegativeの略です。)
 

N型半導体の結晶構造とドーピング
[図2 N型半導体の結晶構造とドーピング]

 

逆にシリコンの真性半導体にⅢ族をドーピングした場合を考えてみましょう。
図3を見てください。シリコンの「結合の手」は4つです。そして、Ⅲ族の「結合の手」は3つです。したがって、価電子は1つ足りません。
すると隣のシリコン原子から価電子が1つ補充されることになり、電子の移動が起きます、この電子1つ分足りないことを「正孔」(ホール)といいます。この場合、ホールはプラスの電気を持っているので「P型半導体」といいます。(P型の”P”はPositiveの略です。)

ちなみにホールと自由電子を合わせて「キャリア」と呼びます。語源は電気を「運ぶもの(Carrier)」です。
 

P型半導体とドーピング
[図3 P型半導体とドーピング]

 

実際の半導体製造プロセスでは、この、ドーピングをうまく使うことで、目的のデバイスを製造するということになります。また、P型半導体とN型半導体とをうまく組み合わせることでも、目的の特性を持ったデバイスを製造することができます。
 

次回は、実際の半導体デバイスとしてダイオードとトランジスタについて紹介します。
 

(アイアール技術者教育研究所 F・S)
 

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