金属-半導体の接合、金属-絶縁体-半導体の接合で何が起きるのか?
今回のコラムでは、半導体と金属の接合、あるいは半導体、絶縁体、金属のような接合を作ると何が起きるのかを考えます。
1.エネルギーの基準と真空準位
金属と半導体を接合した構造を、「MES構造」(MES: MEtal-Semiconductor)と言います。
当連載の前回のコラム「pn接合の仕組みを概念図・バンド図でわかりやすく解説」で説明したpn接合の場合は同種の半導体なので、自然にp型、n型の伝導帯、価電子帯をつないだ図を描きました。
では、金属、半導体接合では、あるいは別種の半導体では接合部はどうなるのでしょうか?
それぞれの電子状態がどうなっているのかを考えるためには、どこかにエネルギーの基準を取らなければなりません。これがないと、例えば図1で金属と半導体の相対的なエネルギーの対応は、①が正しいのか、②が正しいのか、全然違うのかが判断できないことになります。
そこで真空準位を基準にとります。「真空準位」とは真空中で孤立し、かつ静止している電子のエネルギー準位だと考えて下さい。金属等の電子は、束縛エネルギーで安定な状態になっており、この束縛エネルギーは物質ごとに決まっています。
【図1 金属と半導体の接合を考える際のエネルギの基準の必要性】
2.金属-半導体接合
真空準位を基準にした時のフェルミ準位のエネルギー(真空準位から見たフェルミ準位の深さ)を「仕事関数」と言いΦで表します。
また、真空準位を基準にした時の半導体および絶縁体の伝導帯底のエネルギーを「電子親和力」と言いχで表します。
仕事関数がΦmである金属と仕事関数がΦsであるn型半導体の接合を考えてみましょう。
接合を作る前のバンド図は図2の通りです。
【図2 接合する前の金属と半導体のバンド図】
これを接触させると、n型伝導帯の電子は、よりエネルギーの低い金属に移動し、金属と半導体の界面に電子が蓄積し、半導体側には空乏層ができます。この電位差によって金属のフェルミ準位と半導体のフェルミ準位が一致したところで移動が終わります(図3)。
この時、接触面を金属側のフェルミ準位から見ると、n型半導体の伝導帯はΦm–χs =Φbだけ電位が高い位置にあり、このΦbを「ショットキー障壁高さ」と言います。
また、pn接合と同様に、空乏層でできる電位差を「内蔵電位」と言い、Vbi等と表します。
【図3 接合後、電荷の移動が止まった状態の金属半導体接合のバンド図】
では、金属の仕事関数Φmがn型半導体の電子親和力χsより小さい、図4のような場合どうなるでしょうか。
【図4 接合直後の金属と半導体のバンド図】
(金属の仕事関数<n型半導体の電子親和力)
接触させると、金属から、よりエネルギーの低いn型伝導帯に電子が移動し、半導体側の金属との界面に電子が蓄積します。蓄積した電子による電位差によって金属のフェルミ準位と半導体のフェルミ準位が一致したところで移動が終わります(図5)。この場合、半導体側に空乏層は出来ず、金属側から見たときもショットキー障壁はありません。従って理想的には金属~半導体界面を両方向に自由に電子が移動出来ることになります。
しかし、実際には金属半導体界面の欠陥や汚染不純物の影響で理想的な接合は得られません。
【図5 接合後、電荷の移動が止まった状態の金属と半導体のバンド図】
(金属の仕事関数<n型半導体の電子親和力)
3.金属-絶縁体-半導体接合
金属と半導体の間に絶縁体を挟み込んだ構造は半導体デバイスでよく用いられ、「MIS構造」(MIS:Metal Insulator Semiconductor)と呼ばれます。
特にシリコン表面を酸化して、非常に良い絶縁体である二酸化シリコン(SiO2)の薄い膜を作り、その上に金属を付着させたMOS構造(Metal Oxide Semiconductor)はMIS構造の一種で、現在の集積回路の中心をなす技術です。
これまで説明したpn接合、金属、半導体接合と同様にバンド図で考えます。
絶縁体中には電荷は存在せず(つまりフェルミ準位は考えず)、電流は流れないものとします。
図6左側のように金属、絶縁体、n型半導体を接触させると、半導体から金属に電子が移動し、図6右側のように金属のフェルミ準位と半導体のフェルミ準位が一致します。
【図6 金属-絶縁体-半導体接合のバンド図】
(左は接合直後、右は接合後電荷の移動が止まった状態)
次回のコラム「pn接合、金属-半導体接合に流れる電流」では、前回と今回説明した半導体同士の接合あるいは、金属と半導体の接合を挟んで電圧をかけると、どのような電流が流れるのかを考えます。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)