半導体における電子のふるまい|sp3混成軌道、結合性軌道/反結合性軌道とバンドキャップ

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半導体

連載「これならわかる半導体超入門」の第2回は、半導体における電子のふるまいについて解説します。

1.共有結合とは(前提知識)

半導体は共有結合で結晶を作っています

共有結合」とは、各原子が電子を出し合って電子対を作り、この電子対を共有することで出来る結合です。

代表的な半導体であるシリコン(Si)を例に、共有結合とはどのようなものなのか、その中で電子がどのように振舞っているのかを見ていきましょう。

 

シリコン原子の電子状態イメージ
【図1 シリコン原子の電子状態イメージ】

 

原子の電子状態について図1のような説明をよく見ると思います。
太陽の周りの惑星のように、原子核を中心に電子が回っており、電子の軌道は、内側からK殻、L殻、M殻~と呼び、各軌道には、2、8、18~個、つまり内側から軌道に1、2、3~nと番号をつければ2n2個の電子が入ることができます。
しかし実際には一つの軌道に入る最大の電子数は8で、それ以上はさらに外側の軌道に入った方がエネルギーが低くなります。また、電子の入っている最も外側の軌道を「外殻軌道」あるいは「価電子軌道」と呼び、この軌道にある電子だけが他の原子との反応に関与します。
シリコンの電子数は14で、外殻軌道には4つの電子が入っています。

量子力学によれば、電子がどこにいるかは存在確率でしか示すことはできませんので、図1は、直感的にはわかりやすいものの現実とはかなりかけ離れており、説明には限界があります。

 

シリコン結晶のイメージ

例えば、シリコンが共有結合して結晶を作る様子を示す図2のような図もよく見かけます。
 

共有結合しているシリコン結晶のイメージ
【図2 共有結合しているシリコン結晶のイメージ】

 

隣り合った原子が電子を1個ずつ出し合って結合すると、1つの原子が周囲4つの原子と結合した時に安定になります。なるほど、一つの原子に注目すると8つの電子を持っています
しかしこの図では原子が平面状に並ぶだけで立体的な結晶になりません。

実際の結晶のイメージは、図3のような構造(単位格子)が三次元的に規則正しく並んだもので、黄色の丸が原子核を、赤い線が共有結合している電子(2個)を表しています。このような結晶構造を「ダイヤモンド構造」と言います。

 

立体的に結合しているシリコン結晶のイメージ
【図3 立体的に結合しているシリコン結晶のイメージ】

 

2.sp3混成軌道とは

図3のような構造を取るために、シリコンのM殻電子は「sp3混成軌道」と呼ばれるものを作って、図4のような軌道にそれぞれ1個ずつ電子が入っています。

 

sp3混成軌道
【図4 sp3混成軌道】

 

M殻には8つの電子が存在することができますので、図の軌道には2個ずつ入ることができます。
図4で点線で結んだ正四面体の中心に原子核があり、正四面体の頂点に向かって4つの軌道が伸びています。
4つの電子がお互いの距離をできるだけ取るように配置すると、このような正四面体頂点に向かう形になります。

図の軌道は、電子の存在確率が高い場所を示していて、「電子雲」と呼ぶこともありますが、電子が雲のように存在しているわけではなく、あくまでも存在確率が高い場所を示しているだけです。しかも電子の存在確率は、結晶全体に広がっていてどこまで行ってもゼロにはなりません。

原子核と電子の関係

 

sp3混成軌道を持つシリコン原子の様子

シリコン原子同士が接近してくると、隣り合った原子が電子を1個ずつ出し合って結合し、図5のように1つの原子が周囲4つの原子と結合した時に安定になります。

 

sp3混成軌道を持つシリコン原子が周囲4つのシリコン原子と結合した様子
【図5 sp3混成軌道を持つシリコン原子が周囲4つのシリコン原子と結合した様子①】

 

図では、中心部のシリコン原子と周囲のシリコン原子との結合には関係しない電子軌道は省略しており、結合した状態では電子雲の形(電子の存在確率の分布の形)も変化しますが、便宜的に独立した原子の場合のイメージ図を重ね合わせています。
緑色点線で結んだ正四面体中心部にシリコン原子が一つあり、周囲のシリコン原子は正四面体の4つの頂点に配置される形になります。

結合している状態を原子核同士を結んだ線と電子(2個)で表したのが図6で、番号0の原子核のまわりを原子核1、2、3、4が等距離で囲んでいます。

 

sp3混成軌道を持つシリコン原子が周囲4つのシリコン原子と結合した様子
【図6 sp3混成軌道を持つシリコン原子が周囲4つのシリコン原子と結合した様子②】

 

図6の原子核が結合した図を、シリコンの単位格子の図(図3)と重ね合わせてみましょう。
それぞれの原子核に付けた番号に注意しながら重ねてみると、シリコンの単位格子が正四面体の頂点に配置された原子核の連なりで構成できることがわかります(図7)。

 

正四面体の頂点に配置された原子核の連なりで構成されたシリコンの単位格子
【図7 正四面体の頂点に配置された原子核の連なりで構成されたシリコンの単位格子】

これからの説明

 

3.結合性軌道、反結合性軌道

電子軌道には各2個ずつ電子が入れたはずなのに、結合した電子軌道では4個の席のうち2個しか埋まっていません。もう一度最初に戻ってみると、シリコン原子のイメージは電子の入れる空位置も明示すれば図8のようになり、これは、より現実に近いイメージでは図9のように表されます。

 

電子の入れる空位置も示したシリコン原子の電子状態イメージ
【図8 電子の入れる空位置も示したシリコン原子の電子状態イメージ】

 

電子雲を用いたシリコン原子の電子状態イメージ
【図9 電子雲を用いたシリコン原子の電子状態イメージ】

 

つまり、結合した状態では、図10のように結合した2つの原子が2つの電子を共有しあっていますが、もともとあった一つの原子当たり4つの空位置は空の軌道として存在していることになります。

この軌道は、ここに電子が入ると原子の結合を妨げる方向に働くので「反結合性軌道」と呼ばれます。一方、結合に寄与する電子が入っている軌道は「結合性軌道」と呼ばれます。

 

電子の入れる空位置も示したシリコン原子の結合のイメージ
【図10 電子の入れる空位置も示したシリコン原子の結合のイメージ】

 

結合性軌道と反結合性軌道の関係

結合性軌道と反結合性軌道の関係を、縦軸にエネルギーをとってイメージ的に示せば図11のようになります。

 

結合性軌道、反結合性軌道
【図11 結合性軌道、反結合性軌道】

 

図の両側は、原子が単独で存在した時にsp3混成軌道に入っている電子が持つエネルギーです。
原子同士が近づくと新たに二つの分子軌道が形成されます。
結合性軌道に二つの電子が入った方がエネルギーは低くなりますので、反結合性軌道は空になるわけです。

このエネルギー図は一対の原子について示したものですが、結晶の中ではすべての隣り合う原子の間で結合が行われ、電子雲は重なり合って結晶中に広がっています。しかし、電子は同一の量子状態を占めることができないという原理(パウリの排他原理)があるため、結晶内の電子は、わずかにエネルギーが違う状態を占めることになります。

原子数が無限に増えると、重なり合ったエネルギー準位が連続したバンドを作り、電子が取り得るエネルギーは幅を持ったものになります。図12は、このことをイメージ的に示したものです。

 

共有結合結晶中の電子状態
【図12 共有結合結晶中の電子状態】

 

バンドキャップとは

絶対零度では、すべての電子は結合性軌道からなる価電子帯(valence band)に存在します。
一方、有限の温度(例えば室温)では、電子はある確率で、価電子帯から、反結合性軌道からなる伝導帯(conduction band)には励起されますが、禁制帯の中のエネルギーを持つ軌道がないため、電子がこの範囲のエネルギーを取ることは出来ません。禁制帯の幅を「バンドギャップ」と呼びます。

このバンドギャップの存在が半導体の特性に大きな影響を及ぼします

 

4.まとめ(おさらい)

今回のコラムでは以下のことをご説明しました。

  • 原子と原子がそれぞれ電子を出し合って両方の電子を共有することで出来る結合を「共有結合」と言う
  • 共有結合では、結合軌道反結合軌道の二つの電子の軌道ができる
  • それぞれの電子軌道は結晶中に広がって、結合軌道が価電子帯反結合軌道が伝導帯を作る
  • 電子は、価電子帯の上端と伝導帯の下端の間のエネルギーを取ることができず、この部分を「禁制帯」あるいは「バンドギャップ」と言う

理解しにくかった点については、イメージ図を確認しながら読み返してみましょう。

 
次回は、バンド構造とフェルミ準位について解説します。

 

(アイアール技術者教育研究所 H・N)

 

 

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