そもそも半導体とは?電気伝導の基本からわかりやすく解説
新聞やテレビ、ネットでも日本における半導体工場の建設ラッシュが報道されています。
情報通信の5Gから6Gへのさらなる高速化への要求、AIの普及などにより、新たな機能を持った半導体の開発が求められるとともに、量の上でも大きな成長が期待されています。
ところで、「半導体」って一体何でしょうか?
半導体デバイスに関する書物、講座は沢山ありますが、理解するのが難しく、「こういうものだ!」と無理やり納得されている方も多いのではないかと思います。
そこでこの連載コラムでは、「そもそも半導体とは何か」から始めて、「どういう理屈で半導体の性質がデバイスに使えるのか」というところを、あまり技術になじみのない方にもわかりやすく解説していきます。
とはいえ、完全な理解には量子力学の知識が必要で、一般の方にはそこまでの必要はないと思いますので、やはり「こういうものだ!」と言う部分が多少残ることはご容赦ください。
複数回に分けてお届けするコラムの前半(第1回~第5回)では、デバイスを考える前に材料としての半導体の電気的な性質を説明することに集中します。「そんなことは知っているよ」と言う方も、後半の、実際のデバイスの働きについての説明をより深く理解していただくために、頭の準備体操として読んでいただければと思います。
連載の1回目は、次のことを説明します。
- 物質の電気の通りやすさは、電気を運ぶ電子の数と電子の動きやすさで決まる
- 導体、半導体、絶縁体の違いは、主に電子の数の違いである
1.電気伝導のキホン
私たちの身の回りには様々な物質がありますが、電気を良く通すか通さないかという点から、導体と絶縁体、さらにはこれらの中間的な電気の通し方をする半導体に分けて考えるのが一般的です。
半導体について説明する前に、電気伝導とは何なのか、そのメカニズムを復習しておきましょう。
物質を電気が流れるとき、電流 I (A) と電圧 V (V) の間には、
V=RI
という関係が成り立ちます(オームの法則)。
この比例定数Rは電気抵抗(単位Ω)で電気の流れにくさの指標です。
しかし、これから先の説明では、電気の流れにくさではなく、電気の流れやすさで考える方が議論しやすいので、電気抵抗の逆数であるコンダクタンス(G)を用います。
するとオームの法則は、
I=V/R=GV
と書くことができます。
コンダクタンスと電気伝導度の考え方
図1のような物体があった場合、コンダクタンス(G)がどのような値になるのか考えてみましょう。
【図1 コンダクタンスを導く物体のモデル】
物体中には1cm3の体積当たり、n個の電子があるとします。
物質中を電気が流れるということは、物質中の電子が、外から印加された電圧が作る電界から力を受けて移動するということです。一つ一つの電子はバラバラな動きをしますが、全体を均してみれば平均速度で動くとみなすことができ、その速度は電界の強さに比例します。
物体の長さlに対して外部から電圧Vがかかりますから、物質中の電子に働く電界はV/l(V/cm)となり、電子は下式の平均速度(v)で流れます。
v=μV/l(cm/s)
μは「移動度」と呼ばれ、電子の動きやすさを表す、物質固有のものです。μの単位はcm2/Vsです。
【図2 物質中の電子が平均速度(v)で動く様子】
すると、図2に示すように1秒間に断面積×平均速度(=SμV/l)の体積分の電子が移動しますので、eを電子1個が持っている電荷(1.6×10-19クーロン)とすると
I=(enμS/l)V=GV
から、
G=enμS/l となります。
この式の意味を考えてみましょう。
後ろの方のS/l は物体の断面積が大きい方が、また長さが短い方がコンダクタンスが大きいことを反映しています。前の方のnμは物質に固有のもので、電子の数が多いほど、また電子が動きやすいほどコンダクタンスが大きくなることを示しています。
σ=neμ
を「電気伝導度」といい、物質の電流の流れやすさの指標になります。σの単位は、Ω-1cm-1 です。
2.導体、絶縁体、半導体の特性比較
導体、絶縁体、半導体を「電気伝導度」という尺度で区別することができます。
右の図は、室温における電気伝導度と一般的な分類での導体、絶縁体、半導体との関係を、いくつかの代表的な物質名とともに示したものです。
導体の代表は金属、絶縁体の代表は陶磁器やガラス等です。ここからは導体、ここからは半導体というように明確な定義があるわけではなく、「このあたりの範囲の電気伝導度をもつ物」という分け方です。
物質によって、電気伝導度にこれだけの違いがあるのは何に起因しているのかを、次に考えましょう。
電気伝導度は、既に説明したように電子の濃度nと移動度μの掛け算で表せますが、実は室温付近では移動度は物質ごとに大きくは変わりません。せいぜい数桁の違いです。つまり、電子濃度が物質ごとに大きく違っています。
下の表は、室温における典型的な電気伝導度、電子濃度、移動度を示したものです。
[導体、絶縁体、半導体の典型的な特性]
電気を運ぶ物を一般的に「キャリア」と呼び、上の場合電子濃度と言う代わりに「キャリア濃度」と言うことがあります。電子以外のキャリアとしては、イオン、電子が抜けた穴(正孔)などがあります。
(半導体を理解するうえで重要な概念である正孔については、当連載で別途説明します。)
次回は、半導体における電子のふるまいについて解説します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)
《 おまけ知識:「金属シリコン」とは? 》
「金属シリコン」と言う言葉を聞いたことがあるかもしれません。シリコンは半導体のはずなのに金属とは?
半導体として使われるシリコンの原料は、珪石(SiO2)で、これをコークス等の炭素源とともに加熱することで純度が98~99%のシリコンを得ます。これを「金属シリコン」と呼んでいます。
半導体として使われるシリコンは、この金属シリコンを原料に、さらに純度を上げたもので、その純度は”イレブンナイン“と言われます。つまり、99.999999999%です。
ではなぜ金属シリコンと呼ばれるかと言うと、金属シリコンの用途のほとんどが金属工業用(製鉄用の脱水素材、アルミニウムのシリコン合金等)で、半導体用は量としてはほんのわずかだからです。英語では、”Metallurgical Grade Silicon”と呼ばれます。
なお、金属シリコンはシリコーン樹脂の原料としても、半導体用よりもはるかに多い量が使われています。